ドラゴンテールドリーマーは現在メンテナンス中です

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
35 / 45

第5話 いつもの学校で (8/8)

しおりを挟む
通話アプリの通知を切って、私はDtDに入る。
坂口くんがあれからどうなったのか、それが気になっていた。

DtDにカタナがいなければ、クラスのグループ会話を遡って、坂口くんに直接聞いてみる……?
うーん。それはまだ、流石に勇気が出ないかな……。
カタナがいてくれたらいいんだけど。

ログインすれば、いつもの見慣れた草原。そこにカタナは居た。
人のまばらな草原の真ん中で、ポツンと立ち尽くしているような後ろ姿。
その背中がどこか寂しそうに見えてしまうのは、隣にあゆが居ないから……かな。
カタナのパーティーは昨日のままみたいなので、私はパーティー会話で声をかけてみる。

いつもなら、私がログインすればカタナの方が先に気付いて声をかけてくるんだけど……。
「やほー。何してるの?」
カタナの隣まで歩いていけば、ようやくカタナがこちらを見る。
その時、カタナの後ろに、見慣れたピンクの髪がログインした。

「あゆ!?」
私の言葉にカタナも振り返る。
「お前、あれから大丈夫だったのか?」
「んー、それが、親は仕事が忙しかったみたいで、迎えが来るまでずっとあのまま寝かされてたんだよね……。誰か起こしてくれたら良かったのに」
苦笑して言うあゆだけど、その表情はどこか悔しそうだった。
「今夜は寝られそうにないや……。せっかく昼夜逆転治ってきてたのになぁ……」
そっか……。あゆにはあゆの、頑張ってたことや辛いことがあるんだね。
いつでも寝られていいな。なんて話じゃないよね。
あゆが寝たくて寝てるわけじゃないのに……。
私は簡単に考えていた自分を内心で恥じながら、それでも無事な様子に少しホッとする。
「どこかぶつけたりしてなかったか?」
カタナが心配そうに尋ねる。
「それは大丈夫だったよ。クラスの女子が頭を守ってくれたって聞いたけど、えっと……」
「花坂さんだな。同じクラスになった時から、お前の苗字と一文字同じだなと思っていた」
私はDtDの画面内に出てきた自分の苗字になんだかドキッとしてしまう。
しかも、そんな前から冬馬くんは私の苗字を覚えててくれたんだ?
確かに坂口くんと「坂」の字は同じだけど……。
「うん、ボク一度も話した事ないんだよね。どの子か教えてくれる? 明日お礼言わなきゃ」
お礼なんていいよ。いつもお世話になってるのはこっちだし。って、言いたいけど、急に言っても驚くよね。えっと……。
私が、どう切り出そうか迷ううちに、カタナが戸惑う私に気付いた。
「ああ、みさみさに分からない話をしてすまないな、実は今日……」
カタナが、私に説明しようとしてくれる。
待って! 私、二人にもう嘘をつきたくない!!
知ってるよ! 私……――っ。
とにかく何か声を出そうと、私が口を開いた途端、ガタガタガタッとアイテムバッグから大きな音がして、きなこもちが飛び出した。

「「「きなこもち!?」」」
三人の声が揃う。
きなこもちは私たちに背を向けたまま、草の上に座り込んでいる。

「なんで急に……」
「ここは人目につく、ケースにしまった方がいい」
「う、うん」

私がきなこもちを戻そうと手を伸ばした瞬間、ビシッと何かが弾けるような音がして、きなこもちのすべすべのボディに亀裂が入る。
「え……」
「何……!?」
「下がれ!!」
カタナの指示に、私とあゆは慌ててきなこもちから離れる。

「どういう事……?」
私の声は小さく震えていた。
「……まだ分からないが、良い兆しではなさそうだ」
カタナはいつもの声で、でもいつもよりもっと早口に答える。

「……きなこもち? どうしたの……?」
私の声に、きなこもちはゆっくりこちらを振り返る。
小さくてつぶらな瞳があったところが、片方剥げ落ちて、中から黒い何かが覗いていた。

「……っ!」
「まさか……、アレが出てくるのか……!?」
カタナの言葉に、私の脳裏にもあの黒いバグの姿が浮かぶ。
恐怖に、ぞくりと背が震える。
「GMに――っ、……いや、もう少し様子を見よう……」
カタナは、それでも慎重に言葉を紡いだ。

カタナも、あの炎に焼き尽くされたバグの姿を思い出したのかな。
私と同じように、きなこもちをそうしたくないと、思ってくれたんだろうか。

きなこもちは、戸惑うように体を震わせている。
「ぷぃ……ヴ、ル……ヴルルル……」
可愛く鳴こうとしたその声は、低く暗い唸り声に変わった。
ビシビシッと小さな亀裂がすべすべだったボディに走る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒミツのJC歌姫の新作お菓子実食レビュー

弓屋 晶都
児童書・童話
顔出しNGで動画投稿活動をしている中学一年生のアキとミモザ、 動画の再生回数がどんどん伸びる中、二人の正体を探る人物の影が……。 果たして二人は身バレしないで卒業できるのか……? 走って歌ってまた走る、元気はつらつ少女のアキと、 悩んだり立ち止まったりしながらも、健気に頑張るミモザの、 イマドキ中学生のドキドキネットライフ。 男子は、甘く優しい低音イケボの生徒会長や、 イケメン長身なのに女子力高めの苦労性な長髪書記に、 どこからどう見ても怪しいメガネの放送部長が出てきます。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

時空捜査クラブ ~千年生きる鬼~

龍 たまみ
児童書・童話
一学期の途中に中学一年生の教室に転校してきた外国人マシュー。彼はひすい色の瞳を持ち、頭脳明晰で国からの特殊任務を遂行中だと言う。今回の任務は、千年前に力を削ぎ落し、眠りについていたとされる大江山に住む鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の力の復活を阻止して人間に危害を加えないようにするということ。同じクラスの大祇(たいき)と一緒に大江山に向かい、鬼との接触を試みている間に女子生徒が行方不明になってしまう。女子生徒の救出と鬼と共存する未来を模索しようと努力する中学生の物語。<小学校高学年~大人向け> 全45話で完結です。

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...