ドラゴンテールドリーマーは現在メンテナンス中です

弓屋 晶都

文字の大きさ
5 / 45

第1話 夢の中の出会い (5/7)

しおりを挟む
「DtDは今日が初めて?」
カタナさんに尋ねられたそれが、このゲーム略称なんだと気付いて頷く。
ドラゴンテールドリーマーで、略してDtDってことなんだね。
「公式サイトは見た?」
「あんまり……」
「今レベルはいくつ?」
「えーと……10です」
何だか、あまりの初心者ぶりにだんだん申し訳なくなってくる。
「チュートリアルが終わってすぐってとこか」
カタナさんは、すぐに私の状態を理解して空を見上げた。
「どのワールドがいいかな……」
私もつられて見上げれば、広い広い不思議色の空にたくさんの大きなシャボン玉が浮かんでいる。
ゲームの中だと分かっていても、やっぱりどこか不思議な気持ちになってしまう。
色とりどりの様々な世界にはきっと、私の見たこともない景色がたくさん詰まっていて、見たことのない生き物がいるんだろうなぁ。
一人きりで見上げた広すぎる空はなんだか不安だったのに。こうやってカタナさんときなこもちと一緒に眺めているとワクワクドキドキする気持ちが胸に湧いてきた。
「ワールド……って、これですか?」
頭上のシャボン玉を指差せば、カタナさんが頷いた。
確かチュートリアルでもそんなことを言われた気がする。
「途中で接続が切れてはぐれるといけないから、セーブポイントをここにしておこう。ここはEサーバーのワールドセレクトルームという名で表示される」
カタナさんに説明されるままに、私はここの場所をセーブポイントにする。
「もしワールド内で俺か君が落ちたり死んだりしてしまった時は、ここに戻ってきて」
私は、さっきからカタナさんが多用していた感情表現のスタンプっぽい機能を使って『了解!』と書かれたマークを出した。
この時カタナさんが『本当はフレンド登録してパーティーに誘いたかったけど、初めての相手にどうかと思って遠慮した』というのは、後から知った話だ。

「この手前の3つのワールドが初心者用なんだが、手持ちの装備だと……ここがいいだろうな」
カタナさんがそう言って示したワールドは、ふわふわの雲の上の世界のような、いかにも平和そうな小さめのシャボン玉だった。

そっか。ちょっと残念だなぁ。
私は、ダメ元で聞いてみる。
「あのお菓子の国みたいなワールドは難しいんですか?」
「あそこは結構強い敵が出るから、レベル30越えるまでロックがかかってて入れない。あの人魚のいるワールドと大瀑布のワールドも30までは入れないよ」
言われて、やっぱりそうなんだ……。と思う。
スマホゲームじゃ匂いも味もしなくても、夢の中なら美味しいお菓子を食べられそうな気がしたんだけどなぁ。
まあ、こればかりはしょうがないか。
「今すぐ入れるワールドは、これと、これと、これだ」
示された初心者用のワールドは、どれも平和そうだった。
確かに、怖い目に遭ったり痛い目に遭うのは、今は嫌かも……。
私は思い直すと「カタナさんのおすすめの所で」と笑って答えた。

言われるままにワールドを選んで『はい』のボタンを押せば、ギュンと視界が変わって、私はふわふわの雲の上にいた。
なんだか甘いお砂糖みたいな匂いがする。この雲ってわたあめだったりするのかな?
足の裏が一歩毎に少し沈んで歩きにくい。

「このナイフなら装備できるはずだから、これを使ってくれ」
カタナさんが自分の所持アイテムの中から私に何か送ってくれる。
『受け取りますか?』の下の『はい』を押したら、私のアイテム欄に何やら色々バフのついてそうな長い名前のナイフが届いた。
「お借りしていいんですか?」
「そのナイフここの敵にダメージがよく通るから。命中も上がるし」
私の弓より効率がいいって事かな。じゃあ、断るのも悪いし……。
「ありがとうございます」
えーと、装備はこうだったよね。
チュートリアルを思い出しながら装備すると、カタナさんが小さく頷いた。

「お。ちょうど湧いたな。叩くぞ」
カタナさんの指す先に雲の下からもこもこと姿を現したのは、雲と同じ白くてふかふかの雪兎のようなものだった。
「かっ、可愛い……っ」
思わず声に出してしまった私に、カタナさんが大きく頷く。
「ああ、可愛いよなぁ」
……この人可愛いもの好きだよね。
「た、倒すんですか? あれを?」
「倒してくれ、あれを」
私があまりの可愛らしさに迷っていると、敵の方からこちらに向かってくる。
「え、き、来ましたよ!?」
「アクティブだからな」
なんだっけ、確かチュートリアルでは向こうから襲ってくる敵とそうじゃないのがいるって言われたっけ。
ぽふん。っとふかふかの体で体当たりをされて、小さくよろける。
「うっ。ふかふかですぅっ」
こんなふかふかな攻撃なら、むしろ歓迎したい気もする。
「でもダメージ喰らってるぞ」
「ええっ」
見れば確かに、私の体から血のように赤い色をした数字が出ている。
それは1とか2とかだけれど。
私のHPはまだ全部で50くらいしかないので、のんびりはしていられない。
心の中でごめんねと唱えつつふわふわの兎を斬りつけると、それは2回目で「きゅう」と鳴いて倒れた。
ふわふわのおかげか、肉を割くような感触はなくて助かったけど……。
「うう、なんだか罪悪感が……」
私の呟きに、カタナさんが苦笑した。
「それは、悪かった」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

合言葉はサンタクロース~小さな街の小さな奇跡

辻堂安古市
絵本
一人の少女が募金箱に入れた小さな善意が、次々と人から人へと繋がっていきます。 仕事仲間、家族、孤独な老人、そして子供たち。手渡された優しさは街中に広がり、いつしか一つの合言葉が生まれました。 雪の降る寒い街で、人々の心に温かな奇跡が降り積もっていく、優しさの連鎖の物語です。

処理中です...