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第1話 夢の中の出会い (5/7)
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「DtDは今日が初めて?」
カタナさんに尋ねられたそれが、このゲーム略称なんだと気付いて頷く。
ドラゴンテールドリーマーで、略してDtDってことなんだね。
「公式サイトは見た?」
「あんまり……」
「今レベルはいくつ?」
「えーと……10です」
何だか、あまりの初心者ぶりにだんだん申し訳なくなってくる。
「チュートリアルが終わってすぐってとこか」
カタナさんは、すぐに私の状態を理解して空を見上げた。
「どのワールドがいいかな……」
私もつられて見上げれば、広い広い不思議色の空にたくさんの大きなシャボン玉が浮かんでいる。
ゲームの中だと分かっていても、やっぱりどこか不思議な気持ちになってしまう。
色とりどりの様々な世界にはきっと、私の見たこともない景色がたくさん詰まっていて、見たことのない生き物がいるんだろうなぁ。
一人きりで見上げた広すぎる空はなんだか不安だったのに。こうやってカタナさんときなこもちと一緒に眺めているとワクワクドキドキする気持ちが胸に湧いてきた。
「ワールド……って、これですか?」
頭上のシャボン玉を指差せば、カタナさんが頷いた。
確かチュートリアルでもそんなことを言われた気がする。
「途中で接続が切れてはぐれるといけないから、セーブポイントをここにしておこう。ここはEサーバーのワールドセレクトルームという名で表示される」
カタナさんに説明されるままに、私はここの場所をセーブポイントにする。
「もしワールド内で俺か君が落ちたり死んだりしてしまった時は、ここに戻ってきて」
私は、さっきからカタナさんが多用していた感情表現のスタンプっぽい機能を使って『了解!』と書かれたマークを出した。
この時カタナさんが『本当はフレンド登録してパーティーに誘いたかったけど、初めての相手にどうかと思って遠慮した』というのは、後から知った話だ。
「この手前の3つのワールドが初心者用なんだが、手持ちの装備だと……ここがいいだろうな」
カタナさんがそう言って示したワールドは、ふわふわの雲の上の世界のような、いかにも平和そうな小さめのシャボン玉だった。
そっか。ちょっと残念だなぁ。
私は、ダメ元で聞いてみる。
「あのお菓子の国みたいなワールドは難しいんですか?」
「あそこは結構強い敵が出るから、レベル30越えるまでロックがかかってて入れない。あの人魚のいるワールドと大瀑布のワールドも30までは入れないよ」
言われて、やっぱりそうなんだ……。と思う。
スマホゲームじゃ匂いも味もしなくても、夢の中なら美味しいお菓子を食べられそうな気がしたんだけどなぁ。
まあ、こればかりはしょうがないか。
「今すぐ入れるワールドは、これと、これと、これだ」
示された初心者用のワールドは、どれも平和そうだった。
確かに、怖い目に遭ったり痛い目に遭うのは、今は嫌かも……。
私は思い直すと「カタナさんのおすすめの所で」と笑って答えた。
言われるままにワールドを選んで『はい』のボタンを押せば、ギュンと視界が変わって、私はふわふわの雲の上にいた。
なんだか甘いお砂糖みたいな匂いがする。この雲ってわたあめだったりするのかな?
足の裏が一歩毎に少し沈んで歩きにくい。
「このナイフなら装備できるはずだから、これを使ってくれ」
カタナさんが自分の所持アイテムの中から私に何か送ってくれる。
『受け取りますか?』の下の『はい』を押したら、私のアイテム欄に何やら色々バフのついてそうな長い名前のナイフが届いた。
「お借りしていいんですか?」
「そのナイフここの敵にダメージがよく通るから。命中も上がるし」
私の弓より効率がいいって事かな。じゃあ、断るのも悪いし……。
「ありがとうございます」
えーと、装備はこうだったよね。
チュートリアルを思い出しながら装備すると、カタナさんが小さく頷いた。
「お。ちょうど湧いたな。叩くぞ」
カタナさんの指す先に雲の下からもこもこと姿を現したのは、雲と同じ白くてふかふかの雪兎のようなものだった。
「かっ、可愛い……っ」
思わず声に出してしまった私に、カタナさんが大きく頷く。
「ああ、可愛いよなぁ」
……この人可愛いもの好きだよね。
「た、倒すんですか? あれを?」
「倒してくれ、あれを」
私があまりの可愛らしさに迷っていると、敵の方からこちらに向かってくる。
「え、き、来ましたよ!?」
「アクティブだからな」
なんだっけ、確かチュートリアルでは向こうから襲ってくる敵とそうじゃないのがいるって言われたっけ。
ぽふん。っとふかふかの体で体当たりをされて、小さくよろける。
「うっ。ふかふかですぅっ」
こんなふかふかな攻撃なら、むしろ歓迎したい気もする。
「でもダメージ喰らってるぞ」
「ええっ」
見れば確かに、私の体から血のように赤い色をした数字が出ている。
それは1とか2とかだけれど。
私のHPはまだ全部で50くらいしかないので、のんびりはしていられない。
心の中でごめんねと唱えつつふわふわの兎を斬りつけると、それは2回目で「きゅう」と鳴いて倒れた。
ふわふわのおかげか、肉を割くような感触はなくて助かったけど……。
「うう、なんだか罪悪感が……」
私の呟きに、カタナさんが苦笑した。
「それは、悪かった」
カタナさんに尋ねられたそれが、このゲーム略称なんだと気付いて頷く。
ドラゴンテールドリーマーで、略してDtDってことなんだね。
「公式サイトは見た?」
「あんまり……」
「今レベルはいくつ?」
「えーと……10です」
何だか、あまりの初心者ぶりにだんだん申し訳なくなってくる。
「チュートリアルが終わってすぐってとこか」
カタナさんは、すぐに私の状態を理解して空を見上げた。
「どのワールドがいいかな……」
私もつられて見上げれば、広い広い不思議色の空にたくさんの大きなシャボン玉が浮かんでいる。
ゲームの中だと分かっていても、やっぱりどこか不思議な気持ちになってしまう。
色とりどりの様々な世界にはきっと、私の見たこともない景色がたくさん詰まっていて、見たことのない生き物がいるんだろうなぁ。
一人きりで見上げた広すぎる空はなんだか不安だったのに。こうやってカタナさんときなこもちと一緒に眺めているとワクワクドキドキする気持ちが胸に湧いてきた。
「ワールド……って、これですか?」
頭上のシャボン玉を指差せば、カタナさんが頷いた。
確かチュートリアルでもそんなことを言われた気がする。
「途中で接続が切れてはぐれるといけないから、セーブポイントをここにしておこう。ここはEサーバーのワールドセレクトルームという名で表示される」
カタナさんに説明されるままに、私はここの場所をセーブポイントにする。
「もしワールド内で俺か君が落ちたり死んだりしてしまった時は、ここに戻ってきて」
私は、さっきからカタナさんが多用していた感情表現のスタンプっぽい機能を使って『了解!』と書かれたマークを出した。
この時カタナさんが『本当はフレンド登録してパーティーに誘いたかったけど、初めての相手にどうかと思って遠慮した』というのは、後から知った話だ。
「この手前の3つのワールドが初心者用なんだが、手持ちの装備だと……ここがいいだろうな」
カタナさんがそう言って示したワールドは、ふわふわの雲の上の世界のような、いかにも平和そうな小さめのシャボン玉だった。
そっか。ちょっと残念だなぁ。
私は、ダメ元で聞いてみる。
「あのお菓子の国みたいなワールドは難しいんですか?」
「あそこは結構強い敵が出るから、レベル30越えるまでロックがかかってて入れない。あの人魚のいるワールドと大瀑布のワールドも30までは入れないよ」
言われて、やっぱりそうなんだ……。と思う。
スマホゲームじゃ匂いも味もしなくても、夢の中なら美味しいお菓子を食べられそうな気がしたんだけどなぁ。
まあ、こればかりはしょうがないか。
「今すぐ入れるワールドは、これと、これと、これだ」
示された初心者用のワールドは、どれも平和そうだった。
確かに、怖い目に遭ったり痛い目に遭うのは、今は嫌かも……。
私は思い直すと「カタナさんのおすすめの所で」と笑って答えた。
言われるままにワールドを選んで『はい』のボタンを押せば、ギュンと視界が変わって、私はふわふわの雲の上にいた。
なんだか甘いお砂糖みたいな匂いがする。この雲ってわたあめだったりするのかな?
足の裏が一歩毎に少し沈んで歩きにくい。
「このナイフなら装備できるはずだから、これを使ってくれ」
カタナさんが自分の所持アイテムの中から私に何か送ってくれる。
『受け取りますか?』の下の『はい』を押したら、私のアイテム欄に何やら色々バフのついてそうな長い名前のナイフが届いた。
「お借りしていいんですか?」
「そのナイフここの敵にダメージがよく通るから。命中も上がるし」
私の弓より効率がいいって事かな。じゃあ、断るのも悪いし……。
「ありがとうございます」
えーと、装備はこうだったよね。
チュートリアルを思い出しながら装備すると、カタナさんが小さく頷いた。
「お。ちょうど湧いたな。叩くぞ」
カタナさんの指す先に雲の下からもこもこと姿を現したのは、雲と同じ白くてふかふかの雪兎のようなものだった。
「かっ、可愛い……っ」
思わず声に出してしまった私に、カタナさんが大きく頷く。
「ああ、可愛いよなぁ」
……この人可愛いもの好きだよね。
「た、倒すんですか? あれを?」
「倒してくれ、あれを」
私があまりの可愛らしさに迷っていると、敵の方からこちらに向かってくる。
「え、き、来ましたよ!?」
「アクティブだからな」
なんだっけ、確かチュートリアルでは向こうから襲ってくる敵とそうじゃないのがいるって言われたっけ。
ぽふん。っとふかふかの体で体当たりをされて、小さくよろける。
「うっ。ふかふかですぅっ」
こんなふかふかな攻撃なら、むしろ歓迎したい気もする。
「でもダメージ喰らってるぞ」
「ええっ」
見れば確かに、私の体から血のように赤い色をした数字が出ている。
それは1とか2とかだけれど。
私のHPはまだ全部で50くらいしかないので、のんびりはしていられない。
心の中でごめんねと唱えつつふわふわの兎を斬りつけると、それは2回目で「きゅう」と鳴いて倒れた。
ふわふわのおかげか、肉を割くような感触はなくて助かったけど……。
「うう、なんだか罪悪感が……」
私の呟きに、カタナさんが苦笑した。
「それは、悪かった」
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