ヒミツのJC歌姫の新作お菓子実食レビュー

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
46 / 51

4話 音と心(4/7)

しおりを挟む
「もーダメェェェ。緊張で口から心臓出ちゃうよぅぅぅ」
涙目のミモザの肩をアキがぽんぽんと励ます。
今日はついに生放送の日だ。
あと十分ほどで出演者は部屋に全員集まることになっている。

しかし、空はまだ来ていなかった。

「空さんまだかな……」
テレビ局のスタジオから長いエスカレーターを下りた所にある土産物売り場前のテラスから、アキが身を乗り出すようにして辺りを見回している。
「あいつ方向音痴なんだよな……。せめて駅で待ち合わせて一緒に来るべきだったわ、しくじった……」
アキから少し距離を置いたところでは、新堂がミモザとコソコソ話していた。
私服の新堂は細身のジーンズに手描き柄のスニーカー、分厚い細身のフーディーとキャップというラフな格好だ。
一方でミモザとアキはいつもの学生服を着ている。
「音痴なだけじゃなく、方向まで……」
ミモザが呟けば、新堂は頭を抱えた。
「ぎりっぎりまで曲調節してたからなぁ。ちゃんと飲み食いしてたかどうか……。その辺で倒れてんじゃねーといいけど……」
二人の会話を聞こえないふりで過ごしていたアキだったが、その言葉は聞き逃せなかった。
「私、ちょっと探しに行ってくるっ」
パッと手すりを離すと、アキは振り返る事なく下りのエスカレーターに飛び乗る。
「アキちゃんっ!?」
「えっ、ちょっ、お前はここにいろって、歌うやつがいなきゃヤバいだろっ!」
慌てて追おうとする新堂の服の裾にミモザが慌ててしがみついた。
「ひ……一人に、しないでください……っっ」
引き止められて、新堂は足を止める。
本番が迫るにつれて青ざめつつあったミモザの顔はいよいよ真っ青だ。
「だよなぁぁぁぁぁぁぁ。こんなとこに一人で置いてくわけにいかねーよな……」
元々新堂は、先日の麗音のようにアキやミモザを特定して声をかけて来るような輩から二人を守るために、空ではなく二人と待ち合わせをしていた。
だからこんなところでバラバラになっては意味がない。
……すでに一人はいなくなってしまったが。
テラスから下を見れば、長いエスカレーターを降りたアキが相変わらずの瞬足で向こうに広がる地下通路に入ってゆくのが見えた。
なんとなく、アキなら変な奴に声をかけられたところでダッシュで逃げ切れそうな気もする。
ここはとにかく俺はミモザちゃんのそばにいた方がいいだろうな。と彼女を見れば、ミモザはアキの走っていった方向をジッと見つめていた。

「それに、アキちゃんなら、空さんをみつけて、きっと帰ってきます……」
一つずつ、祈るように紡ぎ出される言葉。
アキとミモザの間にある強い信頼を感じて、新堂はちょっと妬けてしまう。
「じゃあ、もし帰ってこなかったら……?」
新堂としては、ちょっとした冗談のつもりだった。
けれど、くるりとこちらを見上げたミモザの目は据わっていた。
「帰って、来なかったら……? その時は……新堂さん、私と一緒に歌ってくれますよね……?」
「え……えええ……? だって、女子二人ユニットって……」
新堂のこめかみを、冷や汗が伝う。
やばい。ミモザちゃんの目がマジだ。
「新堂さんなら髪も長いし、きっと女の子に見えますから……」
「い、いやあ無理過ぎんだろっっっっっ!? 空っ!! アキちゃんっ!! 早く帰ってきてくれぇぇぇぇぇ!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

【完結】だるま村へ

長透汐生
児童書・童話
月の光に命を与えられた小さなだるま。 目覚めたのは、町外れのゴミ袋の中だった。 だるまの村が西にあるらしいと知って、だるまは犬のマルタと一緒に村探しの旅に出る。旅が進むにつれ、だるま村の秘密が明らかになっていくが……。

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

処理中です...