ヒミツのJC歌姫の新作お菓子実食レビュー

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
42 / 51

3話 放送室と部長 (20/20)

しおりを挟む
「会長さん、新堂さん、お待たせしてしまってすみません」
ミモザがパタパタと駆け寄り録音室とミキサー室を繋ぐ扉を開く。
ミモザは新堂を見なかったが、新堂は名前を呼ばれただけで酷く感動していた。
麗音は少し落ち着いたのか、窓際のパイプ椅子に座っている。
アキ達の提案は空の声を録音させてくれという内容だった。
「ぼ……僕は……すごくその……、音痴で、歌は歌えないんだけど……」
真っ赤な顔でコンプレックスを白状した陸空に麗音は「構わない」と答える。
麗音の曲は歌詞のないもので、音声そのものさえ取れれば音程は麗音が調節するので素材として使わせてほしいとのことだった。
陸空は麗音の述べた音声データの用途……生放送での利用には驚いたが、その要求を受け入れた。

「んで俺は? 俺は何したらいーわけ?」
キョロキョロする新堂に、アキが言う。
「あ、新堂さんには会長さんが嫌だって言った時に説得してもらおうと思っただけなので、もう大丈夫です」
「え、俺もう用済みなの?」
「はい」
笑顔で答えたアキが、陸空へ向き直る。
「会長さん、お忙しいところお時間取らせちゃってごめんなさい。あ、生徒会のお仕事滞っちゃいましたか? 私達で手伝えることがあったら何でも言ってくださいね」
いつもと同じ明るい笑顔で言われて、陸空はもやもやする気持ちのまま口を開いてしまう。
「……暁さん達はどうしてここにいたの?」
「えっ?」
陸空に問われて、アキが肩を揺らした。
いつもの甘く優しい低音ボイスに、どことなく凄みが篭っている。
アキは内心冷や汗をかきつつ言い訳を並べた。
「えっと……時期外れではあるんですけど、私達帰宅部なので……、放送部を見学させてもらってました」
「……本当に?」
元々低い陸空の声がもう一段階下がると、どこか恐怖を感じる音に変わる。
アキは内心で会長に謝りつつ、じっとこちらを見つめてくる黒い瞳からなんとか視線を逸らして答えた。
「……ほ、ほんとに……」
アキから視線を逸らされた途端、陸空は息の詰まるような衝撃を受けた。
間違えた。自分はなんて事を口にしてしまったのか。
心に大穴が空いたような、何か大切なものを失ってしまったような感覚だ。
いつだって、真っ直ぐ話しかけてくれる子だった。
もさもさの前髪と分厚い眼鏡をものともせずに、こちらの目を覗き込んでくれる子だった。
それなのに。まさかこんなに近くで、彼女に視線を逸らされるなんて。
嘘のないまっすぐな彼女に、僕が……嘘をつかせてしまうなんて。

「んなはずないだろ、じゃあなん――」
「新堂は黙ってて」
「……っ」
横槍を入れてくる新堂を黙らせる。
これ以上彼女に嘘なんか言わせたくない。
陸空は慎重に言葉を選んだ。
「何も、怖い目にはあってない……?」
「は、はいっ」
今度は顔を上げてしっかり頷くアキ。
陸空はホッとする表情を隠すことなく見せた。
「……それなら、良かった……」

陸空は踵を返すと放送室の扉へ向かう。
「じゃあ僕はこれで。迷惑をかけて悪かったね。鈴木くん、治療費は遠慮なく新堂に請求して。校内の怪我ということで学校の保険も使えるから、受診前に書類を保健室で受け取っておくといいよ」
扉の前で立ち止まり、必要事項を説明してから部屋を出る陸空。
その後を新堂が追おうとして、扉の前で振り返った。
「鈴木、いきなり殴って本当に悪かった。後からでも殴り返したくなったら声かけてくれよ」
出て行こうとする新堂の後ろ髪をアキが慌てて掴む。
「あ、新堂さんっ」
「うげっ」
「これ絆創膏、よかったらどうぞ」
「あー。さんきゅな。今首グキっつったけどな」
「麗音さんの顔はバキってなってますから、おあいこですよ」
にっこり笑って言われて、新堂が引き攣る。
「もしかして俺、明希ちゃんにもしっかり嫌われた感じ?」
「どうでしょうねー? あ、生徒会のお仕事は……」
「こっちは平気だよ、今日は荷出しだけだから。んじゃ、邪魔して悪かったな」
新堂は、言いながら麗音の隣に座るミモザの表情をうかがう。
ミモザは新堂の視線から逃れるように、慌てて隣の麗音に話しかけた。

「あっ、あの、部長さん。頬は明日にかけてもっと腫れてくると思うので……」
アイシングのやり方や傷口の消毒手順を説明するミモザに、麗音は小さく首を傾げる。
「貴女は何故こうも応急処置に詳しいのだ?」
「えっと、母が看護士で父が消防士なんです、それで幼い頃から……」
ミモザがちらと扉を見れば、もうそこに新堂の姿はなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

処理中です...