上 下
37 / 51

3話 放送室と部長 (15/20)

しおりを挟む
「麗音さん、言うこと聞かないと秘密をバラすぞーとか一度も言ってないよ?」
アキにけろりと言われて、そうだろうかとミモザが今までの会話を思い返す。
「我にそんなつもりはない。が、誤解させたならば謝罪する。すまなかった」
真摯に頭を下げられて、ミモザの胸が痛む。
「これも返却しよう。強引な手段を取った事、重ねて謝罪する」
アキが麗音から歌詞の紙を受け取る。
アキはミモザを肩越しに振り返ると小声で話した。
「多分だけど、屋上から場所を変えたのは、私達が身バレしないように気を遣ってくれたんだと思うよ。それに私達麗音さんから逃げ回ってたでしょ? こうでもしないと話ができなかったんじゃないかなぁ?」
その向こうで麗音がしかめ面のまま目を伏せて頷いた。
「ええっ!? わ、わかりにくいよぅ……」
ミモザが頭を抱える。ミモザは、同じ失敗を繰り返す自分が嫌になる。
アキはそんなミモザの肩をポンと叩いた。
温かい手のひらから、アキの気持ちが伝わる。
「麗音さん、私、麗音さんの音楽聞いてみたいですっ」
アキにそう言われた麗音は一瞬驚いた顔をして、それからずっと顰めていた眉を少しだけ緩めて頷いた。
「うむ」
麗音が手慣れた仕草で音源を繋いでミキサーを操作する。
放送室に溢れ出す音の洪水に、アキとミモザは圧倒された。
ジリジリと底から迫り上がってくる音に、バラバラと降り注ぐ音。
ほんの少しずつズレてゆくタイミングが、またピッタリ揃った瞬間、全ての音がひとつになった。
見上げきれないほどの音の波。壁のようなそれが真上から降ってくる。
圧倒的な重みを持って、頭から音の波に食われる。
背筋が震えて息を吸うこともできない。
そんな感覚に、二人は飲み込まれた。

「……っ、すご……い……」
アキの言葉に、ようやくミモザも我に返る。
「うん……。私、息するの、忘れちゃってた……」
「こんな音楽、私聞いたことないよ……。音がいっぱいいっぱい重なって……」
「そうだね、和音が多いのかな。重い音……。低くて、濁って、ちょっと怖い……」
「あ、歌入ってるね。でも言葉じゃないんだ?」
「合成音声のスキャットがコーラスになって……声も沢山重なってくる……」
「ぅぅー、ゾクゾクする感じ、すっごい……。鳥肌立ちそう」
「うん、中学生が作ったとは思えないくらい、なんかこう、色気があるよね……」
「ね、ミモザ。私達の声って……この曲に合うと思う?」
「うーん……、あんまり……」
「やっぱり? 私も……」

麗音はそんな二人の会話を複雑そうな顔で聞いている。
ミモザはそんな麗音の表情をチラとうかがった。やはり彼もそれには気付いていたのだろう。

「こう、私達よりもっと低い声で、色気があって……」
終わり始めた曲を噛み締めながら、アキはこの音楽に合う声を想像する。
「うんうん、聞くだけでぞくぞくしちゃうような、大人の声が似合いそうよね」
ミモザもそれに同意する。

「あ、分かった! この曲に合う声!!」
ハッとした表情で、ぽんと両手を叩くアキ。
アキのキラキラした瞳を見て、ミモザもピンときた。

突如、部屋の扉をドンドンと叩かれる。
「放送部さんいらっしゃいますか?」
被せるように問いかける声は、低く痺れるようなイケボだった。

「「この声っ!」」
アキとミモザが声を揃える。
「麗音さんっ、この声、麗音さんの音楽にぴったりじゃないですか!?」
アキが興奮気味に訴えれば、麗音も顰めた眉で頷く。
「確かに、似合いだが……。何故彼は此処へ?」
ミモザはハッとする。
ここへ麗音の予定外の訪問者が来るとすれば、それは空しかいない。
もしものために、ミモザはアキから空へRINEを送らせていた。
『放送部長さんに呼び出されたので、放課後放送室に行くことになりました』と。

「麗音さん、生徒会長にお願いしてみましょうよっ」
「しかし、急にかような提案を……」
「私この曲好きですよっ。ここに会長の声が入ったら、きっとこの曲もっと素敵になりますよっ!」 
アキは興奮気味にぐいぐいと麗音に詰め寄る。
麗音はアキが一歩近づく毎に、一歩後退っていた。

「……どなたか、いらっしゃいますよね?」
扉の向こうからは、いつもよりさらに低くドスの利いた声がする。

「と、とりあえず扉を開けよう? ね?」
ミモザは気まずい気分で、自分の責任を取るべく扉に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【シリーズ1完】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~シリーズ2

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?   ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...