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3話 放送室と部長 (12/20)

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「これは、先日動画に載せていた歌詞そのもので間違いないな?」
「放送部長さん!?」
「ほう……、我を把握していたとはな」
アキの言葉に放送部長はゆっくり腕を組むと、斜めに分けられた長めの前髪の間から黒い瞳で笑む。
「それ返してください」
「返せとは、つまり貴女らがこれの持ち主だという事だな?」
素直に頷こうとするアキを、ミモザが止める。
「待ってアキちゃん」
ミモザの制止に、部長はくつくつと喉の奥を鳴らした。
「賢明だ。今この場で話をすれば困るのは貴女らであろう。これは我が所持しておく。放課後放送室までご足労願おう」
それだけを告げると、部長は二人に背を向ける。

「え? え?? どういう事……?」
混乱するアキに、ミモザが「あの紙は部長さんが預かるから、放課後放送室に取りに来いって」と訳す。
「あの人いつの時代の人なの……?」
首を傾げるアキの隣で、ミモザは考える。
部長さん=空さん説は望み薄かも知れない。
それでももし、本当に空さんがこの学校の生徒なら、伝えておけば何かあった時に助かる可能性がある。
「アキちゃん、今すぐ空さんにRINEして!」
「えっ?」

***

放課後、アキは一人で放送室に行こうとしていた。
ミモザをこれ以上、怖い目に遭わせたくはなかった。
けれどミモザはそんなアキの行動を読んでいた。
「……アキちゃん?」
こそこそと屈んだ姿勢でミモザのクラスの前を通り過ぎようとしていたアキに、ミモザの冷ややかな視線が刺さる。
「もぅ、アキちゃんはいっつもそうなんだから」
呆れたように息を吐くミモザの声は、それでも震えていた。
アキはゆっくり立ち上がって言う。いつもと変わらない笑顔で。
「私一人で行く方がきっといいよ。私が戻らなかったら、ミモザが先生を呼んでくれるでしょ?」
ミモザはぎゅっと両手を握りしめた。
今すぐにでも逃げてしまいたい弱い心を、握り潰すように。
「そんな……何をされるか分からないような人のとこに、私がアキちゃんを一人で行かせると思うの?」
「愛花……」
「アキちゃんは、私がいないとダメなんでしょ!?」
叫ばれて、アキはぱちくりと目を瞬かせ、それから破顔する。
「うんっ!」

放送室のある廊下の端からそっとのぞけば、放送部長は放送室の前の廊下で仁王立ちしていた。
仏頂面を隠す事なく、廊下を通る生徒達を睨みつけている。
「……部長さんっていつもあんな感じなの?」
アキの呟きに、ミモザが頷く。
「放送部の三門ちゃんによると、部長さんはちょっと癖が強いけど悪い人じゃないって。あと音楽センスが抜群で、私達の曲選んだのも部長さんらしいよ」
そう言われたところでミモザには悪い人にしかみえなかったが、アキは違うのか「そうなの!?」と瞳を輝かせた。
「でもアキちゃん、今私達は歌詞の紙を餌に呼び出されてるのよ? こんな事をする人が悪い人じゃないなんて、私には思えないよ……」
ミモザの肩をポンと叩いて、アキが明るく言う。
「とにかく行ってみよ。部長が私達をどうしたいのかなんて、話聞いてみないと分かんないよ」
「ぅぅ、アキちゃん度胸ありすぎだよぅ……」
背筋を伸ばして歩くアキの後ろを、ミモザはとぼとぼ歩いた。
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