上 下
33 / 51

3話 放送室と部長 (11/20)

しおりを挟む
翌朝、アキが坂の下にたどり着くとミモザが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。
「ちょっとアキちゃんっ! 大地さん男の人だったよぅ!?」
「あれ? 言ってなかったっけ……??」
「知ってたんなら教えてよぅ!」
ミモザの勢いに、アキは両手で小さく壁を作りつつ後ろに下がる。
「ごめんごめん。えっと……どうだった?」
「それが、大地さんとっても話しやすくて、少女漫画の話ですごく盛り上がっちゃった!」
「へぇ」
「私の好きな作品全部知ってて! 好きなキャラも一緒で!! 解釈も、私と違ってるとこもなるほどなぁって納得できて、本当にすごいのっっ!!」
こんなにテンションが上がってるミモザの姿も珍しいなと思ってから、前回こんな姿を見たのも同じく大地さんの話だったかと思う。
アキ自身も漫画は読むが、ギャグやバトルの詰まった少年漫画の方が好みで、ミモザはきっと長い間少女漫画トークができる友達が欲しかったんだろうな。と思う。
何せミモザはもう何年も大地さんの絵と、話す言葉を追いかけていたわけだから。
気は合って当然なんだろう。

「よかったね」
一息話し終えたミモザに声をかければ「うんっ」と晴れやかな笑顔が返ってきた。

「あーっ。会長は今日もイケボだねー……。ねっミモザっ!」
アキはもう会長の声を耳にしたのか、まだ坂の中ほどで正門を見上げる。
「同意を求められても、まだ私には聞こえないよぅ」
ミモザの耳には低めの会長の声より、男子にしては高めの新堂の声の方がまだ先に聞こえてくる。新堂は地声が高いというよりも、明るく軽やかな声でわざと話しかけやすい雰囲気を作っているような気がする。
正門を見れば、今朝もしっかり新堂と目が合ってしまって、ミモザは内心うろたえた。
「おっはよーございまーすっ!!」
元気に挨拶したアキに、声が重なる。
「「おはようございます」」「おはよー明希ちゃん」
今日もアキを名前で呼んだ新堂をミモザがチラと見上げる。
新堂はニッコリ笑って「明石さんもおはよう」と言った。
「っ!?……私の、名前……っ!?」
「うん、明石愛花ちゃんだよな?」
「は、はい……」
「可愛い名前だよな」
「へ? えっ!?」
「新堂、一年生を困らせるな」
会長さんに叱られて、新堂さんが反省を示す。
「困らせちゃったか。……ごめんな」
門には次の生徒がきて、役員の人達はそちらを見る。
「愛花?」
少し先をゆくアキに呼ばれて、ミモザは逃げるように門を去った。
謝られてしまった。
謝られるようなことはされていないのに。
丁寧に整えられた弓形の眉を申し訳なさそうに歪めて。
彼は、明希ちゃんの友達である私へ親愛を示してくれただけだったのに。

昨夜の大地さんとの会話が思い出される。
大地さんも最初はとにかく謝っていた。彼は悪くないのに。
ただ私と仲良くなりたいと思ってくれただけなのに。

……あの部長さんはどうだったんだろうか。
私達は、話を聞きもしないで逃げてしまったけど、もしアキちゃんの言うように、本当にファンとして、声をかけてくれたのだとしたら……?

「愛花、大丈夫? ……新堂さん苦手?」
心配そうに覗き込むアキの言葉に、ミモザは慌てて首をふる。
「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」
「それならいいんだけど、嫌だったら言ってね?」
「……アキちゃん」
「ん?」
「私……、人の好意を素直に受け取れる人になりたいな……」
ミモザはそう願った。

***

「ミモザ、空さんが曲の雰囲気選んでほしいって」
アキは昨夜の空からのRINEの内容を説明する。
RINEには三曲、それぞれ別の楽器とテンポの短い音楽が添えてあった。
「お昼に屋上で聞こ?」
アキに言われてミモザは悩む。
屋上には食堂ほど人がいない。けどあの騒がしい食堂では音楽は聞き辛いだろうし、家に帰ってからの方が良いだろうか……。
悩むうちに授業は始まり、昼にはアキが迎えに来てしまった。

結局、昼休みの終わりにはアキとミモザは片耳にイヤホンを一つずつ分け合って、屋上でスマホを覗き込んでいた。お弁当はすでに食べ終えて包んである。
ミモザの手には歌詞の書かれた紙があった。
「うーん。私はこれも好きだなぁ」
アキの声にミモザが苦笑する。
「やだもぅ、アキちゃんは結局全部好きなんでしょぅ? これじゃ選べないじゃない」
「もう一回三つとも聞いてみる?」
「ちょっと時間が足りな……あっ」
鋭い風に、ミモザの手から紙が離れる。
屋上を転がるように舞う紙は、一人の男子生徒の足に巻き付くようにして止まった。

男子生徒は、風に飛ばされた歌詞の紙を拾い上げると銀色の眼鏡を指先で押し上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【シリーズ1完】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~シリーズ2

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?   ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

超イケメン男子たちと、ナイショで同居することになりました!?

またり鈴春
児童書・童話
好きな事を極めるナツ校、 ひたすら勉強するフユ校。 これら2校には共同寮が存在する。 そこで学校も学年も性格も、全てがバラバラなイケメン男子たちと同じ部屋で過ごすことになったひなる。とある目的を果たすため、同居スタート!なんだけど…ナイショの同居は想像以上にドキドキで、胸キュンいっぱいの極甘生活だった!

処理中です...