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3話 放送室と部長 (6/20)
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「うーーーーんんんん……」
腕を組むアキの前に広げられたノートには、たくさんの言葉が書かれていた。
丸がついているものもあれば、線で消されているものもある。
それらの文字をもう一度全部読み上げてから、アキは机に突っ伏した。
「ううう、これをどうしたら歌詞になるの……? 空さん歌詞に合わせて曲作るって言ってくれてるのに、もう一週間も待たせちゃってる……」
「えっと……、とりあえず、お菓子でも食べる?」
ミモザが差し出したスティック状のチョコスナック菓子を一瞥して、アキはまた顔を伏せた。
「……今はいい……」
「ええっ!?」
ミモザの記憶が正しければ、アキにお菓子を断られたのはこれが初めてだ。
「アキちゃん、具合悪い?」
「……元気……」
「元気じゃないよぅ、それ全然元気じゃないからっ」
ミモザは今朝の様子を思い出す。
ミモザは最近またアキと登校時に坂の下で待ち合わせをするようになった。
アキが早起きに慣れてきたというのもあったが、あの部長さんの件以降、なるべくひとりにならないよう気を付けることにしていた。
アキは生徒会長のイケボを聞くのが毎朝の楽しみのようで、坂の中頃からは聞き取った言葉をミモザに教えてくれたり、ひとり噛み締めては感動していた。
ミモザには会長の囁くような低い声は近くでも中々聞き取れないというのに、アキのイケボに対する聴力はある種異常な程だ。
だというのに、今朝に至っては正門までもう少しというところまで、アキは会長の声にも気づかずノートを見ながら唸っていた。今と同じように。
髪の長い書記の人にも心配されていたし……。
というかあの書記の人、なんでアキちゃんの事下の名前で呼んでくるの?
他の女子を下の名前で呼んでるのも何回か聞いたし。
「アキちゃんって、あの書記の人と仲良いの?」
気付けばミモザは疑問を口にしていた。
間違えた。今アキちゃんは作詞の事で頭がいっぱいなのに。
「ん? 新堂さんのこと?」
「う、うん。背が高くて髪を結んでる人」
「仲良いってほどじゃないけど……。あ、でも助けてもらったり、励ましてもらった事あるし。いつも心配してくれるよ。ちょっと口は悪いけど、良い人だよ。新堂さんがどうかした?」
尋ね返されて、ミモザは戸惑う。
まさかこんなに好意的な返事が返ってくるとは思わなかった。
「え、ううん。ただ、アキちゃんの事下の名前で呼んでたから、ちょっとびっくりして……」
クラスも学年も違う二人の間で、一体いつそんな出来事があったんだろう。
クラスは違っても、私はずっとアキちゃんのそばにいたつもりだったのに……。
「ああ、それなら気にする事ないよ。新堂さん他の人にも下の名前で声かけてるよ? 聞いた事ない?」
「あ、あるけど……。だからこそ、なんでかなぁって……」
アキちゃんは、ああいういかにもチャラチャラした、遊んでそうな人には興味ないと思ってたのに……。
「新堂さん、うちの学校の生徒、半分くらいはフルネームで言えるって言ってたよ?」
「ええっ!?」
うちの学校の生徒は500人近くいるのに……?
「なんのために……?」
「そこまでは知らないけど……あっ!」
思わず聞き返した私に、アキちゃんは不思議そうに答えて、それから急に瞳を輝かせた。
「もしかして、ミモザって新堂さんの事好きなの!?」
「違うよぅぅぅぅ!」
全力で否定するとアキちゃんは「なーんだ」とつまらなそうに呟いて、ノートに視線を落とす。
その表情が一瞬で暗く曇るのを見て、私は意を決して口を開く。
こんなこと言ったら、嫌がられちゃうかもしれないけど……。
「あ、あのね……。私……アキちゃんの作詞、手伝ってもいいかな?」
アキちゃんは、信じられないようなものを見るように、私を見た。
腕を組むアキの前に広げられたノートには、たくさんの言葉が書かれていた。
丸がついているものもあれば、線で消されているものもある。
それらの文字をもう一度全部読み上げてから、アキは机に突っ伏した。
「ううう、これをどうしたら歌詞になるの……? 空さん歌詞に合わせて曲作るって言ってくれてるのに、もう一週間も待たせちゃってる……」
「えっと……、とりあえず、お菓子でも食べる?」
ミモザが差し出したスティック状のチョコスナック菓子を一瞥して、アキはまた顔を伏せた。
「……今はいい……」
「ええっ!?」
ミモザの記憶が正しければ、アキにお菓子を断られたのはこれが初めてだ。
「アキちゃん、具合悪い?」
「……元気……」
「元気じゃないよぅ、それ全然元気じゃないからっ」
ミモザは今朝の様子を思い出す。
ミモザは最近またアキと登校時に坂の下で待ち合わせをするようになった。
アキが早起きに慣れてきたというのもあったが、あの部長さんの件以降、なるべくひとりにならないよう気を付けることにしていた。
アキは生徒会長のイケボを聞くのが毎朝の楽しみのようで、坂の中頃からは聞き取った言葉をミモザに教えてくれたり、ひとり噛み締めては感動していた。
ミモザには会長の囁くような低い声は近くでも中々聞き取れないというのに、アキのイケボに対する聴力はある種異常な程だ。
だというのに、今朝に至っては正門までもう少しというところまで、アキは会長の声にも気づかずノートを見ながら唸っていた。今と同じように。
髪の長い書記の人にも心配されていたし……。
というかあの書記の人、なんでアキちゃんの事下の名前で呼んでくるの?
他の女子を下の名前で呼んでるのも何回か聞いたし。
「アキちゃんって、あの書記の人と仲良いの?」
気付けばミモザは疑問を口にしていた。
間違えた。今アキちゃんは作詞の事で頭がいっぱいなのに。
「ん? 新堂さんのこと?」
「う、うん。背が高くて髪を結んでる人」
「仲良いってほどじゃないけど……。あ、でも助けてもらったり、励ましてもらった事あるし。いつも心配してくれるよ。ちょっと口は悪いけど、良い人だよ。新堂さんがどうかした?」
尋ね返されて、ミモザは戸惑う。
まさかこんなに好意的な返事が返ってくるとは思わなかった。
「え、ううん。ただ、アキちゃんの事下の名前で呼んでたから、ちょっとびっくりして……」
クラスも学年も違う二人の間で、一体いつそんな出来事があったんだろう。
クラスは違っても、私はずっとアキちゃんのそばにいたつもりだったのに……。
「ああ、それなら気にする事ないよ。新堂さん他の人にも下の名前で声かけてるよ? 聞いた事ない?」
「あ、あるけど……。だからこそ、なんでかなぁって……」
アキちゃんは、ああいういかにもチャラチャラした、遊んでそうな人には興味ないと思ってたのに……。
「新堂さん、うちの学校の生徒、半分くらいはフルネームで言えるって言ってたよ?」
「ええっ!?」
うちの学校の生徒は500人近くいるのに……?
「なんのために……?」
「そこまでは知らないけど……あっ!」
思わず聞き返した私に、アキちゃんは不思議そうに答えて、それから急に瞳を輝かせた。
「もしかして、ミモザって新堂さんの事好きなの!?」
「違うよぅぅぅぅ!」
全力で否定するとアキちゃんは「なーんだ」とつまらなそうに呟いて、ノートに視線を落とす。
その表情が一瞬で暗く曇るのを見て、私は意を決して口を開く。
こんなこと言ったら、嫌がられちゃうかもしれないけど……。
「あ、あのね……。私……アキちゃんの作詞、手伝ってもいいかな?」
アキちゃんは、信じられないようなものを見るように、私を見た。
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