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3話 放送室と部長 (5/20)

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アキはいつもの勝手知ったるミモザの部屋にいた。
アキと空とのトーク画面はその都度ミモザに見せていたが、ミモザは難しい顔をしてしばらく考え込んでいた。
「……A4Uの動画を全部削除する?」
ようやく口を開いたミモザの言葉に、アキが目を見開く。
「えっ、全部!? こないだ整理して再編集したばっかりなのに!?」
「そうすれば、歌声だけならそう簡単には特定されないと思うんだけど……」
「うーん……。じゃあ空さんの動画から私たちのクレジットをなくしてもらうとかは? こっちからも、この人の曲歌ってますーって言うのはやめにして」
「それだけだと、もう今までの人たちにはバレちゃってるから……意味あるかなぁ……? 現に部長さんには把握されてたでしょぅ?」
「ぅ、確かに……」
ああでもないこうでもないと頭を抱えて悩むアキの横で、ミモザはもう一度二人のRINEの会話を読み直す。
アキの校内放送で曲がかかったという報告に対して、空は『僕の学校でもかかったよ、お昼の最後の時間に』と返していた。
確かに動画の再生数は伸びていたけれど、だとしても別々の学校で同じ日の同じタイミングで同じ曲がかかる確率はどれほどだろうか。
空は基本的に必要最低限の文字しか打たない人だ。
その人がわざわざ『お昼の最後の時間に』と言い添えたのには意味があるはずだ。
もしかして……あの放送部長さんが、空さんだとか……?
でもそうすると『それは怖かったね。大丈夫だった?』という言葉は不自然な気もする。

「ミモザ……?」
アキの心配そうな声に、ミモザはハッと顔を上げた。
アキは真剣な顔でミモザを見つめていた。
「A4Uの動画は一回全部下げよう。それで画像無しの声だけであげなおすっていうのでどう? 画面はお菓子のパッケージ画像とかにして」
「アキちゃん……」
「私はやっぱり、ミモザと楽しく過ごした時間を残しておきたいし、皆にもらったコメントも残したい。……ダメかな?」
「ううん、それならいいと思うよ」
ミモザがふわりと笑えば、思い詰めた表情のアキがホッとほころぶ。
「わーんっ。よかったーーっ」
「作詞もやるつもりなんでしょぅ?」
「ミモザはいい? 私がやっても……」
「うん、もちろん。頑張ってね、私応援してるからね」
「ありがとーっ! ミモザ大好きーーっっ!!」
ぎゅっと抱き付いてくるアキの背中を、ミモザがよしよしと撫でる。
「私も。アキちゃんが大好きだよ」
だからあんまり一人で無理しないでね。とミモザは願う。
大地さんのイラストがついた美麗動画が投稿された後で、この頑張り屋の親友はようやく話してくれた。誹謗中傷のコメントがきていた事を。
届いても承認前にすぐ消してるから気にしないで大丈夫だと、笑いながら。
いつからと問えばしばらく前からで、どうして今まで黙っていたのかと尋ねる前に、その原因に気がついた。
私のために、この動画の完成まで話さずいてくれたんだと。
それでも何でも話してほしかったのに。約束したのに。という思いと、一人で我慢していたアキちゃんに謝りたい気持ちと、私のためにありがとうと思う気持ちがぐるぐる混ざって、どうしたらいいのかわからなくなった私は「そうだったんだ……」と答えるので精一杯だった。
アキちゃんは「黙っててごめんね」と謝った。

私のために黙ってたなんて、アキちゃんは最後まで一言も言わなかった。

放送部長さんの事は、正直すごく怖い。
今すぐにでも、A4Uのチャンネルごと消して、空さんとの曲も消してほしいと思うくらいには。

でも、アキちゃんが私のことを思ってくれたように、私もアキちゃんのことを思ってるから。アキちゃんが二曲目に挑戦したいと思ってるのを止めることだけはしたくなかった。

できれば、あの放送部長さんが空さんでありますように……。

ミモザは誰にともなく祈った。
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