20 / 51
2話 歌声と言葉(14/16)
しおりを挟む
「おい、何いきなり大爆笑してんだよ」
机に向かってタブレットで絵を描いていた大地が、同じ部屋の二段ベッド下段で体を丸めて必死に笑いを堪えている少年へ怪訝そうに声をかける。
「お前、アキちゃんの相談に乗ってたんじゃねーの? 何がどうしてそんな大爆笑になるわけ?」
「べ、別に、なんでもっ、ないよ……っ」
『男だよ。大地の絵見たんだ?』
答えるつもりのないらしい少年に、大地は絵を描きながら話しかける。
「空はさ、アキちゃんの事好きなのか……?」
「うん」
軽い返事にチラと様子を見れば、空と呼ばれた少年は笑いの余韻を残した表情でスマホを見ている。
「そうじゃなくてさ、恋愛的な好き。な」
「それってどういう感情?」
「あー……つまり、こう、独り占めしたくなる……みたいな? 俺だけのものにしたいとか、他のやつに見せたくないとか、そんな感じの……?」
「それなら違うよ。僕はアキさんを皆に見てほしい。こんなにまっすぐで、こんなに好きがいっぱいの、キラキラしてる子。世界の宝だよ。僕だけ知ってるんじゃもったいない」
「世界の宝は言い過ぎだろ」
ぼそりと返事をしながらも、大地は手を止めずに描いている。
「皆にアキさんのこと見てほしいし、知ってほしいし。皆がアキさんの事を好きになってくれたら嬉しいよ」
「……ふーん。なるほどなぁ。……お前にしては饒舌じゃねーの?」
「ミモザさん、大地のファンらしいよ。かなり初期から追っかけてるとか」
「は!?」
ガタンっと椅子を鳴らして立ち上がった大地に、空はスマホ画面を見せた。
画面には、いつ頃から応援していたのか、どんな絵のどんな部分が好きなのかを散々聞かされたという内容が詳しく書かれている。
「ぅおー……。マジか……っ、っ……これ、……マジで嬉しいな……」
「よかったな」
「え、トイッターもフォローしてくれてんの? てか俺をフォローしたくてトイッター初めた……? 何これ、有難過ぎねぇ? いや俺も、アキちゃんかミモザちゃんなら断然ミモザちゃん派だから!?」
興奮気味の大地に、空が眉を寄せる。
「……そんな事は聞いてないけど?」
「俺、ミモザちゃんの喋り結構好みなんだよなぁ。ほわんとしてて癒されるよな。顔わかんねーけど、この声と喋りなら美人な気がする。あと頭も良さそうだよなー。言うべきことは大抵ミモザちゃんが言ってるし」
「うちの学校の子かな?」
「うちの学校なら、体型と髪型で三人にまでは絞ってんだけどな。アキちゃんと同じ一年だとしたらどっちかだな……」
「特定しようとしなくていい」
「お前はアキちゃんに言わねーの? 正体知ってる事」
「言ってない……」
「よし、俺はとにかくミモザちゃんのトイッターを速攻フォロバする!!」
「でもミモザさんはアカウント公開してないから、特定は難しいんじゃないか?」
「アキちゃんの方から探ってみる。リプの多い子とかさ」
大地はワクワクした顔で早速アキのトイッターのフォロー一覧を開く。
「そこまでしなくても……。僕が聞いてみようか?」
「いや、こーゆーのはサプライズでやるからロマンチックなんだろ?」
「……僕にはその辺はよく分からないけど、あまり驚かせない方がいいと思うぞ」
空は一言忠告すると、またスマホに視線を戻す。
『大地もミモザちゃんのこと応援してるみたいだよ』と送れば『そうなんですか!? ミモザに伝えときますねっ、きっと喜びますっ!』と嬉しそうなスタンプが届いた。
元気そうでよかった。相談はもう切り上げても良さそうかな。
そう思った途端、今日の廊下での光景が蘇った。
僕が声をかけた時、彼女は泣いていた。
驚いた拍子に落ちたあの雫は、一体いくつ目だったんだろうか。
机に向かってタブレットで絵を描いていた大地が、同じ部屋の二段ベッド下段で体を丸めて必死に笑いを堪えている少年へ怪訝そうに声をかける。
「お前、アキちゃんの相談に乗ってたんじゃねーの? 何がどうしてそんな大爆笑になるわけ?」
「べ、別に、なんでもっ、ないよ……っ」
『男だよ。大地の絵見たんだ?』
答えるつもりのないらしい少年に、大地は絵を描きながら話しかける。
「空はさ、アキちゃんの事好きなのか……?」
「うん」
軽い返事にチラと様子を見れば、空と呼ばれた少年は笑いの余韻を残した表情でスマホを見ている。
「そうじゃなくてさ、恋愛的な好き。な」
「それってどういう感情?」
「あー……つまり、こう、独り占めしたくなる……みたいな? 俺だけのものにしたいとか、他のやつに見せたくないとか、そんな感じの……?」
「それなら違うよ。僕はアキさんを皆に見てほしい。こんなにまっすぐで、こんなに好きがいっぱいの、キラキラしてる子。世界の宝だよ。僕だけ知ってるんじゃもったいない」
「世界の宝は言い過ぎだろ」
ぼそりと返事をしながらも、大地は手を止めずに描いている。
「皆にアキさんのこと見てほしいし、知ってほしいし。皆がアキさんの事を好きになってくれたら嬉しいよ」
「……ふーん。なるほどなぁ。……お前にしては饒舌じゃねーの?」
「ミモザさん、大地のファンらしいよ。かなり初期から追っかけてるとか」
「は!?」
ガタンっと椅子を鳴らして立ち上がった大地に、空はスマホ画面を見せた。
画面には、いつ頃から応援していたのか、どんな絵のどんな部分が好きなのかを散々聞かされたという内容が詳しく書かれている。
「ぅおー……。マジか……っ、っ……これ、……マジで嬉しいな……」
「よかったな」
「え、トイッターもフォローしてくれてんの? てか俺をフォローしたくてトイッター初めた……? 何これ、有難過ぎねぇ? いや俺も、アキちゃんかミモザちゃんなら断然ミモザちゃん派だから!?」
興奮気味の大地に、空が眉を寄せる。
「……そんな事は聞いてないけど?」
「俺、ミモザちゃんの喋り結構好みなんだよなぁ。ほわんとしてて癒されるよな。顔わかんねーけど、この声と喋りなら美人な気がする。あと頭も良さそうだよなー。言うべきことは大抵ミモザちゃんが言ってるし」
「うちの学校の子かな?」
「うちの学校なら、体型と髪型で三人にまでは絞ってんだけどな。アキちゃんと同じ一年だとしたらどっちかだな……」
「特定しようとしなくていい」
「お前はアキちゃんに言わねーの? 正体知ってる事」
「言ってない……」
「よし、俺はとにかくミモザちゃんのトイッターを速攻フォロバする!!」
「でもミモザさんはアカウント公開してないから、特定は難しいんじゃないか?」
「アキちゃんの方から探ってみる。リプの多い子とかさ」
大地はワクワクした顔で早速アキのトイッターのフォロー一覧を開く。
「そこまでしなくても……。僕が聞いてみようか?」
「いや、こーゆーのはサプライズでやるからロマンチックなんだろ?」
「……僕にはその辺はよく分からないけど、あまり驚かせない方がいいと思うぞ」
空は一言忠告すると、またスマホに視線を戻す。
『大地もミモザちゃんのこと応援してるみたいだよ』と送れば『そうなんですか!? ミモザに伝えときますねっ、きっと喜びますっ!』と嬉しそうなスタンプが届いた。
元気そうでよかった。相談はもう切り上げても良さそうかな。
そう思った途端、今日の廊下での光景が蘇った。
僕が声をかけた時、彼女は泣いていた。
驚いた拍子に落ちたあの雫は、一体いくつ目だったんだろうか。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
みかんちゃんの魔法日和〜平和な世界で暮らす、魔法使いの日常
香橙ぽぷり
児童書・童話
この世界と似ているけれど、神様の存在も知られていて、
神の使いである魔法使いも、普通の人を助けながら一緒に暮らす、平和な世界。
普通の人と同じ学校に通っている
10歳の魔法使い、みかんちゃんの日常物語です。
時系列で並べているため、番外編を先にしています。
☆ふしぎな夜のおひなさま
(ひな祭り)
朝に見ると、毎日のように、ひな人形が動いた跡があると、
同じ学校の1年生から相談されます。
一体何が起きているのか、みかんちゃんは泊まり込みで調査します。
14歳の時から、個人的に書いている作品。
特に起点もなく、主人公さえいれば成り立つ話なこともあり、最長です。
学校用の作品は当時の年齢や、伝わりやすさを意識して書いていましたが、
これは私がわかれば…、思いっきり好きなように!と考えて書いていたため、
他の作品よりも設定に凝りまくっていたり、クラスメートなどのキャラクター数が多かったりと、わかりにくいところがあります。
私の代表作なので載せておきます。
ファンタジー要素の他に、友情とか、親子愛とか、物を大切に思う気持ちとか、
いろんな愛情を盛り込みたいと考えているので、タグにも入れました。
恋愛要素も少しはありますが、恋に限定してはいないので、タグで誤解を与えたらすみません。
コンプレックス×ノート
石丸明
児童書・童話
佐倉結月は自信がない。なんでも出来て人望も厚い双子の姉、美月に比べて、自分はなにも出来ないしコミュニケーションも苦手。
中学で入部したかった軽音学部も、美月が入るならやめとこうかな。比べられて落ち込みたくないし。そう思っていたけど、新歓ライブに出演していたバンド「エテルノ」の演奏に魅了され、入部することに。
バンド仲間たちとの触れ合いを通して、結月は美月と、そして自分と向き合っていく。
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
おとなりさんはオカン男子!
清澄 セイ
児童書・童話
中学一年生の白石ツバサは、部活見学の時にソフトテニス部のコートでキラキラ輝いていた二年生・王寺先輩に一目惚れ。友達の春と共にテニス部に入部することに。
偶然龍之介が大のお菓子好きで「お菓子作りが得意な家庭的な子がタイプ」という話を耳にして、自分とは正反対のタイプだと落ち込む。
そんな時、ひょんなことから最近越してきたお隣さんが、同じクラスのクールなイケメン甘崎君であることが判明。
なんと彼には弟が四人いて、他界した母と忙しい父の為に、家事を一手に担う「オカン男子」だったのだ。クラスでのクールで真面目な姿とは全く違うエプロン姿の彼に初めは驚くツバサだったが、何かと世話をやく真白と徐々に距離を縮めていき……。
魔法学園の生徒たち
アーエル
児童書・童話
その世界には魔王が襲ってくる。
その世界で一番魔力の高い者を食べるために。
しかし、その世界の人々は何度も魔王を押し返す。
200年に一度、強い魔王が現れる。
人々は多くの悲劇を重ねつつ倒してきた。
しかし1,000年に一度、災厄ともいえる魔王がやってくる。
魔王を世界から追い払うには世界で一番魔力の高い者をイケニエに差し出すしかない。
「そのこはどうなったの?」
少女は尋ねる。
「魔王が死ぬとその世界で人として生まれ変わったわ」
そんな世界の物語。
☆☆☆
(たぶん)週一公開(予定)
他社でも同時公開
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる