ヒミツのJC歌姫の新作お菓子実食レビュー

弓屋 晶都

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2話 歌声と言葉(6/16)

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靴を脱いで靴箱にしまう。上履きを下ろした時には耳まで真っ赤だった。
……か、会長さん、私の事覚えてくれてたんだ……。
『おはようございます』も心なしか優しかったのに、あの優しげなイケボで『今日は早いね』……なんてっ!
あああ、こんな事なら録音しながら通ればよかった!

いやいやだめよアキさん、それは盗み録りと言うものだわ。犯罪よ……。
でも私に向かって話しかけた言葉なら、個人で楽しむ範囲なら……(※事前承諾のない録音行為は犯罪です)
「アキちゃん?」
「ひゃぁぁっ、まだしてませんっっ!」
急に声をかけられて慌てて振り返れば、ミモザだった。
「……何を?」
不審そうに見つめられて、真っ赤なままで引き攣り笑いを返す。
「犯罪」
「……アキちゃん?」
というか、ミモザまだ来てなかったんだね。
私はよっぽど早く学校に来たみたいだ。
「アキちゃんが私より早いなんて珍しいと思ったら……一体何をしようとしてるの?」
「ご、誤解だよ。私は何も……」
そこまでで、当初の目的を思い出す。
「じゃない! 空さんから曲が届いたのっ、聞いて聞いてっっ!!」
「えっ、ほんと!?」

ミモザの席で、私のスマホで再生した曲をイヤホンで聞いてもらう。
どうかな? すごいよね? すごいでしょ?
色々言いたいけど、聴き終わるまで我慢我慢。
ミモザは目を閉じて、両手で両耳を押さえて静かに聞き入っている。
しんと静まり返った朝の教室には、まだ私とミモザしか来ていない。
スマホに表示されている曲の進行状況バーを見ながら、あと何分、あと何秒……とひたすら数えて、曲が終わったところでようやくミモザが目を開いた。
ミモザの瞳にうっすら涙が溜まっている。
あ。ええとハンカチ……。は、持ってきてなかった。
今日は朝から何をおいても学校に来てしまったんだった。
ミモザはシワひとつないハンカチを取り出すと、すっと目頭を押さえる。
朝の清らかな光が差し込む窓際の席で、その姿はまるで一枚の絵画のようだ。

「ほわぁぁ……すごぅい……」
「ねっ、凄いよねっ!?」
ミモザがため息と同時に吐き出した感想に、すかさず食いつく。
「私……、もう、今日が命日でもいい……」
「ちょっ、死なないでよミモザっっ」
「学校ではそう呼ばない約束だよぅ?」
「あっ。そうだった。ごめんごめん」
周りに人がいないからか、感動中だからか、ミモザの指摘はいつもより優しい。
「空さん、私達の歌なんて言ってた?」
「素敵な歌声をありがとうございますって書いてあったよ。あとにゃーちゅーぶにアップしてもいいですか? だって。いいよね?」
私は空さんからもらったDMを開いてミモザに見せる。
「う、うん……。でもなんかこれ、素敵になりすぎてて詐欺っぽくない?」
ミモザの言葉に私は思わずふき出した。
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