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2話 歌声と言葉(5/16)
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……あれ、この曲は、空さんの……。
いつまでもここで微睡んでいたい。そんな夢の中から、優しい音にそっと手を引かれるように少しずつ現実に引き戻されてゆく。
あ。朝だ。
手探りでスマホを見つけて引き寄せれば、画面には『6:17』の文字。
いつもは6時にアラームをかけても、覚醒までにたっぷり一時間以上はかかってしまうのに。昨夜アラーム音を空さんの音楽に変えたおかげだろうか。
それとも……。
『お疲れ様。明日はもう少し早く来れるといいね』
会長の囁くようなイケボが耳元で蘇った途端、頭にしっかり血が上る。
あ。昨日の動画、いっぱい見てもらえてるみたい。
やっぱり冬季限定チョコっていいよね。
ん? DM来てる……?
「!?」
私はガバッと布団から跳ね起きた。
「もうミックスしてくれたんだ!? 仕事早っっ!!!」
添えられたURLから音楽ファイルをダウンロードする。
その間に布団をざっと片付けて、制服のかかるハンガーを手に取る。ダウンロードしたファイルを開いて再生ボタンをタップ。
音楽を聴きながら着替えようなんて思ってたんだけど、甘かった。
結局私は制服を握って突っ立ったまま、空さんの曲を最後まで聴いた。
「……すごい……」
……えぇ………?
あれが、こうなる……!?
まるで私じゃないみたい。
ううん。私の声なのは間違い無いんだけど、なんかこう……なんて言うの? エコーとかかかったりして、完全にプロみたいになってるっ!!
えーっ、私ってこんな上手かったっけ!? みたいな、なんかちょっと魔法にでもかかってるような気分だ。
これって、他の人の耳にもこんなに素敵に聞こえてるんだよね??
私だけって事じゃないよね……?
「うわーっすごいすごいすごい! ミモザにも聞かせなきゃ!!」
「明希ー。起きてるのー? ご飯食べに来なさーい」
私の声が聞こえたのか、一階からお母さんが声をかけてくる。
「今行くーっ」
答えて、大慌てで着替える。
時計を見れば、もう7時が近づいていた。
この時間じゃミモザのパソコンにメールをしても気付いてもらえない可能性の方が高い。
それより私が一分一秒でも早く学校に行く方が、確実にミモザに聞かせられる。
ああもうっ、一刻も早く聞いてほしい!!
はやる気持ちを必死でおさえながら、ご飯をかきこむ。
「よく噛んで食べなさいよー」
母の小言に「はーい」と答えれば、食卓の向かいに座る弟妹が不思議なものでも見るような視線を向けているのに気付く。
「ねーちゃんがこの時間にご飯食べてるとか珍しい……」
「ん、私時計二度見した」
何やら失礼な事を言ってるけど、普段が普段なので仕方ないか……。
鏡を覗けば今日も寝癖は酷かったが、こんなの直してる場合じゃない。
時間に正確な双子達と一緒に家を出た私は、弟妹達と別れたところから走り始めた。
朝の空気が気持ちいい。
小走りのまま坂に突入した頃には体はしっとりと汗ばんでいたけれど、見上げた先に中学校の校舎が見えれば疲れた体に気合が漲る。
あそこにミモザがいる。ミモザにこの曲を早く届けたい。
なんて言うだろう。どんな顔をするかな。
夢中で坂を駆け上れば、もう生徒会長のイケボが届いてきた。
「おはようございます」
ああ、今朝も会長のイケボは絶好調ですね。
ほんの少しだけ掠れた、甘く優しい低音ボイス。
この声が真面目で優しい言葉を発するなんて、会長は世界の宝ですね。
嬉しい気持ちを重ねて坂を駆け上がると、会長達の元気が出るように願いを込めて、お腹から声を出した。
「おはようございまぁぁすっ!!」
「おはようございます。今日は早いね」
え?
「お、おはよ……。つか声でかいな……。あっ。今日も寝癖ついてんぞーっ」
書記さんの声を背中で聞きながら、私は門を走り抜ける。
「あんだけ坂を走って、ここでこの声が出せるってすげーな」
「うん」
「お前も急にあの音量で、よく驚かなかったな」
「彼女、挨拶の前に息を吸ってたよ」
「……そんなの気付くか……?」
「息を吸う音も、吸い方も声の出し方も、やっぱりあの子にすごく似てる……」
いつまでもここで微睡んでいたい。そんな夢の中から、優しい音にそっと手を引かれるように少しずつ現実に引き戻されてゆく。
あ。朝だ。
手探りでスマホを見つけて引き寄せれば、画面には『6:17』の文字。
いつもは6時にアラームをかけても、覚醒までにたっぷり一時間以上はかかってしまうのに。昨夜アラーム音を空さんの音楽に変えたおかげだろうか。
それとも……。
『お疲れ様。明日はもう少し早く来れるといいね』
会長の囁くようなイケボが耳元で蘇った途端、頭にしっかり血が上る。
あ。昨日の動画、いっぱい見てもらえてるみたい。
やっぱり冬季限定チョコっていいよね。
ん? DM来てる……?
「!?」
私はガバッと布団から跳ね起きた。
「もうミックスしてくれたんだ!? 仕事早っっ!!!」
添えられたURLから音楽ファイルをダウンロードする。
その間に布団をざっと片付けて、制服のかかるハンガーを手に取る。ダウンロードしたファイルを開いて再生ボタンをタップ。
音楽を聴きながら着替えようなんて思ってたんだけど、甘かった。
結局私は制服を握って突っ立ったまま、空さんの曲を最後まで聴いた。
「……すごい……」
……えぇ………?
あれが、こうなる……!?
まるで私じゃないみたい。
ううん。私の声なのは間違い無いんだけど、なんかこう……なんて言うの? エコーとかかかったりして、完全にプロみたいになってるっ!!
えーっ、私ってこんな上手かったっけ!? みたいな、なんかちょっと魔法にでもかかってるような気分だ。
これって、他の人の耳にもこんなに素敵に聞こえてるんだよね??
私だけって事じゃないよね……?
「うわーっすごいすごいすごい! ミモザにも聞かせなきゃ!!」
「明希ー。起きてるのー? ご飯食べに来なさーい」
私の声が聞こえたのか、一階からお母さんが声をかけてくる。
「今行くーっ」
答えて、大慌てで着替える。
時計を見れば、もう7時が近づいていた。
この時間じゃミモザのパソコンにメールをしても気付いてもらえない可能性の方が高い。
それより私が一分一秒でも早く学校に行く方が、確実にミモザに聞かせられる。
ああもうっ、一刻も早く聞いてほしい!!
はやる気持ちを必死でおさえながら、ご飯をかきこむ。
「よく噛んで食べなさいよー」
母の小言に「はーい」と答えれば、食卓の向かいに座る弟妹が不思議なものでも見るような視線を向けているのに気付く。
「ねーちゃんがこの時間にご飯食べてるとか珍しい……」
「ん、私時計二度見した」
何やら失礼な事を言ってるけど、普段が普段なので仕方ないか……。
鏡を覗けば今日も寝癖は酷かったが、こんなの直してる場合じゃない。
時間に正確な双子達と一緒に家を出た私は、弟妹達と別れたところから走り始めた。
朝の空気が気持ちいい。
小走りのまま坂に突入した頃には体はしっとりと汗ばんでいたけれど、見上げた先に中学校の校舎が見えれば疲れた体に気合が漲る。
あそこにミモザがいる。ミモザにこの曲を早く届けたい。
なんて言うだろう。どんな顔をするかな。
夢中で坂を駆け上れば、もう生徒会長のイケボが届いてきた。
「おはようございます」
ああ、今朝も会長のイケボは絶好調ですね。
ほんの少しだけ掠れた、甘く優しい低音ボイス。
この声が真面目で優しい言葉を発するなんて、会長は世界の宝ですね。
嬉しい気持ちを重ねて坂を駆け上がると、会長達の元気が出るように願いを込めて、お腹から声を出した。
「おはようございまぁぁすっ!!」
「おはようございます。今日は早いね」
え?
「お、おはよ……。つか声でかいな……。あっ。今日も寝癖ついてんぞーっ」
書記さんの声を背中で聞きながら、私は門を走り抜ける。
「あんだけ坂を走って、ここでこの声が出せるってすげーな」
「うん」
「お前も急にあの音量で、よく驚かなかったな」
「彼女、挨拶の前に息を吸ってたよ」
「……そんなの気付くか……?」
「息を吸う音も、吸い方も声の出し方も、やっぱりあの子にすごく似てる……」
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