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第五話 怒涛の学習発表会 (7/7)
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突然、ボクの隣で清音さんに雷が落ちた。それと同時に清音さんは足を止める。
「うおっ!? 急に止まんなよっ、ぶつかんだろ!?」
衝突寸前でなんとか踏みとどまった亮介が、後ろで文句を言っている。
俯いた清音さんは、重大な何かに気づいてしまったような背景を背負っていた。
「どうしたの? 忘れ物でもあった?」
つい先日、亮介も同じように帰りに突然ハッと立ち止まって、雷を落としたと思ったら「学校に体操服忘れた!」と叫んでいたんだよね。
ボクが清音さんの顔を覗き込むと、清音さんはいつもの真顔に縦線を入れていた。
あの清音さんが青ざめるほどヤバい忘れもの……?
うっかり牛乳をこぼしたまま洗濯しないで忘れてた給食エプロン。とか?
……まさか、夏休み前のプールバッグを持って帰り忘れてたとか……?
いやいや、それはさすがに、先生が気づいて声かけてくれるよね。
じゃあなんだろう。
ボクが悩んでいるうちに、清音さんは首を振ると『なんでもない』という様子で歩き出した。
なんだったんだろう。
取りに帰るほどのものじゃないならよかったけど……。
……取りに帰るのもおそろしい。みたいなのだったらやだなぁ……。
ボクがそんな想像をしているうちに、公園脇で亮介と別れて、三人はマンションに着いた。
清音さんはあれからずっと落ち込んだような背景で、地面を見ながら歩いていた。
「清音さん、元気ないみたいだけど……、大丈夫?」
清音さんは慌てたようにコクコクと頷く。
……とてもそうは見えないんだけどなぁ。
内藤君はボクと清音さんを交互に見てから言う。
「僕にはわからないが、佐々田君が言うならそうなのだろう。清音さん、困ったことがあるならいつでも言って……、いや、書いてくれたらいい。我々は何でも相談に乗ると約束しよう」
相変わらず一方的に約束しちゃうところが内藤君らしいなぁ。
あれ? 我々ってことはボクも一緒に約束したことになってる?
まあ、ボクも気持ちは内藤君と一緒だから、いいか。
「うん。ボクも清音さんの助けになれたら嬉しいよ。ボクたちにできそうなことがあれば、なんでも言ってね」
ボクたちを見た清音さんは、なぜか一瞬泣きそうな顔をしてから、よどんだ背景のまま帰っていった。
いったい……なんだったのかなぁ?
***
今朝の夢には清音さんが出てきた。
夢の中の清音さんと何を話したのかは覚えてないけど、清音さんが悲しそうだった事だけが印象に残っていた。
昨日の帰りに、夕焼けの薄いオレンジ色を頬に受けた清音さんが、ボクを見て一瞬だけ見せた、あの泣きそうな顔。
あの顔が、どうしてかボクの頭から離れない。
ボクは、清音さんの満面の笑顔も見たことないけど、泣いた顔も見たことがない。
昨日見た泣きそうな顔もまた、ボクにとっては初めて見る清音さんの顔だった。
だからなのかな。
夢にまで見ちゃうなんて……。
ボクは眠い目をこすりながら、食卓に向かう。
すると、妹の沙耶が飛びつきそうな勢いでやってくる。
「あっ、お兄ちゃん! お願い! 清音さんにサインもらってきて!!」
「おはよ……。え? サイン!?」
「そう、サイン!!」
沙耶はずずいとボクに迫ってくる。気迫が怖いし、なんか……後ろ手に持ってる?
「私の友達が、音楽発表会の歌を聞いて清音さんのファンになったんだって」
「へぇ。じゃあ清音さんの動画サイト教えてあげたらいいんじゃない?」
「教えたの! そしたらめちゃくちゃファンになったんだって! で、私が言ったんじゃないんだけど、私のお兄ちゃんが清音さんと同じクラスなの気づいちゃったらしくて……」
そういえば少し前にお昼休みに、四年生くらいの子がクラスの前をうろうろしてたから、誰かの兄弟なのかな? って声かけたんだよね「誰か探してるの?」って、そしたら「きゃーっ、なんでもないですーっ」ってバタバタ逃げられちゃったんだ。
もしかして、あの子が沙耶の友達だったのかな?
「だから、私の分と友達の分で、二枚! お願いします!!」
沙耶は、ガバッと勢いよく頭を下げて、三枚入りの色紙を差し出してきた。
しっかりペンまで添えてある。
「……三枚あるけど?」
「一枚は予備! 清音さん配信はしてるけど、サインは練習してるかわかんないし、失敗しちゃうかもでしょ?」
沙耶はえへんと胸を張った。キラキラした背景が窓から差し込む朝日に負けないくらい眩しい。
サインの練習かぁ……。
どうかなぁ。清音さんならしててもおかしくない気がする。
だって、有名人でもなんでもない亮介ですらある日突然「見ろ京也、これが俺の考えた最強のサイン!」とか言って自由帳を見せてきたくらいだから。
ボクの想像の中で、清音さんはサラサラとアイドルみたいにサインを書いてドヤった背景を背負っていた。
だとしたら、ボクもちょっと欲しいかも。清音さんのサイン……。
「じゃあ、清音さんが失敗しなかったら、ボクも一枚もらっていいかな」
僕の言葉に、沙耶はパアアッと光を撒き散らすと「うんっ、もちろん!」と弾けるような笑顔で答えた。
「うおっ!? 急に止まんなよっ、ぶつかんだろ!?」
衝突寸前でなんとか踏みとどまった亮介が、後ろで文句を言っている。
俯いた清音さんは、重大な何かに気づいてしまったような背景を背負っていた。
「どうしたの? 忘れ物でもあった?」
つい先日、亮介も同じように帰りに突然ハッと立ち止まって、雷を落としたと思ったら「学校に体操服忘れた!」と叫んでいたんだよね。
ボクが清音さんの顔を覗き込むと、清音さんはいつもの真顔に縦線を入れていた。
あの清音さんが青ざめるほどヤバい忘れもの……?
うっかり牛乳をこぼしたまま洗濯しないで忘れてた給食エプロン。とか?
……まさか、夏休み前のプールバッグを持って帰り忘れてたとか……?
いやいや、それはさすがに、先生が気づいて声かけてくれるよね。
じゃあなんだろう。
ボクが悩んでいるうちに、清音さんは首を振ると『なんでもない』という様子で歩き出した。
なんだったんだろう。
取りに帰るほどのものじゃないならよかったけど……。
……取りに帰るのもおそろしい。みたいなのだったらやだなぁ……。
ボクがそんな想像をしているうちに、公園脇で亮介と別れて、三人はマンションに着いた。
清音さんはあれからずっと落ち込んだような背景で、地面を見ながら歩いていた。
「清音さん、元気ないみたいだけど……、大丈夫?」
清音さんは慌てたようにコクコクと頷く。
……とてもそうは見えないんだけどなぁ。
内藤君はボクと清音さんを交互に見てから言う。
「僕にはわからないが、佐々田君が言うならそうなのだろう。清音さん、困ったことがあるならいつでも言って……、いや、書いてくれたらいい。我々は何でも相談に乗ると約束しよう」
相変わらず一方的に約束しちゃうところが内藤君らしいなぁ。
あれ? 我々ってことはボクも一緒に約束したことになってる?
まあ、ボクも気持ちは内藤君と一緒だから、いいか。
「うん。ボクも清音さんの助けになれたら嬉しいよ。ボクたちにできそうなことがあれば、なんでも言ってね」
ボクたちを見た清音さんは、なぜか一瞬泣きそうな顔をしてから、よどんだ背景のまま帰っていった。
いったい……なんだったのかなぁ?
***
今朝の夢には清音さんが出てきた。
夢の中の清音さんと何を話したのかは覚えてないけど、清音さんが悲しそうだった事だけが印象に残っていた。
昨日の帰りに、夕焼けの薄いオレンジ色を頬に受けた清音さんが、ボクを見て一瞬だけ見せた、あの泣きそうな顔。
あの顔が、どうしてかボクの頭から離れない。
ボクは、清音さんの満面の笑顔も見たことないけど、泣いた顔も見たことがない。
昨日見た泣きそうな顔もまた、ボクにとっては初めて見る清音さんの顔だった。
だからなのかな。
夢にまで見ちゃうなんて……。
ボクは眠い目をこすりながら、食卓に向かう。
すると、妹の沙耶が飛びつきそうな勢いでやってくる。
「あっ、お兄ちゃん! お願い! 清音さんにサインもらってきて!!」
「おはよ……。え? サイン!?」
「そう、サイン!!」
沙耶はずずいとボクに迫ってくる。気迫が怖いし、なんか……後ろ手に持ってる?
「私の友達が、音楽発表会の歌を聞いて清音さんのファンになったんだって」
「へぇ。じゃあ清音さんの動画サイト教えてあげたらいいんじゃない?」
「教えたの! そしたらめちゃくちゃファンになったんだって! で、私が言ったんじゃないんだけど、私のお兄ちゃんが清音さんと同じクラスなの気づいちゃったらしくて……」
そういえば少し前にお昼休みに、四年生くらいの子がクラスの前をうろうろしてたから、誰かの兄弟なのかな? って声かけたんだよね「誰か探してるの?」って、そしたら「きゃーっ、なんでもないですーっ」ってバタバタ逃げられちゃったんだ。
もしかして、あの子が沙耶の友達だったのかな?
「だから、私の分と友達の分で、二枚! お願いします!!」
沙耶は、ガバッと勢いよく頭を下げて、三枚入りの色紙を差し出してきた。
しっかりペンまで添えてある。
「……三枚あるけど?」
「一枚は予備! 清音さん配信はしてるけど、サインは練習してるかわかんないし、失敗しちゃうかもでしょ?」
沙耶はえへんと胸を張った。キラキラした背景が窓から差し込む朝日に負けないくらい眩しい。
サインの練習かぁ……。
どうかなぁ。清音さんならしててもおかしくない気がする。
だって、有名人でもなんでもない亮介ですらある日突然「見ろ京也、これが俺の考えた最強のサイン!」とか言って自由帳を見せてきたくらいだから。
ボクの想像の中で、清音さんはサラサラとアイドルみたいにサインを書いてドヤった背景を背負っていた。
だとしたら、ボクもちょっと欲しいかも。清音さんのサイン……。
「じゃあ、清音さんが失敗しなかったら、ボクも一枚もらっていいかな」
僕の言葉に、沙耶はパアアッと光を撒き散らすと「うんっ、もちろん!」と弾けるような笑顔で答えた。
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