『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
3 / 31

第一話 漫画の神様 (2/2)

しおりを挟む
「そんな無理して神社で読まなくても古本屋にあるでしょ。それより宿題、そろそろ始めなきゃ終わらないわよ?」
と、お母さんが言うのはわかるんだけど「せっかくだから最後まで神社で読みたいんだ」とボクは答えた。
「仕方ないわね、帰ったらちゃんと宿題するのよ?」
お母さんは意外なほどあっさり許してくれて、ボクの方が驚いた。

ボクが毎日神社に通ってると聞いて、お母さん達が挨拶に行った時、巫女のお姉さんから「毎朝掃除を手伝ってもらって、とても助かっています」と頭を下げられたのが効いてるみたいだ。
お姉さんは、ボクがいかに真面目に掃除をしていたか、こんな素晴らしい子を育てた親はさぞ立派な方だろう、と、うちの両親を持ち上げてくれていたから。

漫画の神様の最終巻を読み終えて、ボクは感動と達成感に包まれてお堂にゴロンと仰向けた。
言葉にならないほど素晴らしかった最終巻を胸に抱いて、じんと熱い目を閉じる。

よかった……。ほんっっとうに、よかった。
あの過去も、辛い出来事も幸せなひと時も、全てが主人公にとって必要で……。
仲間の誰一人欠けていたら辿り着けない、そんな到達点だった。

ボクが最後に読んでいたシリーズは、漫画の神様が亡くなる直前に完結させた長編だった。
巻末の挨拶では編集さんが神様の急死を悲しんでいて、神様の作品がもっと見たかったと書かれた編集さんの言葉にボクは深く同意する。

だって、ボクの日常にはこんな漫画みたいなドキドキはない。
ボクも、神様の描くドキドキの日々をもっともっと追いかけたかったな……。

感動した心に少しの悲しみが混じって、涙がまたじわりと溢れてしまう。
ボクは慌てて目をこすると、周りに人がいないことを確かめた。

この神社には参拝客も少なくて……というよりも、この周辺にそもそも住民が少ないんだよね。
とにかく人の姿を見かけることは滅多になかった。
だから今だって、お堂にはボクの他に誰も………………うん?

御神体と呼ばれていた像がほのかに光ってるような……?

そんなはずないか。涙でぼやけて見えたのかな。

ボクは最終巻をもう一度パラパラと捲って感動を噛み締めながら、明日から始まる家での日常を思う。

亮介とは一緒に遊べないだろうし、しばらくは宿題を頑張るしかないだろうなぁ。
なにせ、六年生のボクには最高学年らしい量の宿題が待っているから。

捲るページの中では、キャラクター達が色んな効果や背景でいきいきと分かりやすく感情を表している。
「あーあ、現実もこんな風に分かりやすかったらいいのになぁ……」
ボクは呟きながら、最終巻を丁寧に本棚に戻した。

『条件達成じゃ』

突然、頭の中に凛とした声が響く。

「その願い、わしが叶えてやろう」

女の子らしい高い声がして御神体が眩しく輝くと、目の前にはもふもふした、可愛い……えーと、これは……?

幼稚園児くらいの見た目の幼女が、巫女さんの服をアレンジしたような白い和服に赤い袴で、なぜか肩と脚が見えてる服を着て、さらにはもふもふしたきつね耳に九本……じゃないな、六本のきつねのような尻尾をもふんもふん揺らしている。

「なんじゃ、わしを知らんのか? この神社のもえもえマスコットキャラ、お狐ちゃんじゃぞ?」
なぜか空中にぷかぷか浮かんでいるもふもふ幼女は、太くて短めの眉をクイっと片方上げてボクを見下ろす。
あ、そういえばお守り売り場にもこの子がプリントされたグッズ……、いや、お守りが並んでいたのをみた気がする。

「お主は実に楽しそうに漫画を読むのう。いやはや、新鮮な反応は健康に良い!!」
「え、見てたんですか!?」
「そりゃお主がわしの目の前で読んどるからのう」
「ええっ」

確かにこの子は御神体から出てきたから……?
じゃあボクは漫画を読んでる間ずっとこの子に見られてたって事!?

「この短期間でわしの漫画を全て読み切るとは、中々見上げた根性だのう」
「わしのって……、えっ、もしかして、漫画の神様なんですか!?」
「そうじゃ、御神体から出たんじゃぞ、漫画の神様に決まっとるじゃろ。お主、わしをなんだと思っておったのじゃ?」
「神社のマスコットキャラかと……」
「この姿は仮の姿じゃ! お主とて、くたびれた三段腹のおっさんが出てくるよりこの姿の方がもえるじゃろうが! 今風に言うなら『のじゃロリ』じゃぞ? 最の高じゃろ!?」
「え……えっと……。そういうの、ボクよくわかんなくて……ご、ごめんなさいっ」
「グヌっ、そんな風に謝られると、調子に乗ったこっちが大人気なく見えるじゃろうが。お主は近年まれに見る純朴な少年じゃな」
「ジュンボク……?」
「純粋で、素朴という意味じゃ」
「はぁ……」
それって褒められてるのかな? お礼を言うべきなのかがよくわからないまま、ボクは曖昧に返事をする。
「まあ、お主なら、この力を悪用することもあるまいて」
「?」
「何か困ったことがあれば、また来るが良いぞ」
神様はボクが今日で来なくなることも知ってるんだ、すごいなぁ。
「は、はい。今日まで毎日お世話になりました。ありがとうございました」
ボクは神様にたくさんのドキドキをもらったことへの感謝をいっぱいこめて、ぺこりと頭を下げる。

「佐々田くーん、そろそろ神社を閉めますよー」
遠くから巫女のお姉さんの声がする。

ボクはリュックと水筒を拾い上げるとお堂を出ようとして、一番大事な事を伝え忘れていたことに気づいた。
「漫画の神様! 神様の漫画、とっても面白かったです!!」
神様はニカっと笑って「当然じゃ!」と答えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

circulation ふわふわ砂糖菓子と巡る幸せのお話

弓屋 晶都
児童書・童話
精霊魔法と剣の世界の片隅で紡がれる、少女と小さな幸せの物語。 まったりのんびりMMORPG風ファンタジー。 冒険者登録制度のある、そんなゲーム風ファンタジー世界で、パーティーでクエストをこなしています。 〜あらすじ〜 家事能力高めの魔法使い、正義感溢れる紳士な盗賊、マッドサイエンティストなヒールに白衣の魔術師の三人は、ある日、森で記憶を無くした小さな女の子を拾います。 その子を家族に返そうと調べるうち、その子の村がもう無い事や、その子に託された願いと祝福された力を知る三人。 この力を正しく使うためにはどうすればいいのか。 道に迷い悩む幼女と、それを支える仲間達の、友愛あふれるお話です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし
児童書・童話
天空の大陸に住むふたりの魔女が主人公の魔法冒険ファンタジー。 魔法が得意で好奇心おうせいだけど、とある秘密をかかえているリプルと、 基本ダメダメだけど、いざとなると、どたんばパワーをだすペブル。 平和だった魔女学園に闇の勢力が出没しはじめる。 王都からやってきたふたりの少年魔法士とともに、 王都をめざすことになったリプルとペブル。 きほんまったり&ときどきドキドキの魔女たちの冒険物語。 ふたりの魔女はこの大陸を救うことができるのか!? 表紙イラスト&さし絵も自分で描いています。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...