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第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。
4.小さな背(2/4)
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よく見れば、バンダナを着けてちょうど正面に来る部分にはヒゲが。
その左右には確かにつぶらな瞳が描かれており、言われてしまうともうクジラ以外の何物にも見えなくなるほどの完成度ではあった。
スカイ君、器用だなぁ……。
バンダナから少し視線を降ろすと、青い髪の向こうでラベンダーの瞳が何かを言いたげにじっとこちらを見つめていた。
な、なんだろう……。
思わずこちらまで緊張してしまうような、真剣さというのか、真摯さというのか。そういうものを感じて息を飲む。
スカイがそのギュッと閉じた口を、開こうとした途端、
「スカイ、ドタバタ煩いわよ。足音を立てずに走りなさい」
デュナがいまだに開け放されたままの扉から顔を出した。
走るなとは言わないんだ……。
どちらかと言えば、足音を立てずに走ることの方が難しいような気がするけれど、スカイは素直に「へーい」と返事をしてから、なんだか居心地悪そうに部屋の奥へと移動した。
後になって思えば、こういう事の積み重ねが、スカイに盗賊としての資質を作っていったのかも知れないなぁ……。
「ラズ、気分はどう? どこか痛いところは無い?」
「うん。大丈夫」
返事をしてから、ひとつ息を吸って、
「……デュナお姉ちゃん」
「なーに?」
まるで、声を掛けられるのが分かっていたかのように、デュナは、自然と私の傍に屈みこんでいた。
スカイより若干薄いラベンダー色の瞳をほんの少し細めて、優しくこちらを覗き込む。
「あのね……その……いっぱい心配掛けちゃってごめんなさい」
つい思い切り頭を下げると、ぽふんと布団に顔がめり込んだ。
「ええ、ラズが元気になってよかったわ」
デュナが、私の後頭部をぐりぐりと撫で回す。
その声がとっても優しくて、嬉しいような恥ずかしいような、おまけにちょっと申し訳ないような気持ちで顔が熱くなる。
「……フローラおばさんは?」
顔を上げて尋ねる。
おばさんにもちゃんとゴメンナサイって言わなきゃ。
「母さんは今ちょっと出かけてるわ。帰ってきたら教えてあげるから。
ああ、ラズ、痛いところが無いなら、少しずつ体を動かしておく方がいいわよ」
デュナの話によれば、私は丸3日寝続けていたらしい。
それ以前も延々と部屋の片隅に座り込んでいたし、体力はそうとう落ちているようだった。
「スカイ、ラズが外に出たりするときは手伝ってあげるのよ」
「おう」
それだけ指示をすると、デュナはすたすたと自室に戻ってしまった。
宿題が山ほどあるらしい。
「スカイ君は無いの? 宿題」
「ある。けど後でいい」
淀みなく言い切られて、そういうものなんだ……と納得する。
自分は今まで学校に行ったこともなければ、
そんな風に宿題を貰うこともなかったので勝手が分からなかった。
「デュナお姉ちゃんは、お勉強とかあっという間に出来ちゃうんだと思ってた……」
ぽろり。とこぼした言葉に、部屋の窓から外を確認していたスカイが振り返って言う。
「ねーちゃんはすごいよ。宿題だって、学校で済ませちゃうことも多いしさ」
やっぱりそうなんだ。
「けど、ラズが寝込んでからずっと、夜とかもちょこちょこ様子見に来てたみたいだし、それで溜まっちゃったんじゃないか? 宿題」
私の事が心配で、勉強が手に付かなかった……なんて
なんだかデュナらしくないというか、ちょっとイメージできないけど……。
「それよりさ、外行かないか? 体動かした方がいいんだろ?」
スカイが窓の外を指して、瞳を輝かせながら言う。
外はとてもいい天気で、ゆるやかな風がサワサワと木々を揺らしている。
ついさっき、寝てなきゃダメだって布団に押し込んだくせに……と思いつつも、私はその提案に笑顔で頷きを返した。
スカイにはどうやら私を連れて行きたい場所があるらしく、久しぶりに自分の体重を支える両足に不安を感じつつも、ゆっくり後ろをついて歩く。
今日は本当にいい天気だ。
眩しい日差しに照らされて、歩いているとじんわり汗ばむほどだったが、涼しい風がそよそよと優しく吹き続けていて、不快になる事はなかった。
あの日、スカイに手を引かれて歩いた方とはまったくの逆方向だった。
「もうすぐ着くからな。ここを登ったら……」
そう言って、前を歩くスカイが道を開けて示してくれたのは、とても急に見える坂だった。
「うわぁ……ここ、登るの……?」
「疲れたなら一回休むか?」
どうやら、スカイには登らないという選択肢は無いようだ。
「うん……」
しょうがなく、その場で座り込む。
周りを見回しても、椅子になりそうな石だとかそういうものは無いようだった。
お日様にぽかぽか温められた草は、元気いっぱいで、ズボンの上からでも、お尻がちくちくする。
まあ、湿った地面でぐっしょりするよりはいいけど……。
その左右には確かにつぶらな瞳が描かれており、言われてしまうともうクジラ以外の何物にも見えなくなるほどの完成度ではあった。
スカイ君、器用だなぁ……。
バンダナから少し視線を降ろすと、青い髪の向こうでラベンダーの瞳が何かを言いたげにじっとこちらを見つめていた。
な、なんだろう……。
思わずこちらまで緊張してしまうような、真剣さというのか、真摯さというのか。そういうものを感じて息を飲む。
スカイがそのギュッと閉じた口を、開こうとした途端、
「スカイ、ドタバタ煩いわよ。足音を立てずに走りなさい」
デュナがいまだに開け放されたままの扉から顔を出した。
走るなとは言わないんだ……。
どちらかと言えば、足音を立てずに走ることの方が難しいような気がするけれど、スカイは素直に「へーい」と返事をしてから、なんだか居心地悪そうに部屋の奥へと移動した。
後になって思えば、こういう事の積み重ねが、スカイに盗賊としての資質を作っていったのかも知れないなぁ……。
「ラズ、気分はどう? どこか痛いところは無い?」
「うん。大丈夫」
返事をしてから、ひとつ息を吸って、
「……デュナお姉ちゃん」
「なーに?」
まるで、声を掛けられるのが分かっていたかのように、デュナは、自然と私の傍に屈みこんでいた。
スカイより若干薄いラベンダー色の瞳をほんの少し細めて、優しくこちらを覗き込む。
「あのね……その……いっぱい心配掛けちゃってごめんなさい」
つい思い切り頭を下げると、ぽふんと布団に顔がめり込んだ。
「ええ、ラズが元気になってよかったわ」
デュナが、私の後頭部をぐりぐりと撫で回す。
その声がとっても優しくて、嬉しいような恥ずかしいような、おまけにちょっと申し訳ないような気持ちで顔が熱くなる。
「……フローラおばさんは?」
顔を上げて尋ねる。
おばさんにもちゃんとゴメンナサイって言わなきゃ。
「母さんは今ちょっと出かけてるわ。帰ってきたら教えてあげるから。
ああ、ラズ、痛いところが無いなら、少しずつ体を動かしておく方がいいわよ」
デュナの話によれば、私は丸3日寝続けていたらしい。
それ以前も延々と部屋の片隅に座り込んでいたし、体力はそうとう落ちているようだった。
「スカイ、ラズが外に出たりするときは手伝ってあげるのよ」
「おう」
それだけ指示をすると、デュナはすたすたと自室に戻ってしまった。
宿題が山ほどあるらしい。
「スカイ君は無いの? 宿題」
「ある。けど後でいい」
淀みなく言い切られて、そういうものなんだ……と納得する。
自分は今まで学校に行ったこともなければ、
そんな風に宿題を貰うこともなかったので勝手が分からなかった。
「デュナお姉ちゃんは、お勉強とかあっという間に出来ちゃうんだと思ってた……」
ぽろり。とこぼした言葉に、部屋の窓から外を確認していたスカイが振り返って言う。
「ねーちゃんはすごいよ。宿題だって、学校で済ませちゃうことも多いしさ」
やっぱりそうなんだ。
「けど、ラズが寝込んでからずっと、夜とかもちょこちょこ様子見に来てたみたいだし、それで溜まっちゃったんじゃないか? 宿題」
私の事が心配で、勉強が手に付かなかった……なんて
なんだかデュナらしくないというか、ちょっとイメージできないけど……。
「それよりさ、外行かないか? 体動かした方がいいんだろ?」
スカイが窓の外を指して、瞳を輝かせながら言う。
外はとてもいい天気で、ゆるやかな風がサワサワと木々を揺らしている。
ついさっき、寝てなきゃダメだって布団に押し込んだくせに……と思いつつも、私はその提案に笑顔で頷きを返した。
スカイにはどうやら私を連れて行きたい場所があるらしく、久しぶりに自分の体重を支える両足に不安を感じつつも、ゆっくり後ろをついて歩く。
今日は本当にいい天気だ。
眩しい日差しに照らされて、歩いているとじんわり汗ばむほどだったが、涼しい風がそよそよと優しく吹き続けていて、不快になる事はなかった。
あの日、スカイに手を引かれて歩いた方とはまったくの逆方向だった。
「もうすぐ着くからな。ここを登ったら……」
そう言って、前を歩くスカイが道を開けて示してくれたのは、とても急に見える坂だった。
「うわぁ……ここ、登るの……?」
「疲れたなら一回休むか?」
どうやら、スカイには登らないという選択肢は無いようだ。
「うん……」
しょうがなく、その場で座り込む。
周りを見回しても、椅子になりそうな石だとかそういうものは無いようだった。
お日様にぽかぽか温められた草は、元気いっぱいで、ズボンの上からでも、お尻がちくちくする。
まあ、湿った地面でぐっしょりするよりはいいけど……。
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