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第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。
3.切られた堰(3/3)
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一際大きな地響き。
巨木が地面にめり込んで防波堤にでもなったのか、土の流れが止まる。
「ラズ! ラズ!!!」
遠くか近くかよくわからないところから、スカイの声が聞こえる。
返事をしようにも、私は指一本動かせなかった。
息も吸えない。
吐くことも出来ない。
ああ、生き埋めってこういう事か……と納得した途端、頭上の土が取り除かれた。
「ラズっ!!」
スカイ君。と返事をしようとするのだが、まだ体が挟まれているせいか息が吸えない。
スカイが物凄い勢いで私の周囲の土砂を取り除いてゆく。
その、怒ったような怖い顔が、なぜだか今にも泣き出してしまいそうに見えて、私はハラハラしながら見上げていた。
スッと。酸素が肺に送り込まれる。
背中に乗っていた大きな岩を、スカイがどけた瞬間だった。
「あっ……!!!!」
途端に、今までただ重くて冷たいだけだった体中から痛みを感じる。
どっと溢れる脂汗。
先程までとは違う涙が目の端から滲んでくる。
スカイ君は?
スカイ君はどこも怪我をしてないんだろうか。
痛みにぎゅっと閉じてしまった目を、なんとかこじ開ける。
目前にスカイの顔。
心配そうにこちらを覗き込む、その青い髪が、血に赤く染まっている。
「スカイ君……その、頭……」
「ん?」
スカイが、泥にまみれた手の甲でこめかみの辺りを拭う。
「なんか痛いと思ってたけど、血出てたのか。
こけた拍子にぶつけたみたいだな」
それを聞いた途端、サアッと血の気が引く。
スカイがこけたのは、私が突き飛ばしたからだ。
鮮血は、今もスカイの顎をつたい、ポタポタと地面に痕を残している。
私の……私の、せいで、スカイ君まで死んじゃったら……。
最悪の想像は簡単にできた。
スカイ君が死んでしまったら、フローラおばさんも、デュナお姉ちゃんも、すごく、すごく泣くだろう。
お母さんが死んだとき、お父さんの涙をはじめて見た。
お父さんは、何があっても泣いたりしないんだと思ってた。
クエストで、あちこち怪我したり、骨を折ったりすることがあっても、お父さんはいつも苦笑いだった。
痛そうにしても、泣いたりしなかったのに……。
あの時、お父さんはお母さんの冷たい体を抱えて泣いてた。
叫ぶみたいに泣いて、それから、私をすごく悲しそうな目で見た。
悲しい人を増やしてしまう。
私のせいで。また。
「スカイ、君、じっとしてて……」
左手はまだ引き抜けない。
力を入れようとすると、余計に全身がミシミシと嫌な音を立てた。
動かせる右腕を、なんとかスカイへ伸ばす。
大丈夫。片手でもできるはず。
お母さんが言ってたから。
治癒術が使えない人なんて、この世にいないって言ってたから。
「このくらい大した事ねーよ、それよりお前は……」
また土を掘ろうと移動しかけたスカイを必死で止める。
「行か……ないで……」
言葉を口にする度に、何かが上がってきそうになる。
息をする度に、肺がごぽごぽと嫌な音を立てた。
自分の体がどうなっているのかは分からなかったけれど、今、ちょっとでも気を抜いたら、きっと気を失ってしまう。それだけは分かっていた。
母が父に唱えていた通りの祝詞を口にする。
「お前、治癒術が出来るのか!? まだ職にも就いてないのに!?」
スカイが何か言っているけれど、頭に入ってこない。
正確に、正確に……。
あとはとにかく、神様に助けてくださいって祈る気持ち。
お願いです。神様、スカイ君を助けてください。
スカイ君の血を止めてください。
スカイ君の怪我を治してください。
お願いです。神様。
私はこのままでいいから。
「……その、聖なる御手を、翳し……傷つきし者に、救い、と、安らぎを……」
言えた。
最後まで言えた……。
右手から、白銀の光が溢れ出す。
スカイの頭をするりと包み込むと、見る間に、零れ続けていた血が止まる。
一瞬痛そうに顔をしかめたスカイが、次の瞬間目を丸くする。
「すげぇ!! ちゃんと治った!!」
そっか、スカイ君はいつもフローラおばさんに治癒をかけてもらうから、私が何をしてるのかも分かってたんだね。
「よかった……スカイく……」
そこまで言って、強烈にこみ上げた咳を止められず、激しく咳き込む。
「ラズ!! どこか痛いんだろ!? 今引っ張り出すからな!!」
体中痛くて、どこが痛いのかわからないけれど。
慌ててスカイが立ち上がる。と、私の顔をちらと見たその目が恐怖に染まる。
口元を押さえた私の手は、スカイの頭には触れていないのに、真っ赤に濡れていた。
「お前っっ!!」
スカイが言葉を失う。
あ、スカイ君、泣きそうだ。
何か……何か言ってあげないと……。
「いいんだよ……私は……死んだほうが、いいの……」
だからもういいよ、スカイ君だけお家に帰って……。
後半は声に出来なかったけれど、咄嗟に口をついた言葉は、紛れも無く、私の本心だった。
「そんっっなわけあるか!!」
スカイの怒号を遥か遠くに聞きながら、私の意識は暗闇へと沈んでいった。
巨木が地面にめり込んで防波堤にでもなったのか、土の流れが止まる。
「ラズ! ラズ!!!」
遠くか近くかよくわからないところから、スカイの声が聞こえる。
返事をしようにも、私は指一本動かせなかった。
息も吸えない。
吐くことも出来ない。
ああ、生き埋めってこういう事か……と納得した途端、頭上の土が取り除かれた。
「ラズっ!!」
スカイ君。と返事をしようとするのだが、まだ体が挟まれているせいか息が吸えない。
スカイが物凄い勢いで私の周囲の土砂を取り除いてゆく。
その、怒ったような怖い顔が、なぜだか今にも泣き出してしまいそうに見えて、私はハラハラしながら見上げていた。
スッと。酸素が肺に送り込まれる。
背中に乗っていた大きな岩を、スカイがどけた瞬間だった。
「あっ……!!!!」
途端に、今までただ重くて冷たいだけだった体中から痛みを感じる。
どっと溢れる脂汗。
先程までとは違う涙が目の端から滲んでくる。
スカイ君は?
スカイ君はどこも怪我をしてないんだろうか。
痛みにぎゅっと閉じてしまった目を、なんとかこじ開ける。
目前にスカイの顔。
心配そうにこちらを覗き込む、その青い髪が、血に赤く染まっている。
「スカイ君……その、頭……」
「ん?」
スカイが、泥にまみれた手の甲でこめかみの辺りを拭う。
「なんか痛いと思ってたけど、血出てたのか。
こけた拍子にぶつけたみたいだな」
それを聞いた途端、サアッと血の気が引く。
スカイがこけたのは、私が突き飛ばしたからだ。
鮮血は、今もスカイの顎をつたい、ポタポタと地面に痕を残している。
私の……私の、せいで、スカイ君まで死んじゃったら……。
最悪の想像は簡単にできた。
スカイ君が死んでしまったら、フローラおばさんも、デュナお姉ちゃんも、すごく、すごく泣くだろう。
お母さんが死んだとき、お父さんの涙をはじめて見た。
お父さんは、何があっても泣いたりしないんだと思ってた。
クエストで、あちこち怪我したり、骨を折ったりすることがあっても、お父さんはいつも苦笑いだった。
痛そうにしても、泣いたりしなかったのに……。
あの時、お父さんはお母さんの冷たい体を抱えて泣いてた。
叫ぶみたいに泣いて、それから、私をすごく悲しそうな目で見た。
悲しい人を増やしてしまう。
私のせいで。また。
「スカイ、君、じっとしてて……」
左手はまだ引き抜けない。
力を入れようとすると、余計に全身がミシミシと嫌な音を立てた。
動かせる右腕を、なんとかスカイへ伸ばす。
大丈夫。片手でもできるはず。
お母さんが言ってたから。
治癒術が使えない人なんて、この世にいないって言ってたから。
「このくらい大した事ねーよ、それよりお前は……」
また土を掘ろうと移動しかけたスカイを必死で止める。
「行か……ないで……」
言葉を口にする度に、何かが上がってきそうになる。
息をする度に、肺がごぽごぽと嫌な音を立てた。
自分の体がどうなっているのかは分からなかったけれど、今、ちょっとでも気を抜いたら、きっと気を失ってしまう。それだけは分かっていた。
母が父に唱えていた通りの祝詞を口にする。
「お前、治癒術が出来るのか!? まだ職にも就いてないのに!?」
スカイが何か言っているけれど、頭に入ってこない。
正確に、正確に……。
あとはとにかく、神様に助けてくださいって祈る気持ち。
お願いです。神様、スカイ君を助けてください。
スカイ君の血を止めてください。
スカイ君の怪我を治してください。
お願いです。神様。
私はこのままでいいから。
「……その、聖なる御手を、翳し……傷つきし者に、救い、と、安らぎを……」
言えた。
最後まで言えた……。
右手から、白銀の光が溢れ出す。
スカイの頭をするりと包み込むと、見る間に、零れ続けていた血が止まる。
一瞬痛そうに顔をしかめたスカイが、次の瞬間目を丸くする。
「すげぇ!! ちゃんと治った!!」
そっか、スカイ君はいつもフローラおばさんに治癒をかけてもらうから、私が何をしてるのかも分かってたんだね。
「よかった……スカイく……」
そこまで言って、強烈にこみ上げた咳を止められず、激しく咳き込む。
「ラズ!! どこか痛いんだろ!? 今引っ張り出すからな!!」
体中痛くて、どこが痛いのかわからないけれど。
慌ててスカイが立ち上がる。と、私の顔をちらと見たその目が恐怖に染まる。
口元を押さえた私の手は、スカイの頭には触れていないのに、真っ赤に濡れていた。
「お前っっ!!」
スカイが言葉を失う。
あ、スカイ君、泣きそうだ。
何か……何か言ってあげないと……。
「いいんだよ……私は……死んだほうが、いいの……」
だからもういいよ、スカイ君だけお家に帰って……。
後半は声に出来なかったけれど、咄嗟に口をついた言葉は、紛れも無く、私の本心だった。
「そんっっなわけあるか!!」
スカイの怒号を遥か遠くに聞きながら、私の意識は暗闇へと沈んでいった。
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