上 下
38 / 113
第2話 橙色の夕日 : 強い光の射すところには、強い影もまた現れて……。

2.遺跡(6/6)

しおりを挟む
魔術師、魔法使い、盗賊。
我がパーティーは、その半分以上が魔法使いで構成されている。
よって、魔法が使えないとなると、その実力は当然半分以下になる。
「ああー……ええと、その分、魔物も居ませんので……」
あからさまにげんなりとしてしまったデュナに、ファルーギアさんがあたふたと声をかける。
遺跡内で戦闘になる可能性は無い。と言う事か。
「じゃあ行きましょうか……」
どことなく覇気のない感じで、デュナがふらりと部屋を出ようとする。
その背中を慌てて追ったファルーギアさんが、千ピース札を差し出す。
見たところ、五枚以上は重なっている感じだ。

前金……かな?

「報酬は、フィーメリアさんを連れ帰ってからでいいわ」
それをデュナがそっと押し戻した。
クエストの報酬というのは基本的に後払いである。
長期のクエや準備にお金がかかるようなクエの場合は別だが
今回はそういうわけでもないし、クエが必ず成功するとも限らない。
いや、もちろん成功させたいとは思っているけれど……。

デュナの表情はメガネに隠れて見えなかった。
現金に弱いデュナの事だから、きっと複雑な心境で返したのだろう。

遺跡の入り口に着いた頃には、デュナのやる気は満々になっていた。
遺跡に向かう林の中で、デュナがじっと俯いて歩いていたのは
もしかすると、さっき目の前に差し出されたお札の使い道を考えていたのかもしれない。

「フォルテ、本当についてくるのね?」
遺跡に入ろうかというところで、デュナがもう一度確認する。
「遺跡が崩れてぺちゃんこになっちゃうかもしれないわよ?
 私は、今回魔法が使えないから、あなたをちゃんと守れる自信が無いの。
 それでもいいのね?」
デュナの包み隠さない言葉にフォルテがこっくりと頷く。
「うん。ついていく」
「そう、じゃあ行くわよ。今回はスカイが先頭ね。私は一番後ろから行くわ」
デュナは昔から、本人の意思を第一に尊重する。
私が、フォルテを手放したくないと言ったときも、フォルテが、私達の冒険について行きたいと言ったときも。
まあ、スカイだけは意思を完全に無視されている気がしなくもないが。

普段はデュナ、私、フォルテ、スカイの順で歩くのだが、今回はスカイとデュナが入れ替わるらしい。
「あんたは昨日ほとんど役に立たなかったんだから。今日はその分も頑張りなさいよね」
デュナの厳しい言葉にスカイが振り返って反論する。
「昨日だって決死のダイビングしてただろ!? 三階から飛び降りろっつったの誰だよ!」
「あんたがもっと早く目覚めて、二人を連れて降りて来ればよかっただけでしょ」
「俺は睡眠薬を致死量飲まされてたんだぞ!?」
「飲まされてたんじゃなくて、自分から喜んで飲んでたんでしょ。
 まったく、食い意地が張ってるんだから」
「ねーちゃんだって自分から飲んでたじゃねーか! 自分の事棚に上げて……」
このままではまた、結果の見えている無意味な姉弟喧嘩がはじまってしまう。
「ほらほら、スカイ、そろそろ行こ? フィーメリアさん助けなきゃ」
「お、おう。そうだな……」
フィーメリアさんの名前に、本来の目的を取り戻したのか、スカイが前に向き直った。
「先頭ー、しっかりしなさいよー」
後ろからデュナの声が飛ぶ。
「分かってるよ!!」

あんまり遺跡内で大きな声は出さないほうがいいと思うんだけどなぁ。
崩れてきても、デュナは障壁を張れないわけだし……。

なんだか、先行きが、ほんのちょっとだけ不安になってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

フラワーキャッチャー

東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。 実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。 けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。 これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。   恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。 お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。 クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。 合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。 児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

処理中です...