鳥に追われる

白木

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第四章 守護鳥の夢

新しい世界

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神様


 移動が始まった。

 目の前には僕に最後まで抵抗した人間が座り込んでいる。茫然としたその表情を見て悲しくなる。

 ――救ってあげたかった。この子のこれから続く果てしない孤独を思うと胸が締めつけられた。

 どうして誰も僕の気持ちをわかってくれないのだろう。

 みんな僕を見て「美しい」と言うけれど、その言葉と裏腹に僕を突き放して、決して受け入れてはくれない。

 さっきは僕のとても好きだった回収人にすら軽蔑の目で見られて、とても悲しかった。その上、僕の左眼に入ってきてくれたのは良いが、中で暴れ出し、細胞として定着することを拒んだ。

 おかげで僕の左眼は回収人の意識を持ったまま存在することになってしまった。本当は僕の眼、そのものになって欲しかったのに。

 そしてもう一人の回収人、自分のことをローヌと名乗っていたあの子もだ。

 本来なら移動の途中で燃え尽きてしまう未熟な魂に、自分の心臓を与えてしまった。あの未熟児が今後どうなるのか、前例がないからわからない。

 あの心臓を喰う鳥が言っていたことも、僕は知らなかった。

 黒いコスモス――。

 黄色いコスモスが僕の血を好んで吸うとは聞いたことがある。だがそれが変色して黒になるとは知らなかった。そしてなんでそれが心臓を喰う鳥の胸の中にあったんだろう。

 あの子たちは僕の理解を超えて気まぐれだ。

 気まぐれと言えば監視鳥もだ。

 本体の中の人格に『恋』をしたと言っていた。僕には意味がわからない。それは僕を裏切るほどに強い気持ちなの? 次の世界に着いたら聞いてみたい。

 目の前に座る人間の本体以外の人格は、それぞれ全てを忘れて新しい命を始めるだろう。本体のこの子だけが忘れ切れずに苦しむ。

 永遠の孤独に苦しむ様子を見ていられず、僕が殺してきた他の人間と同じように。この子は耐えてみせると言った。君は奇跡を起こせるの? 僕にすら破れない分厚い孤独の雲から抜け出すことが出来るの?

 ――見てみたい。

「おいで」

 拒否されるのを覚悟で目の前の人間に腕を伸ばす。

 思い出してもらえない悲しみ、わかってもらえない悲しみは僕が誰より知っている。君もこれからずっとそんな思いを抱え続けるんだね。

 僕の予想に反して、その子は僕の胸に寄りかかってきてくれた。

 僕を信じてくれるの? 

「君には僕がいるよ」

 そう言って、僕の左眼がいつか奇跡をおこして、この温かい人間を救ってくれることを願った。

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