55 / 94
第三章 神様のいない海
僕の知らない人
しおりを挟む
オオミ
さっきから回収人さんのグラスの中身が気になってたんだ。
僕はこの世界のルールに最後まで抗う、それはもう決めた。
朝――というのは夜明けのことなのか、それとも完全に陽が昇ってからなのか知らないが、それがいつ来ても、僕の決心は一ミリも揺るがない。
回収人さんのグラスをさっき横目で見た。青い液体が入っていた。グラスの形と回収人さんの渋さから、勝手にワインを飲んでいると思い込んでいたけれど、トロピカルとも健康的とも言えない、透明な青の飲み物だった。
「それが、あなたの力の源なら、何かヒントになるかも知れません」
回収人さんが珍しく、
「ああ、きっとそうだ」
と全く何も考えてないような返事をして、厨房の中の、僕の背丈以上もある給水タンクに向かった。
青い液体をグラスに注ぐと、その場で一気に飲み干している。
更になみなみともう一度注ぎ、僕たちの所へ戻って来た。
「悪いな、それで何の話だった?」
やっぱり全然聞いてなかった。
「神様の水ですよ。『神様』って、地名か何かですか?」
回収人さんが、これもらしくない弱った顔を見せた。
「参ったな、俺はそんなことを口走ってしまったか。お前たちに『神様』なんて言っても通じないよな。全て説明するのは物凄く時間がかかるから、俺との関係だけ説明すると、俺の父親みたいもんだ」
回収人さんが家族の話をしてくれるなんて思ってもいなかった。
存命ならもうかなりの高齢だろう。
「回収人さんのお父さんですか? きっとかっこいいんだろなあ」
「そうだな、見てみたいな。写真はないのか? やっぱり船長みたいな仕事をしているのか?」
明日どうなるかも知れないのに、僕とアオチさんは直ぐこうなってしまう。
「写真はないよ。格好いいというか、気が狂うくらいきれいな人だ」
身内のことをそんな風に言う人初めてだ。
「仕事はそうだなあ。世界を浄化してる」
「環境関係ですか」
回収人さんがどうでも良さそうに答える。
「ああ、そんな感じだ。それで、この水は神様の血なんだ」
え? 血を呑む? 青い血を? 落ち着こう、回収人さんは常にふざけていたい人だってアオチさんが言っていた。
「お父さんの血、美味しいんですか」
「青い血なんてあるかよ」
二人で突っ込んでみた。
「真面目な話をするぞ。『神様』の概念がないお前たちにどうやって説明すれば良いのかわからないが、真実を単純に伝える」
声も顔もすっと真剣になり、グラスを置いた回収人さんが長い脚を組みなおした。
「俺は――俺たち回収人は神様の右手の中で生まれた。最初に世界が終わりかけた時、こういう声が聞こえたんだ。『散った命を回収して』ってな。次の瞬間、船と共に海に放たれていた。怖くはなかったよ。いつも神様と繋がっていることを知っていたから。海岸に行きついて、神様の言葉の意味を考えている時、向こうから一人の男が現れた。それが俺の最初の乗客だ。他の回収人の船を見かけることもあったけれど、お互い干渉はしなかった。どうせいつかは神様の右手に戻って一つになるから」
アオチさんの顔を覗いてみた。理解できているだろか? 神様とは、回収人さんのお父さんとは何者なんだ? 環境関係の偉い人とかではないのは確かだ。
アオチさんの横顔は真剣そのものだ。アオチさんが信じようとしているのなら、僕も信じよう。
「神様の監視鳥が俺たちの仕事を手伝ってくれた。海を漂っている俺たちの船に、適切な人間を誘導してくれるんだ。アオチの会った、あの美しい黒い鳥がその一羽だ。監視鳥はたくさんいるが、担当が決まっているようで、俺の船の周りにはいつもあの鳥が飛ぶんだ」
そう言ったあと、回収人さんはまた少し黙って、灰色の目を伏せた。
「――なあ、無言ちゃんとウルウを連れて来てくれないか。神様の話は二人にもしておきたい」
さっきから回収人さんのグラスの中身が気になってたんだ。
僕はこの世界のルールに最後まで抗う、それはもう決めた。
朝――というのは夜明けのことなのか、それとも完全に陽が昇ってからなのか知らないが、それがいつ来ても、僕の決心は一ミリも揺るがない。
回収人さんのグラスをさっき横目で見た。青い液体が入っていた。グラスの形と回収人さんの渋さから、勝手にワインを飲んでいると思い込んでいたけれど、トロピカルとも健康的とも言えない、透明な青の飲み物だった。
「それが、あなたの力の源なら、何かヒントになるかも知れません」
回収人さんが珍しく、
「ああ、きっとそうだ」
と全く何も考えてないような返事をして、厨房の中の、僕の背丈以上もある給水タンクに向かった。
青い液体をグラスに注ぐと、その場で一気に飲み干している。
更になみなみともう一度注ぎ、僕たちの所へ戻って来た。
「悪いな、それで何の話だった?」
やっぱり全然聞いてなかった。
「神様の水ですよ。『神様』って、地名か何かですか?」
回収人さんが、これもらしくない弱った顔を見せた。
「参ったな、俺はそんなことを口走ってしまったか。お前たちに『神様』なんて言っても通じないよな。全て説明するのは物凄く時間がかかるから、俺との関係だけ説明すると、俺の父親みたいもんだ」
回収人さんが家族の話をしてくれるなんて思ってもいなかった。
存命ならもうかなりの高齢だろう。
「回収人さんのお父さんですか? きっとかっこいいんだろなあ」
「そうだな、見てみたいな。写真はないのか? やっぱり船長みたいな仕事をしているのか?」
明日どうなるかも知れないのに、僕とアオチさんは直ぐこうなってしまう。
「写真はないよ。格好いいというか、気が狂うくらいきれいな人だ」
身内のことをそんな風に言う人初めてだ。
「仕事はそうだなあ。世界を浄化してる」
「環境関係ですか」
回収人さんがどうでも良さそうに答える。
「ああ、そんな感じだ。それで、この水は神様の血なんだ」
え? 血を呑む? 青い血を? 落ち着こう、回収人さんは常にふざけていたい人だってアオチさんが言っていた。
「お父さんの血、美味しいんですか」
「青い血なんてあるかよ」
二人で突っ込んでみた。
「真面目な話をするぞ。『神様』の概念がないお前たちにどうやって説明すれば良いのかわからないが、真実を単純に伝える」
声も顔もすっと真剣になり、グラスを置いた回収人さんが長い脚を組みなおした。
「俺は――俺たち回収人は神様の右手の中で生まれた。最初に世界が終わりかけた時、こういう声が聞こえたんだ。『散った命を回収して』ってな。次の瞬間、船と共に海に放たれていた。怖くはなかったよ。いつも神様と繋がっていることを知っていたから。海岸に行きついて、神様の言葉の意味を考えている時、向こうから一人の男が現れた。それが俺の最初の乗客だ。他の回収人の船を見かけることもあったけれど、お互い干渉はしなかった。どうせいつかは神様の右手に戻って一つになるから」
アオチさんの顔を覗いてみた。理解できているだろか? 神様とは、回収人さんのお父さんとは何者なんだ? 環境関係の偉い人とかではないのは確かだ。
アオチさんの横顔は真剣そのものだ。アオチさんが信じようとしているのなら、僕も信じよう。
「神様の監視鳥が俺たちの仕事を手伝ってくれた。海を漂っている俺たちの船に、適切な人間を誘導してくれるんだ。アオチの会った、あの美しい黒い鳥がその一羽だ。監視鳥はたくさんいるが、担当が決まっているようで、俺の船の周りにはいつもあの鳥が飛ぶんだ」
そう言ったあと、回収人さんはまた少し黙って、灰色の目を伏せた。
「――なあ、無言ちゃんとウルウを連れて来てくれないか。神様の話は二人にもしておきたい」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)
スイーツ阿修羅
ファンタジー
「オ◯ニーのフィニッシュ後、10分間のあいだ。ステータス上昇し、賢者となる」
こんな恥ずかしいスキルを持ってるだなんて、誰にも知られる訳にはいけない!
クラスメイトがボスと戦ってる最中に、オ○ニーなんて恥ずかしくてできない!
主人公ーー万波行宗は、羞恥心のあまり、クラスメイトに自分のスキルを隠そうとするが……
クラスメイトがピンチに陥り、彼はついに恥を捨て戦う決意をする。
恋愛✕ギャグ✕下ネタ✕異世界✕伏線✕バトル✕冒険✕衝撃展開✕シリアス展開
★★★★★
カクヨム、ハーメルンにて旧版を配信中!
これはアルファポリスの小説賞用に書き直した(新版)です。
平凡と、もふもふ。
鶴上修樹
ライト文芸
「もふっ! もっふふぅ〜!」
平凡な会社員の『僕』の前に現れたのは、見た事がない黒い生き物。身体も鳴き声ももふもふな黒い生き物は『もふー』と名づけられ、そのまま暮らす事に。『僕』と『もふー』の、平凡で不思議な生活が始まった。
もふもふな生き物に、あなたも癒される。千文字以内のもふもふショートショート集。
Defense 2 完結
パンチマン
ライト文芸
平和、正義
この2つが無秩序に放たれた島。
何が正義で、何が平和なのか。
勝った者だけが描け、勝った者だけが知り、勝った者だけが許される。
架空の世界を舞台に平和正義の本質に迫る長編ストーリー。
*完結
バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら
なかじまあゆこ
ライト文芸
嫉妬や憧れや様々な気持ちが交錯する。
派遣社員の成田葉月は突然解雇された。
成田葉月《なりたはづき》さん、申し訳ありませんが業績悪化のため本日で辞めて頂きたいと派遣先から連絡がありました。また、他に良い仕事があればご紹介しますので」との一本の電話だけで。
その後新しく紹介された派遣先は豪華なお屋敷に住むコメディ女優中川英美利の家だった。
わたし、この人をよく知っている。
そうなのだ、中川英美利は葉月の姉順子の中学生時代のクラスメートだった。順子は現在精神が病み療養中。
お仕事と家族、妬みや時には笑いなどいろんな感情が混ざり合った物語です。
2020年エブリスタ大賞最終候補作品です。
パドックで会いましょう
櫻井音衣
ライト文芸
競馬場で出会った
僕と、ねえさんと、おじさん。
どこに住み、何の仕事をしているのか、
歳も、名前さえも知らない。
日曜日
僕はねえさんに会うために
競馬場に足を運ぶ。
今日もあなたが
笑ってそこにいてくれますように。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
セリフ箱
えと
ライト文芸
セリフ読みがしたい!
台本探してマースって人の選択肢を増やしたくて書いたやつです。
使用する場合
@ETO_77O
と、Twitterでメンションしていただければ1番いいのですが
・引用先としてセリフ箱のリンクを載せる
・DMやリプライなどにて声をかける
など…使用したということを教えていただけれると幸いです。フリーなのでなくても構いません。
単純自分の台本が読まれるのが嬉しいので…聴きたいって気持ちも強く、どのように読んでくださるのか、自分だったらこう読むけどこの人はこうなの!?勉強になるなぁ…みたいな、そんな、ひとつの好奇心を満たしたいっていうのが大きな理由となっていおります。
そのため、あまり気にせす「視聴者1人増えるんか!」ってくらいの感覚でお声かけください
ご使用の連絡いつでもお待ちしております!
なお、「このセリフ送ったはいいものの…この人のキャラに合わなかったな…」って言うことで没案になってしまったセリフの供養もここでします。
「これみたことあるぞ!?」となった場合はそういうことだと察して頂けると幸いです
むこう側から越える者
akaoni_liquid
ライト文芸
ある日自宅におかしな手紙が届く。
そこにはこんな風に書かれていた『あなたの命は危険な状態。放っておいたら死に至る』
※ホラーちっくな導入ですがホラーではないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる