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第三章 神様のいない海
心に飼う鳥
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オゼ
マモルの背後から窓の外を見て息をのんだ。
「ノンノだ……」
マモルの飼っていた黄色の羽のあのインコ。今はウルウの背中に描かれ、そこに住んでいるはずのあの鳥が海面を舞っていた。
インコってこんな風に飛べるのか? 生前のカゴと部屋の中しか知らなかった翼を開放するように気ままに踊っている。
綺麗だ。最近色んな鳥をまじまじと眺める機会が急に増えたが、鳥は美しい。人間のフォルムの方が失敗作ではないかとすら思い始めている。でも……
「――どうして透明なんだ?」
誰にともなく尋ねた。
ノンノの身体の向こうに夜が透けて見えている。それにインコにしてはやけにデカい。
はっきりとノンノだとわかるのは、透明の身体の周囲に滲む光の色を知っているからだ。
あれはノンノの黄色だ。というか、俺はいつからこんな風に色を見分けられるようになった?
「かわいい鳥ね」
おばさんが俺の問いには答えず、静かに言う。
「心の中に飼う鳥の色は、心の中に直接見えるから、透明でいいんだよ」
急にローヌの声がして振り返る。食事を乗せたワゴンが横にあるから、これを押してきたに違いないのに、全然音がしなかった。
置いてある食事に銀色のフタがされていて、中身が見えない。
「心に飼う鳥って?」
「青い鳥の話を知っているかい?」
ローヌも窓を覗き込みながら質問に質問で返してきた。
「まあ、何となく」
正直、今ここでストーリーを言えと言われたら困る。
「あれは空想の物語にしては割と当たってるよ。君たちはみんな、心に色を変える鳥を飼っている。居る場所によって色を変える鳥だよ」
「ごめんな、全然わからない」
青い鳥ってそんな話だったのか。
得意気に話していたローヌがしゅんとしたのが気まずくて話題を変える。
「ノンノはさ、インコなんだ。こんな海の真ん中を飛び回っていたら死んでしまうかも知れない。パンくずでも持って外へ出て、船の中に呼び寄せた方が――」
矛盾だらけの自分に気がついて口をつぐんだ。
「オゼくん、あの鳥はもう死んでる」
おばさんが苦笑いで言って、マモルも丸い頬を持ち上げて笑った。そうだ、自分の殺した死人の乗る船に、死んだ鳥が心配だからと呼び寄せるなんて。何を考えてるんだ、俺は。
「ノンノが木にとまったよ」
マモルの指さした方を見て、また驚いた。
細い幹に、可憐な枝を伸ばした木が海に立っていた。スタイルの良い木だ――そう思った。木にスタイルとか、自分でもおかしいと感じるけれど、さっきからずっと、鳥や木の方が俺よりずっと主役に見える。俺の方こそ背景なんだ、そんな考えがじわじわと心を浸食していた。
「そんなことで驚いているようじゃ、夜明けまでもつのかな……それより、早く夕飯にしよう、せっかく作ったのに、のびちゃうよ」
マモルの背後から窓の外を見て息をのんだ。
「ノンノだ……」
マモルの飼っていた黄色の羽のあのインコ。今はウルウの背中に描かれ、そこに住んでいるはずのあの鳥が海面を舞っていた。
インコってこんな風に飛べるのか? 生前のカゴと部屋の中しか知らなかった翼を開放するように気ままに踊っている。
綺麗だ。最近色んな鳥をまじまじと眺める機会が急に増えたが、鳥は美しい。人間のフォルムの方が失敗作ではないかとすら思い始めている。でも……
「――どうして透明なんだ?」
誰にともなく尋ねた。
ノンノの身体の向こうに夜が透けて見えている。それにインコにしてはやけにデカい。
はっきりとノンノだとわかるのは、透明の身体の周囲に滲む光の色を知っているからだ。
あれはノンノの黄色だ。というか、俺はいつからこんな風に色を見分けられるようになった?
「かわいい鳥ね」
おばさんが俺の問いには答えず、静かに言う。
「心の中に飼う鳥の色は、心の中に直接見えるから、透明でいいんだよ」
急にローヌの声がして振り返る。食事を乗せたワゴンが横にあるから、これを押してきたに違いないのに、全然音がしなかった。
置いてある食事に銀色のフタがされていて、中身が見えない。
「心に飼う鳥って?」
「青い鳥の話を知っているかい?」
ローヌも窓を覗き込みながら質問に質問で返してきた。
「まあ、何となく」
正直、今ここでストーリーを言えと言われたら困る。
「あれは空想の物語にしては割と当たってるよ。君たちはみんな、心に色を変える鳥を飼っている。居る場所によって色を変える鳥だよ」
「ごめんな、全然わからない」
青い鳥ってそんな話だったのか。
得意気に話していたローヌがしゅんとしたのが気まずくて話題を変える。
「ノンノはさ、インコなんだ。こんな海の真ん中を飛び回っていたら死んでしまうかも知れない。パンくずでも持って外へ出て、船の中に呼び寄せた方が――」
矛盾だらけの自分に気がついて口をつぐんだ。
「オゼくん、あの鳥はもう死んでる」
おばさんが苦笑いで言って、マモルも丸い頬を持ち上げて笑った。そうだ、自分の殺した死人の乗る船に、死んだ鳥が心配だからと呼び寄せるなんて。何を考えてるんだ、俺は。
「ノンノが木にとまったよ」
マモルの指さした方を見て、また驚いた。
細い幹に、可憐な枝を伸ばした木が海に立っていた。スタイルの良い木だ――そう思った。木にスタイルとか、自分でもおかしいと感じるけれど、さっきからずっと、鳥や木の方が俺よりずっと主役に見える。俺の方こそ背景なんだ、そんな考えがじわじわと心を浸食していた。
「そんなことで驚いているようじゃ、夜明けまでもつのかな……それより、早く夕飯にしよう、せっかく作ったのに、のびちゃうよ」
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