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第二章 選別の船
選択の方向
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オゼ
そういうことか、合点がいった。
次の世界に連れて行くのに見合うやつかどうか、この船旅の時間で見極めているということか。
それなら俺は、別に連れて行ってもらえなくても構わない。
その時そう思った。だって、死人のおばさんやマモルはこの世界に置き去りにされることが確定している。最後だから会いに来てくれたに違いない。俺だけ次の世界に進むなんて考えられない。寂しかった俺を救ってくれた二人と、この世界に残る。
そう心に決めると酷く落ち着いて、むしろ穏やかな気持ちになった。
「選ばれなかったらどうなるんだ。残されたこの世界はどうなる」
今となっては心臓回収人兼、人間判定官が俺を泣きそうな目で見返した。
いや、こいつに限って気のせいか。午後の柔らかい日差しのせいで目が濡れているように見えるだけだ。
「月が落ちて無になる」
「ん? それポエムか何か?」
「詩じゃねえよ、事実だ。今、空に白く浮いているあの月が、明日の朝、この世界に落ちて全部無かったことになるんだよ」
「俺は残る」
きっぱりと言った。もう迷いはなかった。
「おい、お前、何言ってんだよ。ちょっと話そうぜ」
立ち上がったのはアオチだった。またこいつおせっかいの正義感か。それも何だか心にじんわり来た。
「待ってください。僕だって二人と話し合いたいのはやまやまです。でも、まず今わかっていることを整理しましょう。話はそれからです」
オオミの言葉にアオチがそのまま座った。こいつら本当に兄弟みたいで面白い。この世界が終わるなんて話が嘘なら、この旅行を機にもっと親しくなりたかった。久しく忘れていた感情だ。
「いいぞ、眼鏡。お前のまとめを話してみろよ。間違っていたら訂正してやる」
回収人はオオミに甘い。本人が気がついているか知らないが絶対にお気に入りだ。次の世界に行く時にもきっと守ってくれる。
「えっと……まず明日の朝、この世界が終わる。そして次の世界に行く人、この世界に残される人の選別は数週間前から始まっていた。何故そう思うかというと、燃える心臓が海で目撃されるようになったのがそれ位前だからです。燃える心臓は次の世界に行けない事が確定した人達のもの。もしかして選別は船とは限らないのではないですか? 飛行機とか汽車とか色んな所で行われている。やっぱりわからないのは少し遅れて現れた鳥です。鳥の群れが話題になったのは三日前からだ。しかも今朝なんて目玉を咥えた鳥まで見ました。彼らの役割は何でしょうか?」
オオミが息をついて回収人を見た。
「うーん、半分半分ってとこだな。前半は合ってるよ。後半は訂正してやる。まず、選別の場所は全て船だ。故郷に海がないとか、船が怖いとかそんなことは関係ない。みんな船に乗って故郷へ行くように仕向けられて、そこで選別される。それから鳥の役割は、次の世界への移動が滞りなく行われるための監視と調整だ。お前らが気が付かなかっただけで、ずっと前からこの世界にいる。あと、目玉か……目玉が残っていると、蘇ってしまうんだ。だから選別で連れていけないと判断されたやつらは目玉を鳥に喰われて、心臓は船の燃料になり、他の部分は塵になって終わる」
「うっ……」
鳥が怖いオオミの顔がこわばるが、必死に耐えて次のまとめへと移る。
「そうですか……ありがとうございます。それではきっと監視と調整役の鳥が、故郷の同じ人を見つけては船に誘っている。その船には一人ずつ、回収人兼選別人が乗っている。そして船は見捨てられた心臓を燃料にしてそれぞれの町へ向かう。道中、次の世界にふさわしくないものは殺される、隣の船がそうだったように――」
「お前、毎回惜しいよ。今回は三分の二位は合ってる」
「そうですか?」
何でオオミは少し嬉しそうなんだ。先生に「さっきより良くなってる」と褒められた生徒みたいな顔をしている。
「最後のは違うぞ。俺は誰も殺す気なんてない。そんなことしてもどうしようもない。連れて行けないやつはどうしたって弾かれる。世界が無になる前にどうせ消えるのに、わざわざ殺す必要なんてないだろ」
ほっとした。こいつが人を殺す姿は想像できないし、したくもない。何なら残ると立候補した俺が最初に殺されかねなかった。
「じゃあ、隣の船のあれは何だったんだ?」
俺も疑問を口にしてみた。
「それは言いたくない」
即答された。オオミとえらく対応が違うじゃないか。
「なんだよ、それ」
「あっちの船のことだから、憶測でわかったような事を言いたくない。そこの血まみれ女に聞くか、ウルウル言ってるやつに聞け。一番良いのは向こうの回収人に聞くことだ」
「どれも無理だろ。血まみれ女は一言もしゃべらないし、『ウ』と『ル』じゃ何もわからない。向こうの回収人にいたってはお前が海に落としたんだろうが」
突っ込み待ちとしか思えない。こいつは結構ふざけるタイプだ。
「うるう――」
ウルウが愛嬌のある目を一生懸命恨めしそうに歪めて抗議している。自分だって会話が出来ると言いたいらいしい。というか、死人が乗っている俺たちに言われたくないかも知れないが、そっちの船のメンバーはどうなってるんだ。一目見て危ないやつらと、殺人狂の回収人というヤバさだ。こいつらこそ、単に故郷が同じだけで集められた他人同士なのか?
「なあ、もう一ついいか」
「なんだ? 色白のっぽ」
「急にその呼び方止めろよ。――梯子は外れないんだよな。と言うことは二つの船のどちらの行先に向かうんだ?」
回収人がにやりと笑う。やっぱりこいつ遊んでる。
「どっちの故郷だろうな。思いの強い方じゃねえか」
そういうことか、合点がいった。
次の世界に連れて行くのに見合うやつかどうか、この船旅の時間で見極めているということか。
それなら俺は、別に連れて行ってもらえなくても構わない。
その時そう思った。だって、死人のおばさんやマモルはこの世界に置き去りにされることが確定している。最後だから会いに来てくれたに違いない。俺だけ次の世界に進むなんて考えられない。寂しかった俺を救ってくれた二人と、この世界に残る。
そう心に決めると酷く落ち着いて、むしろ穏やかな気持ちになった。
「選ばれなかったらどうなるんだ。残されたこの世界はどうなる」
今となっては心臓回収人兼、人間判定官が俺を泣きそうな目で見返した。
いや、こいつに限って気のせいか。午後の柔らかい日差しのせいで目が濡れているように見えるだけだ。
「月が落ちて無になる」
「ん? それポエムか何か?」
「詩じゃねえよ、事実だ。今、空に白く浮いているあの月が、明日の朝、この世界に落ちて全部無かったことになるんだよ」
「俺は残る」
きっぱりと言った。もう迷いはなかった。
「おい、お前、何言ってんだよ。ちょっと話そうぜ」
立ち上がったのはアオチだった。またこいつおせっかいの正義感か。それも何だか心にじんわり来た。
「待ってください。僕だって二人と話し合いたいのはやまやまです。でも、まず今わかっていることを整理しましょう。話はそれからです」
オオミの言葉にアオチがそのまま座った。こいつら本当に兄弟みたいで面白い。この世界が終わるなんて話が嘘なら、この旅行を機にもっと親しくなりたかった。久しく忘れていた感情だ。
「いいぞ、眼鏡。お前のまとめを話してみろよ。間違っていたら訂正してやる」
回収人はオオミに甘い。本人が気がついているか知らないが絶対にお気に入りだ。次の世界に行く時にもきっと守ってくれる。
「えっと……まず明日の朝、この世界が終わる。そして次の世界に行く人、この世界に残される人の選別は数週間前から始まっていた。何故そう思うかというと、燃える心臓が海で目撃されるようになったのがそれ位前だからです。燃える心臓は次の世界に行けない事が確定した人達のもの。もしかして選別は船とは限らないのではないですか? 飛行機とか汽車とか色んな所で行われている。やっぱりわからないのは少し遅れて現れた鳥です。鳥の群れが話題になったのは三日前からだ。しかも今朝なんて目玉を咥えた鳥まで見ました。彼らの役割は何でしょうか?」
オオミが息をついて回収人を見た。
「うーん、半分半分ってとこだな。前半は合ってるよ。後半は訂正してやる。まず、選別の場所は全て船だ。故郷に海がないとか、船が怖いとかそんなことは関係ない。みんな船に乗って故郷へ行くように仕向けられて、そこで選別される。それから鳥の役割は、次の世界への移動が滞りなく行われるための監視と調整だ。お前らが気が付かなかっただけで、ずっと前からこの世界にいる。あと、目玉か……目玉が残っていると、蘇ってしまうんだ。だから選別で連れていけないと判断されたやつらは目玉を鳥に喰われて、心臓は船の燃料になり、他の部分は塵になって終わる」
「うっ……」
鳥が怖いオオミの顔がこわばるが、必死に耐えて次のまとめへと移る。
「そうですか……ありがとうございます。それではきっと監視と調整役の鳥が、故郷の同じ人を見つけては船に誘っている。その船には一人ずつ、回収人兼選別人が乗っている。そして船は見捨てられた心臓を燃料にしてそれぞれの町へ向かう。道中、次の世界にふさわしくないものは殺される、隣の船がそうだったように――」
「お前、毎回惜しいよ。今回は三分の二位は合ってる」
「そうですか?」
何でオオミは少し嬉しそうなんだ。先生に「さっきより良くなってる」と褒められた生徒みたいな顔をしている。
「最後のは違うぞ。俺は誰も殺す気なんてない。そんなことしてもどうしようもない。連れて行けないやつはどうしたって弾かれる。世界が無になる前にどうせ消えるのに、わざわざ殺す必要なんてないだろ」
ほっとした。こいつが人を殺す姿は想像できないし、したくもない。何なら残ると立候補した俺が最初に殺されかねなかった。
「じゃあ、隣の船のあれは何だったんだ?」
俺も疑問を口にしてみた。
「それは言いたくない」
即答された。オオミとえらく対応が違うじゃないか。
「なんだよ、それ」
「あっちの船のことだから、憶測でわかったような事を言いたくない。そこの血まみれ女に聞くか、ウルウル言ってるやつに聞け。一番良いのは向こうの回収人に聞くことだ」
「どれも無理だろ。血まみれ女は一言もしゃべらないし、『ウ』と『ル』じゃ何もわからない。向こうの回収人にいたってはお前が海に落としたんだろうが」
突っ込み待ちとしか思えない。こいつは結構ふざけるタイプだ。
「うるう――」
ウルウが愛嬌のある目を一生懸命恨めしそうに歪めて抗議している。自分だって会話が出来ると言いたいらいしい。というか、死人が乗っている俺たちに言われたくないかも知れないが、そっちの船のメンバーはどうなってるんだ。一目見て危ないやつらと、殺人狂の回収人というヤバさだ。こいつらこそ、単に故郷が同じだけで集められた他人同士なのか?
「なあ、もう一ついいか」
「なんだ? 色白のっぽ」
「急にその呼び方止めろよ。――梯子は外れないんだよな。と言うことは二つの船のどちらの行先に向かうんだ?」
回収人がにやりと笑う。やっぱりこいつ遊んでる。
「どっちの故郷だろうな。思いの強い方じゃねえか」
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