鳥に追われる

白木

文字の大きさ
上 下
31 / 94
第二章 選別の船

本当の人殺し

しおりを挟む
アオチ


 こっちの船は俺たちのより更に非現実的だった。

 俺たちのはクラシカルで洒落た内装だったが、こちらは良く言えば近未来的だ。悪く言うと無機質な銀色で統一されていて不気味だ。海に浮くのではなく空に浮く船と言われた方が納得するかも知れない。

 その硬く冷たい床に、白い服装の男がうつ伏せで倒れていた。

 さっき、回収人が乱暴に床に放り投げた姿勢のまま、ピクリとも動かない。死んでしまったのだろうか。

 駆け寄って膝をつく。取りあえず肩と腰に手を当て、仰向けにしてみた。背丈から想像していなかった軽さで天井を向いたそいつの青白い顔を見て、自分の心臓が一回大きく血を送り出したのを感じた。

「おい、生きてるか」

 男は目を閉じたまま、何も反応しない。口元を見ても、胸元を見ても呼吸をしているのかさえ分からない。こういう時はどうしたら良いんだろう。グラグラ揺らすのも駄目だろうが、医療の知識は全くだ。――そうだ、脈を確かめれば良いのか?

 そっと、白い首筋に指を当てた。どの辺で触れるんだ? はっきりしないのでどんどん指を這わせた。

「くすぐったい」

「え?」

 突然目の前の顔が子どものように笑って、俺の中の緊張がほどけた。

「良かった、無事だったんだ」

 そいつの笑顔が急に消え、機械的な言葉で俺にこう言った。

「僕なら迷わず君を選んだのに」

 昼間の光が刺し、そいつの灰色の目を照らす。回収人に良く似た、海を覗いている気分にさせる目だ。

「何……言ってるんだ? 頭でも打ったか? 少し休むか? そうだ、この船の医務室はどこだ」

 平静を装うため立ち上がろうとした俺の腕を、男が掴んで引き留めた。

「今言ったことは秘密にして。今度こそ彼に殺される」

「彼って、回収人か。大体なんでこんな事になったんだ。お前が船をぶつけてきたからか?」

 またそいつが人懐っこい顔に戻る。表情を変える度、目元にできるシワが魅力的だ。

「ぶつけたから怒られたんじゃなくて、梯子を渡そうとしたから怒られたんだよ」

「梯子って、船と船を繋ぐ梯子か? それなら俺の後輩が向こうから渡したぞ。だから俺がここに来れたんだ」

「君、その後輩好きかい?」

 そいつが上半身を勢い良く起こしながら聞いた。何だ、動きも質問もいきなり。死んでるなんて思って損をした。

「当たり前だ」

「じゃあ、梯子は君が渡したことにしておきなよ。さ、外に出よう」

 さっきまで首を絞められ気絶していたのが嘘のような軽やかさでそいつは立ち上がった。と、感心した瞬間、思いっきりよろけて反射的に支える。

「無理するな、一緒に出よう」


 甲板に出ると、まず回収人の広い背中が目の前にあったが、それを避けて、隣の船のオオミを探した。直ぐに目が合う。良かった。まだ「僕が梯子をかけました」なんて言ってないみたいだ。

 もちろん、そんな事を口走ったら「俺がやった」と言い直してやる。何故だかわからないがそれが回収人の逆鱗に触れるなら、絶対俺がやったことにしなくては。

 オオミは俺の隣でまだしっかり立っていられない男を睨んでいる。どうしたんだ? 勘の良いあいつが何か不穏なものを感じ取ったのだろうか。こいつがどうかしたか? ふと、怖くなって自分の抱えている男の顔を覗く。

 ところが、俺がそいつの表情を確認する前に回収人が胸ぐらをつかんで持ち上げてしまった。まずい、まだ全然怒りが収まっていない。梯子ごときでこんなに怒るか、普通。

「のこのこ出て来るんじゃねえよ、死にぞこないが」

 顔を近づけて凄む様子は震えるほど怖いが、また首を絞めたりし出す前に仲裁に入らなくては。

「おい、止めろよ――」

 回収人の次の言葉に身体が動かなくなった。

「止めねえよ。人殺しをウロウロさせていたら危ねえだろう」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガイアセイバーズ spin-off -T大理学部生の波乱-

独楽 悠
青春
優秀な若い頭脳が集う都内の旧帝大へ、新入生として足を踏み入れた川崎 諒。 国内最高峰の大学に入学したものの、目的も展望もあまり描けておらずモチベーションが冷めていたが、入学式で式場中の注目を集める美青年・髙城 蒼矢と鮮烈な出会いをする。 席が隣のよしみで言葉を交わす機会を得たが、それだけに留まらず、同じく意気投合した沖本 啓介をはじめクラスメイトの理学部生たちも巻き込んで、目立ち過ぎる蒼矢にまつわるひと騒動に巻き込まれていく―― およそ1年半前の大学入学当初、蒼矢と川崎&沖本との出会いを、川崎視点で追った話。 ※大学生の日常ものです。ヒーロー要素、ファンタジー要素はありません。 ◆更新日時・間隔…2023/7/28から、20:40に毎日更新(第2話以降は1ページずつ更新) ◆注意事項 ・ナンバリング作品群『ガイアセイバーズ』のスピンオフ作品になります。 時系列はメインストーリーから1年半ほど過去の話になります。 ・作品群『ガイアセイバーズ』のいち作品となりますが、メインテーマであるヒーロー要素,ファンタジー要素はありません。また、他作品との関連性はほぼありません。 他作からの予備知識が無くても今作単体でお楽しみ頂けますが、他ナンバリング作品へお目通し頂けていますとより詳細な背景をご理頂いた上でお読み頂けます。 ・年齢制限指定はありません。他作品はあらかた年齢制限有ですので、お読みの際はご注意下さい。

僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!

兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。  ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。  不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。  魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。 (『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)

よくできた"妻"でして

真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。 単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。 久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!? ※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。

一か月ちょっとの願い

full moon
ライト文芸
【第8位獲得】心温まる、涙の物語。 大切な人が居なくなる前に、ちゃんと愛してください。 〈あらすじ〉 今まで、かかあ天下そのものだった妻との関係がある時を境に変わった。家具や食器の場所を夫に教えて、いかにも、もう家を出ますと言わんばかり。夫を捨てて新しい良い人のもとへと行ってしまうのか。 人の温かさを感じるミステリー小説です。 これはバッドエンドか、ハッピーエンドか。皆さんはどう思いますか。 <一言> 世にも奇妙な物語の脚本を書きたい。

君が大地(フィールド)に立てるなら〜白血病患者の為に、ドナーの思いを〜

長岡更紗
ライト文芸
独身の頃、なんとなくやってみた骨髄のドナー登録。 それから六年。結婚して所帯を持った今、適合通知がやってくる。 骨髄を提供する気満々の主人公晃と、晃の体を心配して反対する妻の美乃梨。 ドナー登録ってどんなのだろう? ドナーってどんなことをするんだろう? どんなリスクがあるんだろう? 少しでも興味がある方は、是非、覗いてみてください。 小説家になろうにも投稿予定です。

もう一度『初めまして』から始めよう

シェリンカ
ライト文芸
『黄昏刻の夢うてな』ep.0 WAKANA 母の再婚を機に、長年会っていなかった父と暮らすと決めた和奏(わかな) しかし芸術家で田舎暮らしの父は、かなり変わった人物で…… 新しい生活に不安を覚えていたところ、とある『不思議な場所』の話を聞く 興味本位に向かった場所で、『椿(つばき)』という同い年の少女と出会い、ようやくその土地での暮らしに慣れ始めるが、実は彼女は…… ごく平凡を自負する少女――和奏が、自分自身と家族を見つめ直す、少し不思議な成長物語

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...