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第一章 鳥に追われる
鳥喰い鳥
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アオチ
間違えない、あの暗い雪の空に飛び立った鳥だ。
エトピリカとか言う鳥に似てる。あれは確かオレンジっぽいくちばしだったと思うがこの鳥のは本当に美しい朱色だ。 黒い翼を力いっぱい広げて落下してくる。
「えっ」
思わず窓に貼りついた。水平に飛んで来たタンチョウモドキと俺のエトピリカが心臓たちの手前で激しく衝突した。
燃えながら動く心臓の鼓動が一斉に早まる。
白と黒の羽が空中に飛び散りながら、二羽が激しく争っている。タンチョウモドキが細いくせにめちゃくちゃ怖い。いや二羽ともサイズからして怪鳥だが、タンチョウモドキは鳴き声が異常に怖い。ツルの声を何かの番組で聞いたことがある。姿に似合わない大声にビビったが、あれを空からのスピーカーで大音響で聞いている気分だ。
声も上げずに対抗している巨大エトピリカとは大違いでうるせえよ、と思った。
その時、タンチョウモドキのひと際耳をつんざくような声が鳴り響き、空中に血が舞った。ざわりとした。その色に見覚えがあった。あの時、俺が山で迷った時に雪の血液と確信した赤だ。赤の種類がどれだけあろうともこの色は見分けられる自信がある。あのタンチョウ野郎だったのか、雪をそそのかして俺を呑みこもうとしたのは。
タンチョウモドキは、白い胸を血で染める重症を負ってやっと、心臓を喰うのを諦めたようで、来た方向と反対側の空へ逃げて行った。さすが俺の巨大エトピリカだ。心臓を救ってくれた。
まるで自分が悪のタンチョウを退治した気になった。
エトピリカはまだ空中で威嚇するように羽を広げてホバリングしている。このサイズの鳥がホバリングしているのも怪獣映画みたいで格好良すぎる。
他のやつらはどう思っているだろう、少し興奮が治まってきたので、二人の様子を確認する余裕ができた。
……なんだよ。オオミは青ざめているし、オゼはドン引きしている。確かに血まみれの鳥はグロかったが、こいつだって「鳥を掴まえたい」とか野蛮なことを喜々として言っていたくせに。
「あ、心臓が吸い込まれていきます」
オオミの声で、心臓のことを思い出した。鳥に夢中ですっかり忘れていた。
――爆弾は確かに網だった。爆ぜることのない爆弾に静かに心臓が引き込まれていく。線香花火が落ちる時のような、妙に切ない余韻を残して心臓がぽとり、ぽとりと悲しく爆弾の中に消えて行く。
「見てください。爆弾が透明になっていきます」
さっきからオオミしかしゃべっていない。苦手な血を見たせいで顔色は悪いが、やっぱりこいつが一番強い。
「本当だな、心臓はどこに消えたんだろう。鉄のシャボン玉みたくなってしまったな。あれが燃料になるのか。あっ!」
鳥が、おれの巨大エトピリカが飛び去ってしまう。
誰かに止められる前に部屋を飛び出した。せっかく再会できたのにまた見えなくなってしまう前に、俺がここにいることを伝えたい。
息を切らして甲板でに出ると、まるで待っていてくれたように巨大エトピリカはホバリングを続けていた。
「あ……」
胸が一杯で声が出ない。身体が落ちそうなくらい乗りだして、精一杯手を伸ばした。真昼間の空と海の狭間から今度はどこに向かって飛んで行くんだ。俺もそこに連れて行って欲しい。
俺の気持を海風が届けてくれたのか、巨大エトピリカがこっちに向かって飛んで来た。
「だめですよ」
ゾクリとして振り返るとオオミが居た。今のこいつの声か? 低くて冷たくて、機械の声みたく聞こえた。
「まだ行ってはだめです」
どこも触られていないのに、押さえつけられているように動けない。その時直ぐ近くで翼の音を聞いた。
初めて聞く音ではない。あの夜に耳元で鳴ったのと同じ音だ。
音のした方を見ると、赤い線で囲まれた黒い目と視線が重なった。それは一瞬だったんだろうか。時間の感覚から解放されたみたいに良くわからない。うっとりと目を合わせていた。
気がつくと鳥は去って、俺だけが船の縁にしがみついていた。
間違えない、あの暗い雪の空に飛び立った鳥だ。
エトピリカとか言う鳥に似てる。あれは確かオレンジっぽいくちばしだったと思うがこの鳥のは本当に美しい朱色だ。 黒い翼を力いっぱい広げて落下してくる。
「えっ」
思わず窓に貼りついた。水平に飛んで来たタンチョウモドキと俺のエトピリカが心臓たちの手前で激しく衝突した。
燃えながら動く心臓の鼓動が一斉に早まる。
白と黒の羽が空中に飛び散りながら、二羽が激しく争っている。タンチョウモドキが細いくせにめちゃくちゃ怖い。いや二羽ともサイズからして怪鳥だが、タンチョウモドキは鳴き声が異常に怖い。ツルの声を何かの番組で聞いたことがある。姿に似合わない大声にビビったが、あれを空からのスピーカーで大音響で聞いている気分だ。
声も上げずに対抗している巨大エトピリカとは大違いでうるせえよ、と思った。
その時、タンチョウモドキのひと際耳をつんざくような声が鳴り響き、空中に血が舞った。ざわりとした。その色に見覚えがあった。あの時、俺が山で迷った時に雪の血液と確信した赤だ。赤の種類がどれだけあろうともこの色は見分けられる自信がある。あのタンチョウ野郎だったのか、雪をそそのかして俺を呑みこもうとしたのは。
タンチョウモドキは、白い胸を血で染める重症を負ってやっと、心臓を喰うのを諦めたようで、来た方向と反対側の空へ逃げて行った。さすが俺の巨大エトピリカだ。心臓を救ってくれた。
まるで自分が悪のタンチョウを退治した気になった。
エトピリカはまだ空中で威嚇するように羽を広げてホバリングしている。このサイズの鳥がホバリングしているのも怪獣映画みたいで格好良すぎる。
他のやつらはどう思っているだろう、少し興奮が治まってきたので、二人の様子を確認する余裕ができた。
……なんだよ。オオミは青ざめているし、オゼはドン引きしている。確かに血まみれの鳥はグロかったが、こいつだって「鳥を掴まえたい」とか野蛮なことを喜々として言っていたくせに。
「あ、心臓が吸い込まれていきます」
オオミの声で、心臓のことを思い出した。鳥に夢中ですっかり忘れていた。
――爆弾は確かに網だった。爆ぜることのない爆弾に静かに心臓が引き込まれていく。線香花火が落ちる時のような、妙に切ない余韻を残して心臓がぽとり、ぽとりと悲しく爆弾の中に消えて行く。
「見てください。爆弾が透明になっていきます」
さっきからオオミしかしゃべっていない。苦手な血を見たせいで顔色は悪いが、やっぱりこいつが一番強い。
「本当だな、心臓はどこに消えたんだろう。鉄のシャボン玉みたくなってしまったな。あれが燃料になるのか。あっ!」
鳥が、おれの巨大エトピリカが飛び去ってしまう。
誰かに止められる前に部屋を飛び出した。せっかく再会できたのにまた見えなくなってしまう前に、俺がここにいることを伝えたい。
息を切らして甲板でに出ると、まるで待っていてくれたように巨大エトピリカはホバリングを続けていた。
「あ……」
胸が一杯で声が出ない。身体が落ちそうなくらい乗りだして、精一杯手を伸ばした。真昼間の空と海の狭間から今度はどこに向かって飛んで行くんだ。俺もそこに連れて行って欲しい。
俺の気持を海風が届けてくれたのか、巨大エトピリカがこっちに向かって飛んで来た。
「だめですよ」
ゾクリとして振り返るとオオミが居た。今のこいつの声か? 低くて冷たくて、機械の声みたく聞こえた。
「まだ行ってはだめです」
どこも触られていないのに、押さえつけられているように動けない。その時直ぐ近くで翼の音を聞いた。
初めて聞く音ではない。あの夜に耳元で鳴ったのと同じ音だ。
音のした方を見ると、赤い線で囲まれた黒い目と視線が重なった。それは一瞬だったんだろうか。時間の感覚から解放されたみたいに良くわからない。うっとりと目を合わせていた。
気がつくと鳥は去って、俺だけが船の縁にしがみついていた。
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