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第一章 鳥に追われる
スーパーマーケットの死人
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オゼ
「鳥と目が合ったって、僕と同じじゃないですか」
オオミに言われ、アオチが気まずそうな顔をする。
「俺のは場合は顔のすぐ横を飛んでいたんだ」
何なんだ、こいつら。オオミも鳥と目が合ったことがあるのか?でも、そんな事より俺が今一番気になるのが――
「その女、さっぱり系の美人だったか?」
二人が同時に俺の顔を何とも言えない表情で見た。
「オゼさん……甘い物の食べ過ぎで頭に砂糖が詰まりましたか」
こいつ大人しい顔をして時々こういう事を言う。
「詰まってねえよ。その女が、その……さっき俺が見た死人かと思ったんだ。真冬に赤いワンピース、長い髪を一本に束ねてた。でも今の話の女と同一人物なら死人ではなく――」
「鳥っていうことか」
アオチが真剣な顔で続きを引き取った。
「そうなるよな。それに、これは言おうかどうか迷っていたんだけけど、オオミの見た子ども連れの女の死人、それにも心当たりがあるんだよ」
途端にオオミの目に怯えの色が広がった。オオミの保護者にでもなったのか、アオチが俺を責めるように見ている。おい、なんだよ、何も悪いことを言ってないのに理不尽だ。
「悪い、俺の思い違いだ。忘れてくれ」
「駄目です。忘れられません。心当りがあるって、どういう意味ですか」
めんどくせえ。
「わかった、話すよ。どうせ大した話じゃないぞ。取りあえずその泣きそうな顔、やめろよ」
「はい、すみません」
顔を両掌で引っ張るようにして気合を入れるオオミの横で、
「いいから、さっさと話せよ」
アオチが不機嫌そうに言った。
「あれは、そうだな、俺がまだ中学生だった時の事だよ――」
五月の始めだったと思う。もしかしたら四月の終わりかも知れない。家の二階の窓から一本だけ見える桜が咲いていたから。
俺たちの町はではそれくらいの時期が見頃だった。
とにかくその日は連休真っただ中の何もすることが無い午後で、眠りに丁度良い日差しが部屋に差し込んでいた。
連休中に何もすることのない可哀想な子どもーーではなく、俺はその時、少し前にひいた風邪の治りかけで、酷くぼんやりして横になっていた。
いや、可哀想な子どもだったかも知れない。自分が忘れようとして忘れているだけで。体調が良くても遠出の予定なんてなかったし、友だちらしい友だちもいなかった。
良く話すクラスメイト程度はいたけれど、そいつらには別の親友や他につるむグループがあった。
こんなのはあれから大人になってもずっと変わらない俺の日常だけれど。俺の独りぼっちエピソードはいくらでも語れるが、今は関係ないので省略する。
とにかく、仰向けになり、ひたすら窓の外の桜の花びらを目で追っていた。そのうち自分も宙に漂う感覚が広がって、だんだん瞼が重くなり、完全に花びらと同化した。
あっ――もうすぐ地面に落ちてしまう。物凄く現実的にそう思った。そんなはずはない。俺は今、背中全部を床につけて寝ころんでいるんだ。これ以上どこに落ちるというんだ。
無意識に足をついた。
――え? どういうことだ?
ウツラウツラしていた重い瞼をこじ開けた。視界に膜がかかったように白く、濁って見える。何度もまばたきをして、やっとはっきりしてきた景色に見覚えがあった。ここ、スーパーじゃないか。
子どもの頃、母親としょっちゅう訪れていた近所のスーパーマーケットだ。間違えない。野菜の積まれた棚の配置でわかる。
それは良いが、どしてこんな所にいるんだろう。瞬間移動の能力が急に目覚めたのだろうか。漫画や映画のそんな登場人物に憧れて、自分にも同じ能力があったらな、と妄想したことは何回もある。
だが――実際自分がそういう体験をしてみると、想像と違って気持ちが悪い。
何と言うか、自分の中に何か異物があるようだ。手を突っ込んで取り出したい衝動に駆られる。
しばらく胸を押さえて突っ立っていたが、少し気持ち悪さに慣れてきたので、周囲を見渡してみる。
空いた店内に見たことのある顔が幾つかあった。狭い町だから当然のことだが。ふと、名前も知らない柑橘系の果物を手に取っていた人がこちらを見た。向かいのアパートに住むおばさんだ。
俺はこのおばさんが好きだった。恋愛対象ではなく、この人が母さんだったら良いなと思っていた。
本物の母さんはおばさんを良く思っていないようだったが。
おばさんは都会の会社に勤める人で、稼働し始めたばかりの俺の町の支社に出向で来ていた。結婚はしているが子どもはおらず、都会に住む旦那さんには長期休みに会いに行く程度だ、と噂で聞いた。
「旦那さんを一人にしてまで仕事に打ち込むなんて――」
近所の母親たちが立ち話をしているのを聞いたことが何度かあるが、その度にその輪の中の誰よりも、おばさんの方がきれいで活き活きしていると思った。
今、自分もこの年になってみると母さんの態度も理解できる。おばさんは社会に自分の居場所があり、家族ではない他人から頼りにされているという自信があった。身なりもここら辺の大人とは違った。
いくら田舎だからといって、俺の町にもそれなりに美人はいたが、なんというか、おばさんは洗練されていた。髪型も服装も表情も都会の人の余裕があった。
だから当時の俺にはただ田舎の女たちの嫉妬にしか見えなかったんだ。
そのおばさんの顔が見えて、自分でも情けないことに顔がほころんだ。いつも目が合うとおばさんの方から声をかけてくれるのに、この時は初めて見る悲しい目で見返されただけだった。
何かあったのだろうか? 近寄ろうと足を一歩前に踏み出した時、小さな手にシャツの裾を掴まれた。
「マモル」
当時俺に懐いていた幼稚園児だ。迷子になったか? そんなに広くない店だ、一緒に親を探してやろう。何だよ、目に涙を溜めている。
「誰と来た? 兄ちゃんが一緒に探してやるから大丈夫だ」
親同士が仲が良かったせいで、マモルのことは赤ん坊の時から知っている。正直、初めて赤ん坊のマモルを見た時は異星人のようでかわいいとは思えなかった。
ところがどうだろう、成長するにつれ、その印象は変ってきた。特に言葉を理解するようになってからは。
心臓の病気だかで良く幼稚園を休んでいたマモルは、しょっちゅう俺の家に遊びに来た。たまに相手をするのが面倒臭くなることもあったが、小さな靴でとことこ一生懸命歩いてきたのかと思うと「帰れよ」とは言えなかった。
友だちのいない分、本をたくさん読んでいた俺は、マモルにいつも知ったばかりの物語を聞かせてやった。
外で遊べないマモルはどんな話でも目をキラキラさせて聞いた。こんなことは同級生の間では起こり得ないことだ。弟がいるやつはいつもこんな感覚を味わっているのか。心底うらやましいと思った。
俺は得意になって更に本を読み漁った。何ならマモルに聞かせる話を探すために読んでいたふしもある。
一人っ子のマモルは俺のことを「兄ちゃん」と呼んだ。それも俺の心をくすぐった。
そのマモルが今、何も言わずに俺の服の裾をつかんで離さない。
「なあ、なんとか言えよ」
しゃがみこんで、小さな手を取った瞬間ドクンと心臓が鳴った。
――なんだ、この冷たさ。
「兄ちゃん」
マモルがやっと口を開いた。
「なんだ? 具合悪いのか?」
心配で仕方がない。
「兄ちゃん、鳥を掴まえて」
「ん? 鳥ってノンノのことか? 逃がしちゃったのか? わかった、探してやるよ」
マモルが飼っている黄色の羽がきれいなセキセイインコのことだと思った。良く籠から出して遊んでいたから、外に逃がしてしまったのかも知れない。
「ノンノは僕といるから大丈夫」
「――じゃあどの鳥だよ」
幼いからってもう少しわかりやすく伝えられるだろ、そう思ってさらにマモルを問い詰めようとした時だった。肩にまた、驚くほど冷たい手が触れた。冷たすぎてそれが手と認識するまで少し時間がかかった。驚きで何も言えない俺の代わりに、手の持ち主の方が先に声を出した。
「鳥を掴まえて」
「おばさん……? 何の話ですか」
おばさんが俺を悲しい顔で見つめていた。俺の問いには答えず、おばさんはマモルの手を取った。そして俺に背を向けて、また果物の棚の方へするすると歩いて行く。
「マモル! おばさん!」
二人を追いかけて走り出した時、誰かが床に置きっぱなしにしていた使いかけの買い物かごに足をぶつけた。痛っ! 次の瞬間、自分の家の居間で目が覚めた。
アオチとオオミが色々聞きたそうな顔で俺を見ている。
「な、大した話じゃなかったろ」
「……その二人は死人だった、ということですか」
まずオオミが乾いた声を出した。
「それをこれから話そうと思ってたんだよ。その頃風邪をひいていたと言っただろ? おばさんは俺が寝込んだ最初の日に、マモルはスーパーマーケットで会ったその日に死んだと後から知ったんだ」
オオミの唇がやけに白くなり、アオチが俺を睨む。こいつらが話せと言ったから話したのに、何で俺が怖がらせたみたいになってるんだ。
「意外だったのは、元気そうに見えたおばさんが病死で、マモルが事故死だったってことだ。わからないものだな。俺自身はそれからしばらく、家族に夢遊病を疑われた」
訝し気な顔のアオチがやっと口を開いた。黙っていたせいか、こいつの声も乾燥していた。
「鳥を掴まえろって、何のことかわかったのか?」
「全然わからなかったんだよ、何なら忘れかけてた。でも二日前にあの群れを作る黒い鳥を見た時、わかったんだよ。あれが二人が俺に掴まえて欲しかった鳥だって」
アオチの表情が和らいだ気がした。
「その鳥、掴まえても良いけど、傷つけないでくれよ。俺を助けてくれた鳥かも知れない。直ぐに空に返してやってくれ。群れを作っているんだから尚更だ。仲間からはぐれたら可哀想だろ? オオミ、お前は何も心配しないで良いからな。お前は鳥に近づくな」
オオミが不安気に頷き、アオチがその手をポンポン叩いて優しく笑っている。本当の兄弟みたいで羨ましくなった。
マモルのことを思い出して、泣きそうになる気持ちを甘いコーヒー牛乳と一緒に呑み込んだ。
……つもりだったが、あいつが家に遊びに来た時、いつもこれを出してやっていた記憶が蘇りまた悲しくなった。
ごくごく音を鳴らして飲むのが可愛らしかった。
「どうして、そのマモルくんとおばさんが僕の見た死人だと思ったんですか?」
「それなんだけどな、俺たちってどこかでつながってないか?」
「鳥と目が合ったって、僕と同じじゃないですか」
オオミに言われ、アオチが気まずそうな顔をする。
「俺のは場合は顔のすぐ横を飛んでいたんだ」
何なんだ、こいつら。オオミも鳥と目が合ったことがあるのか?でも、そんな事より俺が今一番気になるのが――
「その女、さっぱり系の美人だったか?」
二人が同時に俺の顔を何とも言えない表情で見た。
「オゼさん……甘い物の食べ過ぎで頭に砂糖が詰まりましたか」
こいつ大人しい顔をして時々こういう事を言う。
「詰まってねえよ。その女が、その……さっき俺が見た死人かと思ったんだ。真冬に赤いワンピース、長い髪を一本に束ねてた。でも今の話の女と同一人物なら死人ではなく――」
「鳥っていうことか」
アオチが真剣な顔で続きを引き取った。
「そうなるよな。それに、これは言おうかどうか迷っていたんだけけど、オオミの見た子ども連れの女の死人、それにも心当たりがあるんだよ」
途端にオオミの目に怯えの色が広がった。オオミの保護者にでもなったのか、アオチが俺を責めるように見ている。おい、なんだよ、何も悪いことを言ってないのに理不尽だ。
「悪い、俺の思い違いだ。忘れてくれ」
「駄目です。忘れられません。心当りがあるって、どういう意味ですか」
めんどくせえ。
「わかった、話すよ。どうせ大した話じゃないぞ。取りあえずその泣きそうな顔、やめろよ」
「はい、すみません」
顔を両掌で引っ張るようにして気合を入れるオオミの横で、
「いいから、さっさと話せよ」
アオチが不機嫌そうに言った。
「あれは、そうだな、俺がまだ中学生だった時の事だよ――」
五月の始めだったと思う。もしかしたら四月の終わりかも知れない。家の二階の窓から一本だけ見える桜が咲いていたから。
俺たちの町はではそれくらいの時期が見頃だった。
とにかくその日は連休真っただ中の何もすることが無い午後で、眠りに丁度良い日差しが部屋に差し込んでいた。
連休中に何もすることのない可哀想な子どもーーではなく、俺はその時、少し前にひいた風邪の治りかけで、酷くぼんやりして横になっていた。
いや、可哀想な子どもだったかも知れない。自分が忘れようとして忘れているだけで。体調が良くても遠出の予定なんてなかったし、友だちらしい友だちもいなかった。
良く話すクラスメイト程度はいたけれど、そいつらには別の親友や他につるむグループがあった。
こんなのはあれから大人になってもずっと変わらない俺の日常だけれど。俺の独りぼっちエピソードはいくらでも語れるが、今は関係ないので省略する。
とにかく、仰向けになり、ひたすら窓の外の桜の花びらを目で追っていた。そのうち自分も宙に漂う感覚が広がって、だんだん瞼が重くなり、完全に花びらと同化した。
あっ――もうすぐ地面に落ちてしまう。物凄く現実的にそう思った。そんなはずはない。俺は今、背中全部を床につけて寝ころんでいるんだ。これ以上どこに落ちるというんだ。
無意識に足をついた。
――え? どういうことだ?
ウツラウツラしていた重い瞼をこじ開けた。視界に膜がかかったように白く、濁って見える。何度もまばたきをして、やっとはっきりしてきた景色に見覚えがあった。ここ、スーパーじゃないか。
子どもの頃、母親としょっちゅう訪れていた近所のスーパーマーケットだ。間違えない。野菜の積まれた棚の配置でわかる。
それは良いが、どしてこんな所にいるんだろう。瞬間移動の能力が急に目覚めたのだろうか。漫画や映画のそんな登場人物に憧れて、自分にも同じ能力があったらな、と妄想したことは何回もある。
だが――実際自分がそういう体験をしてみると、想像と違って気持ちが悪い。
何と言うか、自分の中に何か異物があるようだ。手を突っ込んで取り出したい衝動に駆られる。
しばらく胸を押さえて突っ立っていたが、少し気持ち悪さに慣れてきたので、周囲を見渡してみる。
空いた店内に見たことのある顔が幾つかあった。狭い町だから当然のことだが。ふと、名前も知らない柑橘系の果物を手に取っていた人がこちらを見た。向かいのアパートに住むおばさんだ。
俺はこのおばさんが好きだった。恋愛対象ではなく、この人が母さんだったら良いなと思っていた。
本物の母さんはおばさんを良く思っていないようだったが。
おばさんは都会の会社に勤める人で、稼働し始めたばかりの俺の町の支社に出向で来ていた。結婚はしているが子どもはおらず、都会に住む旦那さんには長期休みに会いに行く程度だ、と噂で聞いた。
「旦那さんを一人にしてまで仕事に打ち込むなんて――」
近所の母親たちが立ち話をしているのを聞いたことが何度かあるが、その度にその輪の中の誰よりも、おばさんの方がきれいで活き活きしていると思った。
今、自分もこの年になってみると母さんの態度も理解できる。おばさんは社会に自分の居場所があり、家族ではない他人から頼りにされているという自信があった。身なりもここら辺の大人とは違った。
いくら田舎だからといって、俺の町にもそれなりに美人はいたが、なんというか、おばさんは洗練されていた。髪型も服装も表情も都会の人の余裕があった。
だから当時の俺にはただ田舎の女たちの嫉妬にしか見えなかったんだ。
そのおばさんの顔が見えて、自分でも情けないことに顔がほころんだ。いつも目が合うとおばさんの方から声をかけてくれるのに、この時は初めて見る悲しい目で見返されただけだった。
何かあったのだろうか? 近寄ろうと足を一歩前に踏み出した時、小さな手にシャツの裾を掴まれた。
「マモル」
当時俺に懐いていた幼稚園児だ。迷子になったか? そんなに広くない店だ、一緒に親を探してやろう。何だよ、目に涙を溜めている。
「誰と来た? 兄ちゃんが一緒に探してやるから大丈夫だ」
親同士が仲が良かったせいで、マモルのことは赤ん坊の時から知っている。正直、初めて赤ん坊のマモルを見た時は異星人のようでかわいいとは思えなかった。
ところがどうだろう、成長するにつれ、その印象は変ってきた。特に言葉を理解するようになってからは。
心臓の病気だかで良く幼稚園を休んでいたマモルは、しょっちゅう俺の家に遊びに来た。たまに相手をするのが面倒臭くなることもあったが、小さな靴でとことこ一生懸命歩いてきたのかと思うと「帰れよ」とは言えなかった。
友だちのいない分、本をたくさん読んでいた俺は、マモルにいつも知ったばかりの物語を聞かせてやった。
外で遊べないマモルはどんな話でも目をキラキラさせて聞いた。こんなことは同級生の間では起こり得ないことだ。弟がいるやつはいつもこんな感覚を味わっているのか。心底うらやましいと思った。
俺は得意になって更に本を読み漁った。何ならマモルに聞かせる話を探すために読んでいたふしもある。
一人っ子のマモルは俺のことを「兄ちゃん」と呼んだ。それも俺の心をくすぐった。
そのマモルが今、何も言わずに俺の服の裾をつかんで離さない。
「なあ、なんとか言えよ」
しゃがみこんで、小さな手を取った瞬間ドクンと心臓が鳴った。
――なんだ、この冷たさ。
「兄ちゃん」
マモルがやっと口を開いた。
「なんだ? 具合悪いのか?」
心配で仕方がない。
「兄ちゃん、鳥を掴まえて」
「ん? 鳥ってノンノのことか? 逃がしちゃったのか? わかった、探してやるよ」
マモルが飼っている黄色の羽がきれいなセキセイインコのことだと思った。良く籠から出して遊んでいたから、外に逃がしてしまったのかも知れない。
「ノンノは僕といるから大丈夫」
「――じゃあどの鳥だよ」
幼いからってもう少しわかりやすく伝えられるだろ、そう思ってさらにマモルを問い詰めようとした時だった。肩にまた、驚くほど冷たい手が触れた。冷たすぎてそれが手と認識するまで少し時間がかかった。驚きで何も言えない俺の代わりに、手の持ち主の方が先に声を出した。
「鳥を掴まえて」
「おばさん……? 何の話ですか」
おばさんが俺を悲しい顔で見つめていた。俺の問いには答えず、おばさんはマモルの手を取った。そして俺に背を向けて、また果物の棚の方へするすると歩いて行く。
「マモル! おばさん!」
二人を追いかけて走り出した時、誰かが床に置きっぱなしにしていた使いかけの買い物かごに足をぶつけた。痛っ! 次の瞬間、自分の家の居間で目が覚めた。
アオチとオオミが色々聞きたそうな顔で俺を見ている。
「な、大した話じゃなかったろ」
「……その二人は死人だった、ということですか」
まずオオミが乾いた声を出した。
「それをこれから話そうと思ってたんだよ。その頃風邪をひいていたと言っただろ? おばさんは俺が寝込んだ最初の日に、マモルはスーパーマーケットで会ったその日に死んだと後から知ったんだ」
オオミの唇がやけに白くなり、アオチが俺を睨む。こいつらが話せと言ったから話したのに、何で俺が怖がらせたみたいになってるんだ。
「意外だったのは、元気そうに見えたおばさんが病死で、マモルが事故死だったってことだ。わからないものだな。俺自身はそれからしばらく、家族に夢遊病を疑われた」
訝し気な顔のアオチがやっと口を開いた。黙っていたせいか、こいつの声も乾燥していた。
「鳥を掴まえろって、何のことかわかったのか?」
「全然わからなかったんだよ、何なら忘れかけてた。でも二日前にあの群れを作る黒い鳥を見た時、わかったんだよ。あれが二人が俺に掴まえて欲しかった鳥だって」
アオチの表情が和らいだ気がした。
「その鳥、掴まえても良いけど、傷つけないでくれよ。俺を助けてくれた鳥かも知れない。直ぐに空に返してやってくれ。群れを作っているんだから尚更だ。仲間からはぐれたら可哀想だろ? オオミ、お前は何も心配しないで良いからな。お前は鳥に近づくな」
オオミが不安気に頷き、アオチがその手をポンポン叩いて優しく笑っている。本当の兄弟みたいで羨ましくなった。
マモルのことを思い出して、泣きそうになる気持ちを甘いコーヒー牛乳と一緒に呑み込んだ。
……つもりだったが、あいつが家に遊びに来た時、いつもこれを出してやっていた記憶が蘇りまた悲しくなった。
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