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第四章 鳥像の門
世界を支えるもの1
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エンド
「同時に動くよ」
シロキさんが軽やかに言った。カドが少し戸惑って尋ねる。
「人間の世界への扉を開くのと、極楽へ上昇するのを同時にやるってこと?」
「それと地獄への扉も。ここにある魂を地獄に送らないといけない。忙しい方がいいんだ。みんなとお別れをしなきゃならない辛さが紛れるから。僕、お別れ苦手だもん」
シロキさんの甘えっ子にだんだん慣れてきた。
「大丈夫だよ、僕が力を貸すから、カドは間違ってエンドが滑り落ちて人間の世界に堕ちたりしないように見ていて」
「それだけど……作成者も他の神様たちと一緒に人間の世界へ降ろしてあげちゃだめなのか? なんでわざわざ鳥像の門から地上に降りるんだ」
今聞かないと、シロキさんが勝手に全てを終息させてしまいそうだ。
「君には理解し難いと思うんだけど――これは『若い』と馬鹿にしているわけではないよ。ただ、作成者との関わりの深さの問題だ。こいつはあの門から出る必要があるんだ。自分の造って来た無数の鳥たちと同じ空を渡って地上へ、生命の神様のいる海へ還らないといけない」
なんだろう……甘えっ子が今は俺を優しく諭すように語っていて、それが様になっている。
「さあ、カド、行くよ」
「うん」
カドが頼もしく返事をし、俺の手に心地よく冷たい鏡を絡みつけてきた。
「エンド、揺れるよ。絶対に俺から離れちゃだめだ。さっきみたいに振り払ったりしないで」
「わかった」
素直に頷き、揺れ出す鏡の空間を見回す。鏡の流れが渦を巻く。上昇しているのか下降しているのかわからない。
「シロキさん、人間の世界への扉を開くよ」
カドの声が悲し気に聞こえたのは気のせいだろうか。
「うん」
答えるシロキさんの声まで音を合わせるように寂し気だ。
そうだ、シロキさんとナイトはまた離れ離れになる。さっきまで光に包まれて黙って指を繋いでいた二人が鮮やかによみがえる。
今、極楽へ向かうシロキさんと地上に降りるナイトの距離がどんどん開いていく。
意外なことに二人とも一言も言葉を交わさない。ただ、黙って視線を絡ませている。鏡になれる二人だけれど、お互いを映す必要も、言葉も必要ないのか。
見つめるだけで全てわかっている。わかっているふりではなく、映ってしまっている。
他を寄せ付けない、柔らかいのに固い視線が羨ましい。
足元にカチッと瞬いた青白い光で人間の世界への扉が開いたことを知った。腹を抉るような音が、揺れる鏡の空間を激しく波打たせる。雷の神様が、あの輪のような門を呼ぶ嵐の中で、歌い出しそうに口角を上げている。
ほんの、人間の半生くらいの別れ、重たくなるほどの長さじゃない。鼓膜を押し付ける風圧が充満し、一瞬目を閉じる。
「同時に動くよ」
シロキさんが軽やかに言った。カドが少し戸惑って尋ねる。
「人間の世界への扉を開くのと、極楽へ上昇するのを同時にやるってこと?」
「それと地獄への扉も。ここにある魂を地獄に送らないといけない。忙しい方がいいんだ。みんなとお別れをしなきゃならない辛さが紛れるから。僕、お別れ苦手だもん」
シロキさんの甘えっ子にだんだん慣れてきた。
「大丈夫だよ、僕が力を貸すから、カドは間違ってエンドが滑り落ちて人間の世界に堕ちたりしないように見ていて」
「それだけど……作成者も他の神様たちと一緒に人間の世界へ降ろしてあげちゃだめなのか? なんでわざわざ鳥像の門から地上に降りるんだ」
今聞かないと、シロキさんが勝手に全てを終息させてしまいそうだ。
「君には理解し難いと思うんだけど――これは『若い』と馬鹿にしているわけではないよ。ただ、作成者との関わりの深さの問題だ。こいつはあの門から出る必要があるんだ。自分の造って来た無数の鳥たちと同じ空を渡って地上へ、生命の神様のいる海へ還らないといけない」
なんだろう……甘えっ子が今は俺を優しく諭すように語っていて、それが様になっている。
「さあ、カド、行くよ」
「うん」
カドが頼もしく返事をし、俺の手に心地よく冷たい鏡を絡みつけてきた。
「エンド、揺れるよ。絶対に俺から離れちゃだめだ。さっきみたいに振り払ったりしないで」
「わかった」
素直に頷き、揺れ出す鏡の空間を見回す。鏡の流れが渦を巻く。上昇しているのか下降しているのかわからない。
「シロキさん、人間の世界への扉を開くよ」
カドの声が悲し気に聞こえたのは気のせいだろうか。
「うん」
答えるシロキさんの声まで音を合わせるように寂し気だ。
そうだ、シロキさんとナイトはまた離れ離れになる。さっきまで光に包まれて黙って指を繋いでいた二人が鮮やかによみがえる。
今、極楽へ向かうシロキさんと地上に降りるナイトの距離がどんどん開いていく。
意外なことに二人とも一言も言葉を交わさない。ただ、黙って視線を絡ませている。鏡になれる二人だけれど、お互いを映す必要も、言葉も必要ないのか。
見つめるだけで全てわかっている。わかっているふりではなく、映ってしまっている。
他を寄せ付けない、柔らかいのに固い視線が羨ましい。
足元にカチッと瞬いた青白い光で人間の世界への扉が開いたことを知った。腹を抉るような音が、揺れる鏡の空間を激しく波打たせる。雷の神様が、あの輪のような門を呼ぶ嵐の中で、歌い出しそうに口角を上げている。
ほんの、人間の半生くらいの別れ、重たくなるほどの長さじゃない。鼓膜を押し付ける風圧が充満し、一瞬目を閉じる。
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