301 / 331
第四章 鳥像の門
地獄2
しおりを挟む 命を捨てた騎兵の足止め。
それでも、敵の勢いは止まらない。
遠くから微かに侍女たちの悲鳴が聞こえてくる。
だけど馬車は止まらない。止まるわけにもいかない。
そして遂に、カーナンの町へと突入した。
門番はいたが、公爵家の馬車だ。それに20騎とはいえ護衛もいる。そりゃ通すわよね。
けど、それは考えが甘かった。
いきなり射抜かれる御者。
制御を失って、暴走した馬のせいで馬車は横転。
いきなり視界が回って吐きそうになる。
だけどクラウシェラはそれどころじゃないわよね。
でもオーキスがしかりと抱きかかえている。これなら何とか大丈夫そう。
だけと、オーキスの骨が折れた音がハッキリと聞こえた。
「……予想は……していたわよ」
「お逃げ……ください。まだ、サリウスらがいます」
右足があらぬ方向に曲がっているが、それでも剣を杖にして立ち上がる。
「私はここまでです。ですが、1秒でも時を稼ぎましょう」
ちょちょちょっと待って!
ここでオーキスが死んだら、これからの未来はどうあるのよ!?
あたしが介入したから?
それで歴史が変わっちゃったの?
外では激しい戦闘が行われている。
見た事があるマークの付いた鎧を着た兵士達。
あれはこの街のシンボルだ。
じゃあ、もうここは敵地だったって事!?
サリウスはさすがに5武行典。ほとんど溜めも無く、一度に3本の矢で3人の兵士を射ている。
あれで騎乗しての動きながらなんだからすごい。
一方で、弓はサリウスに当たらない。
これは別に特殊能力って訳ではなくて――というか、もう5武行典って時点で特殊能力みたいなものなんだけど、自分周囲、それもかなりの広範囲にある矢は全て把握している。
誰が射て、どんな軌道でどう飛んでどこに当たるか。
だから、彼に当てる事は出来ない。通常の手段では。
だけど味方の騎兵はじわじわと削られていく。
そりゃそうよね。
どう見ても、相手は数百。それに左右からも、傭兵らしい集団が迫って来る。
そうよね。裏切って、ここまでの計画に加担していたのなら、準備は万端だわ。
この様子だと、完全に四面楚歌。北や南はもちろん、西も東も結局敵だらけ。
でもいったい誰なんだろう。これほどの準備ができるほどの人間は。
多分言われれば分かる……と思う。伊達にこのゲームはやり込んでない。
だけど今はもうそんな次元じゃないかも。
ああ、結局あたし、彼女と一緒に破滅する運命だったのね。
オーキスに庇われていた事もあるけど、クラウシェラには異様なほど怪我はない。
だが馬車から出ると同時に無数の矢が降り注ぐ。
だがそれを全て矢で撃ち落とす弓のサリウス。
あまりの神業に、敵軍に動揺が走る。
そして彼はクラウシェラの前まで来ると、
「背に乗ってください。いざという時、貴方だけは城へと取れていって欲しいとケルジオス騎士候から頼まれています」
「さすがに予想していたのね。まあ違和感程度でしょうけど。貴方も貧乏くじを引かされたものね。ではわたくしからもお願いよ。代わりにオーキスと残存兵を連れて、この町を脱出して頂戴」
「生き残りは我ら3名だけです。それに彼はもう……」
「オーキスは死なないわよ。わたくしの番犬ですもの」
「だとしても、今馬に乗るべきは――」
「くどい! わたくしを誰だと思っているか! お前たちがいる方が満足に戦えないのよ」
――そうだった。
今まで普通に生活していたから忘れていた。
彼女は最強のラスボスにして――、
「貴方は決して自らの命を諦めないでしょう。そして誰かのために死ぬこともないし、許される立場にもありません。そのことを一番よく知っているのは貴方だ。その言葉を信じましょう。では」
そう言いながらも迫って来る多数の敵兵を射抜くと、怯んだ隙に気を失っていたオーキスを馬の背に乗せた。
うん、本当に生きている。良かったー。
こうして、サリウスが走り去っていく中、クラウシェラだけが残された。
当然サリウスの方にも少しの兵は行ったが、いかんせん彼を倒しても何の手柄にもならない。
公爵家の部下ではなく、ただの求道者であることを皆が知っている。
馬の背にズタ袋のように括り付けられている兵士も、どう見たって瀕死だ。
それ以前にサリウス相手にどれほどの被害を出したか。
さすがにもうまともには追えないだろう。
その分、ほぼすべての敵が殺到する。
後ろから追ってきた騎兵たちも、とっくに町に入っている。
味方は誰もいない。全方位が敵。だからこそ、彼女は全ての力を開放できる。
全身から噴き出す黒いオーラ。
それは幾つにも別れた渦のように彼女の体の周りをまわる。
そして、その先端はまるで竜の様。ううん、見えるというか、本当にそうなのよね。
ただまだゲームの段階まで成長していないから曖昧な姿だけど。
将来、彼女はこう呼ばれる事になる。
残虐なる破壊者。冷酷無比の魔女。邪竜令嬢と。
その姿を見て動揺する敵兵たち。
実際に知らなかったのだろうと思う。
あたしも初めて見た時は驚いたわ。即ゲームオーナーになったもの。
ゲームの時点ではその異名自体は轟いていたけど、そりゃそう呼ばれるきっかけがあるはずよね。
でもそれが今だったなんて。
渦を巻いていた黒い幻影のような竜――といって良いのかな? 頭以外の胴体は長い蛇のような感じだけど。
でもそれに巻き込まれた兵は一瞬にして真っ黒い炭となって崩れ落ちる。
武器も鎧も溶け、近くにあった建物や行商のテントに火をつけ、ほんの一瞬で町は阿鼻叫喚に包まれた。
それでも、敵の勢いは止まらない。
遠くから微かに侍女たちの悲鳴が聞こえてくる。
だけど馬車は止まらない。止まるわけにもいかない。
そして遂に、カーナンの町へと突入した。
門番はいたが、公爵家の馬車だ。それに20騎とはいえ護衛もいる。そりゃ通すわよね。
けど、それは考えが甘かった。
いきなり射抜かれる御者。
制御を失って、暴走した馬のせいで馬車は横転。
いきなり視界が回って吐きそうになる。
だけどクラウシェラはそれどころじゃないわよね。
でもオーキスがしかりと抱きかかえている。これなら何とか大丈夫そう。
だけと、オーキスの骨が折れた音がハッキリと聞こえた。
「……予想は……していたわよ」
「お逃げ……ください。まだ、サリウスらがいます」
右足があらぬ方向に曲がっているが、それでも剣を杖にして立ち上がる。
「私はここまでです。ですが、1秒でも時を稼ぎましょう」
ちょちょちょっと待って!
ここでオーキスが死んだら、これからの未来はどうあるのよ!?
あたしが介入したから?
それで歴史が変わっちゃったの?
外では激しい戦闘が行われている。
見た事があるマークの付いた鎧を着た兵士達。
あれはこの街のシンボルだ。
じゃあ、もうここは敵地だったって事!?
サリウスはさすがに5武行典。ほとんど溜めも無く、一度に3本の矢で3人の兵士を射ている。
あれで騎乗しての動きながらなんだからすごい。
一方で、弓はサリウスに当たらない。
これは別に特殊能力って訳ではなくて――というか、もう5武行典って時点で特殊能力みたいなものなんだけど、自分周囲、それもかなりの広範囲にある矢は全て把握している。
誰が射て、どんな軌道でどう飛んでどこに当たるか。
だから、彼に当てる事は出来ない。通常の手段では。
だけど味方の騎兵はじわじわと削られていく。
そりゃそうよね。
どう見ても、相手は数百。それに左右からも、傭兵らしい集団が迫って来る。
そうよね。裏切って、ここまでの計画に加担していたのなら、準備は万端だわ。
この様子だと、完全に四面楚歌。北や南はもちろん、西も東も結局敵だらけ。
でもいったい誰なんだろう。これほどの準備ができるほどの人間は。
多分言われれば分かる……と思う。伊達にこのゲームはやり込んでない。
だけど今はもうそんな次元じゃないかも。
ああ、結局あたし、彼女と一緒に破滅する運命だったのね。
オーキスに庇われていた事もあるけど、クラウシェラには異様なほど怪我はない。
だが馬車から出ると同時に無数の矢が降り注ぐ。
だがそれを全て矢で撃ち落とす弓のサリウス。
あまりの神業に、敵軍に動揺が走る。
そして彼はクラウシェラの前まで来ると、
「背に乗ってください。いざという時、貴方だけは城へと取れていって欲しいとケルジオス騎士候から頼まれています」
「さすがに予想していたのね。まあ違和感程度でしょうけど。貴方も貧乏くじを引かされたものね。ではわたくしからもお願いよ。代わりにオーキスと残存兵を連れて、この町を脱出して頂戴」
「生き残りは我ら3名だけです。それに彼はもう……」
「オーキスは死なないわよ。わたくしの番犬ですもの」
「だとしても、今馬に乗るべきは――」
「くどい! わたくしを誰だと思っているか! お前たちがいる方が満足に戦えないのよ」
――そうだった。
今まで普通に生活していたから忘れていた。
彼女は最強のラスボスにして――、
「貴方は決して自らの命を諦めないでしょう。そして誰かのために死ぬこともないし、許される立場にもありません。そのことを一番よく知っているのは貴方だ。その言葉を信じましょう。では」
そう言いながらも迫って来る多数の敵兵を射抜くと、怯んだ隙に気を失っていたオーキスを馬の背に乗せた。
うん、本当に生きている。良かったー。
こうして、サリウスが走り去っていく中、クラウシェラだけが残された。
当然サリウスの方にも少しの兵は行ったが、いかんせん彼を倒しても何の手柄にもならない。
公爵家の部下ではなく、ただの求道者であることを皆が知っている。
馬の背にズタ袋のように括り付けられている兵士も、どう見たって瀕死だ。
それ以前にサリウス相手にどれほどの被害を出したか。
さすがにもうまともには追えないだろう。
その分、ほぼすべての敵が殺到する。
後ろから追ってきた騎兵たちも、とっくに町に入っている。
味方は誰もいない。全方位が敵。だからこそ、彼女は全ての力を開放できる。
全身から噴き出す黒いオーラ。
それは幾つにも別れた渦のように彼女の体の周りをまわる。
そして、その先端はまるで竜の様。ううん、見えるというか、本当にそうなのよね。
ただまだゲームの段階まで成長していないから曖昧な姿だけど。
将来、彼女はこう呼ばれる事になる。
残虐なる破壊者。冷酷無比の魔女。邪竜令嬢と。
その姿を見て動揺する敵兵たち。
実際に知らなかったのだろうと思う。
あたしも初めて見た時は驚いたわ。即ゲームオーナーになったもの。
ゲームの時点ではその異名自体は轟いていたけど、そりゃそう呼ばれるきっかけがあるはずよね。
でもそれが今だったなんて。
渦を巻いていた黒い幻影のような竜――といって良いのかな? 頭以外の胴体は長い蛇のような感じだけど。
でもそれに巻き込まれた兵は一瞬にして真っ黒い炭となって崩れ落ちる。
武器も鎧も溶け、近くにあった建物や行商のテントに火をつけ、ほんの一瞬で町は阿鼻叫喚に包まれた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる