296 / 331
第四章 鳥像の門
ずっと一緒に3
しおりを挟む
結局、この浄化場ことは何も説明しないまま、「使い」を造ると言ってその人は立ち上がった。
「使いって?」
少し考えた後、その人は言った。
「何があってもお前を一番大切だと思ってくれる存在のことだよ」
「あなたのような者のことだ」
その人の横顔は少しも動かなかったけれど、酷く寂しい色が横切って、僕は不安になる。
僕に使いができたら、こんな顔をさせずに済むだろうか。そんなことならいっそ一人でも僕は……
「さあ、使いの命を呼ぼう」
だめだ、この人は思い込みが激しい所があるから、こうと決めたら今更止められない。
その時、冬の空間全体が大きく歪んだ。
自分が眩暈を起こしたのかと思った。白く、しかし、あの人の空間と違って表情を持った景色が筆で描いた絵のように流れて見えた。
「どこか、端っこにいるはずなんだけれど。あの子は角が好きだから」
何を言っているんだろう。
「どうして景色が溶けているの?」
僕を造った人の腕につかまりながら尋ねる。
「浄化場は全て生きた鏡で出来ている。ここは鏡の浄化場と呼んでいるけど、実際のところ、わたしが唯一手を加えていない世界だ。十の鏡の中の一枚にだけに感情が芽生えて、その子が創造したのがこの冬の世界だよ。鏡が勝手に作った世界だから鏡の浄化場と名付けた。感情があるから、混乱するとこうして激しく動くんだ」
全然わかんない。ただ、生きているというこの世界の叫び声が、だんだん激しくなってきた。
「ねえ、その子を虐めないで」
「虐める? わたしがそんな事をするわけないだろう。鏡の子はわたしの神様の一部だよ。元はお前と同じだ。じゃなきゃお前の使いになんてできない」
「でも、泣いているよ」
幼さの残る声で冬が震えるほど叫んでいるのを聞いて、平気でいられない。
思わず空に向かって叫んだ。
「泣かないで、僕が守ってあげる。ここに来て」
ピタリと声が止み、風景が現実を取り戻した。
「ああ、やっと鏡から出てきたね、今のは鏡から分離する時の苦しみの声だよ。でも大丈夫、この子はとても強いから。わたしがお前が来ている事を伝えたら慌てて出てきた」
「僕がこの場所に入って来た時は、何も起こらなかったじゃない」
「寝ていたんだよ、お前と違って使いは眠るんだ」
そう言えば、この人も良く僕の腕の中で眠る。
静かに、雪の中から銀色の炎が現れた。
僕が造った雪だるまの隙間から、姿を見せたり、隠れたりしている。
何? 恥ずかしいの? かわいい、近くで見たい。僕はきゅっきゅっと音を立てて、その健気に燃える銀色の炎に近づいた。
「あれ? 今度はそこ?」
今までここにいたのに、今度は雪だるまの奥の木の陰を行ったり来たりしている。
「お前たち、もう一緒に遊んでいるのか。やっぱり相性がいいな」
あの人が少しだけ声を楽しそうに躍らせて言うけれど、結構本気で逃げられていると思う。
「ねえ、逃げないで。君に会いたいんだ」
ひょこっと大きな木の幹から炎が顔をのぞかせた。顔と言って良いのかわからないけど、この子に顔があったらどんなだろう。
「シロキ、その子を連れておいで。わたしの空間で水の中に沈めて、不要なものを切り取って仕上げるから」
そんな怖いこと言ったらまた逃げてしまうじゃないか……
「お願い、僕と一緒にいて」
急に胸にその子が飛び込んで来て、僕はよろめき後ろに倒れた。柔らかい雪のおかげで全然痛くはなかった。
「良かった……お前は冷たくて気持ちがいいね」
「使いって?」
少し考えた後、その人は言った。
「何があってもお前を一番大切だと思ってくれる存在のことだよ」
「あなたのような者のことだ」
その人の横顔は少しも動かなかったけれど、酷く寂しい色が横切って、僕は不安になる。
僕に使いができたら、こんな顔をさせずに済むだろうか。そんなことならいっそ一人でも僕は……
「さあ、使いの命を呼ぼう」
だめだ、この人は思い込みが激しい所があるから、こうと決めたら今更止められない。
その時、冬の空間全体が大きく歪んだ。
自分が眩暈を起こしたのかと思った。白く、しかし、あの人の空間と違って表情を持った景色が筆で描いた絵のように流れて見えた。
「どこか、端っこにいるはずなんだけれど。あの子は角が好きだから」
何を言っているんだろう。
「どうして景色が溶けているの?」
僕を造った人の腕につかまりながら尋ねる。
「浄化場は全て生きた鏡で出来ている。ここは鏡の浄化場と呼んでいるけど、実際のところ、わたしが唯一手を加えていない世界だ。十の鏡の中の一枚にだけに感情が芽生えて、その子が創造したのがこの冬の世界だよ。鏡が勝手に作った世界だから鏡の浄化場と名付けた。感情があるから、混乱するとこうして激しく動くんだ」
全然わかんない。ただ、生きているというこの世界の叫び声が、だんだん激しくなってきた。
「ねえ、その子を虐めないで」
「虐める? わたしがそんな事をするわけないだろう。鏡の子はわたしの神様の一部だよ。元はお前と同じだ。じゃなきゃお前の使いになんてできない」
「でも、泣いているよ」
幼さの残る声で冬が震えるほど叫んでいるのを聞いて、平気でいられない。
思わず空に向かって叫んだ。
「泣かないで、僕が守ってあげる。ここに来て」
ピタリと声が止み、風景が現実を取り戻した。
「ああ、やっと鏡から出てきたね、今のは鏡から分離する時の苦しみの声だよ。でも大丈夫、この子はとても強いから。わたしがお前が来ている事を伝えたら慌てて出てきた」
「僕がこの場所に入って来た時は、何も起こらなかったじゃない」
「寝ていたんだよ、お前と違って使いは眠るんだ」
そう言えば、この人も良く僕の腕の中で眠る。
静かに、雪の中から銀色の炎が現れた。
僕が造った雪だるまの隙間から、姿を見せたり、隠れたりしている。
何? 恥ずかしいの? かわいい、近くで見たい。僕はきゅっきゅっと音を立てて、その健気に燃える銀色の炎に近づいた。
「あれ? 今度はそこ?」
今までここにいたのに、今度は雪だるまの奥の木の陰を行ったり来たりしている。
「お前たち、もう一緒に遊んでいるのか。やっぱり相性がいいな」
あの人が少しだけ声を楽しそうに躍らせて言うけれど、結構本気で逃げられていると思う。
「ねえ、逃げないで。君に会いたいんだ」
ひょこっと大きな木の幹から炎が顔をのぞかせた。顔と言って良いのかわからないけど、この子に顔があったらどんなだろう。
「シロキ、その子を連れておいで。わたしの空間で水の中に沈めて、不要なものを切り取って仕上げるから」
そんな怖いこと言ったらまた逃げてしまうじゃないか……
「お願い、僕と一緒にいて」
急に胸にその子が飛び込んで来て、僕はよろめき後ろに倒れた。柔らかい雪のおかげで全然痛くはなかった。
「良かった……お前は冷たくて気持ちがいいね」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説


ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる