奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

本当の移動2

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 さっきからまともに話せていない。

「僕は、この世界を見捨てないから」

 絞り出すように言った。

「今更何言っちゃってるの。もう神様たちが勢揃いしているのに」

 爽やかに笑う人間の神様の背後に、月の神様が使いに連れられ降りて来た。人間の神様を刺すように見ている。

「あなたはいずれ僕たちを裏切ると思っていました。さあ、その男の魂を生命の神様へ返して下さい、力尽きる前に。その金色の魂を置いては生命の神様は門を移動させない」

「裏切るっていうかさ、わたしはやっぱり弱い人間の味方だから。いざとなれば、あなた達のことなんて、どうでも良くなってしまう」

 二人とも本気で怒っている。

どうしよう、僕がまたはっきりしない態度を取っているせいだ。

「生命の神様をこんな状態のままにしておいたらどうなるか、あなたもわかりますよね? 今、自分の身体を分けた命の否定が肯定を上回っているんですよ。もう直ぐ再成も不可能になる。その前に次の世界に続く門も閉ざされしまったら、希望のない世界に僕たちは永遠に閉じ込められるんです」

「それはお気の毒だね。わたしはまだ求められてるのかぴんぴんしている。皮肉だな、命は捨てられても救いは求められている」

「ふざけないでください!」

 月の神様が叫び、人間の神様の周りに大小の岩が落下した。

「世界より先にわたしを壊すの? わたしは求められる限り絶対に消せない」

 どっちの神様を鼓舞しているのかわからないけれど、雷が激しく鳴る。

 あれ、急に身体が沈んだ。

 鳥が――美しい僕の使いが空から僕に向かって降りて来る。

 そうか、僕の身体は今、バラバラにほどけている最中なのか、痛みが無いから気がつかなかった。

 海に沈んだのは足首から下の肉と骨が僕から離れたからだ。次はどこだ? 

 ああ、言葉が発せられなくその前に、僕のあの子に伝えなければ。

「あなたを助けるためにわたしに出来ることは?」

 僕の襟元をくちばしでくわえながら、僕の使いが言った。

「ごめんね、全部僕のせいだ。僕は自分に罰を与えるから、少しの間、会えないけれど、僕のことを忘れないで」

「全ての世界が消えても、あなたの記憶だけは失くしません」

 この子は他の神様の使いとは全然違う。

 今、本体の僕が初めて、解体されて海に散りそうなのに、冷静だ。冷静と感情がないことは別ものだ。

 いつでも、僕のことだけ見ていてくれる、愛おしい子—―。

「お前にお願いがあるんだ――」

 僕は使いにだけ聞こえる声で、最期の、いや、何千年かぶんのお願いを前借りして伝えた。

「――わかりました。今度会った時、絶対にわたしのことを覚えていてください。その約束だけで、わたしはいくらでも孤独に耐えられます」

 ああ、本当はこの子が神様になるべきだったんじゃないだろか。僕はこの子が他の何より大切だ。

「ねえ、聞いて、僕はお前が――」

 言い終わる前に自分の顔が崩れ落ちる音を聞いた。


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