279 / 331
第四章 鳥像の門
本当の移動1
しおりを挟む
生命の神様
僕の意志に関係なく、門は次の世界に向かって開き始める。
――どこにも行きたくない。僕は見捨てていない。勝手に門を開かないで――。
崖の上で月の神様が泣いているのが見えた。
ごめん――。僕は君にまた世界を壊させてしまう。止めたい、止めたい、どうしても。
他の神様と同じ様に僕の門にも縛りがある。
それは、この世界で「死にたい」という声が「生きたい」気持ちを上回ってしまった時。
僕の意志に関係なく、もうここに存在できないという必然で門が次の世界へ向けて開く。
大粒の雪が躍るように舞い散る、その隙間を縫うように真っ直ぐ雨が落ちている。
雷がその雪と雨を照らして空中を駆け回る。
いつの間に海の上に巨大な炎の球が数えきれないほど浮いていた。炎の発する光が空まで真っ直ぐに伸びている。
風が煽るように吹き荒れる。
足元から獣が叫ぶような音がして、地面が大きく揺れる。
そして、夜空に太陽が登った。
次の世界に移動するために集まる太古の神様たちが僕の鳥像の門が完全に開くのを今か今かと待つ。
全ての神様が移動し、月の神様が見捨てられた世界に巨大な石を落として破壊すると、次こそは、と願いを込め、僕たちはまた無からの創造を始める。
こうやって何度も何度も移動を繰り返してきた。
その度に寂しかったけれども悲しくはなった――それが薄情な僕の正体だ。
この状況、空に浮く鏡を今すぐ身体に取り込むべきなのはわかっている。
あの、鳥の形をした空間の向こう、新しい世界で僕は再成する。
自分が移動するだけならば良いけれど、僕には全ての神様が門を通過するまで開放状態を維持する責任がある。
その前に力尽きるわけにはいかない。だから熱量を出来るだけ回収しろと、頭上でみんなが騒いでいるんだ。
でも僕は――この世界を離れたくない。
抵抗する心が門が広がるのを押さえつけていた。
「なあ、それ返せ」
この混沌に負けない強い声がして、はっとして振り返る。人間の神様が海に入ってきていた。
いつの間に腕を伸ばしたら触れられる近さまで来ている。
「……え」
「その男の身体だよ、返せ。どうせあんた達はこの世界を捨てて、次の世界に移るんだ。世界を大きな石で押し潰して無かったことにして、私たちを捨てる」
波に身体を揺らしながら人間の神様が言った。……何? その清々しい表情は?
「僕は……」
「好きにしろよ。わたし達も勝手にやるさ、あんた達の消えた無の世界でずっとね」
そう言って僕の抱えていたボロボロの男の身体を、中に眠る魂ごと取り上げた。
「あ……」
僕の意志に関係なく、門は次の世界に向かって開き始める。
――どこにも行きたくない。僕は見捨てていない。勝手に門を開かないで――。
崖の上で月の神様が泣いているのが見えた。
ごめん――。僕は君にまた世界を壊させてしまう。止めたい、止めたい、どうしても。
他の神様と同じ様に僕の門にも縛りがある。
それは、この世界で「死にたい」という声が「生きたい」気持ちを上回ってしまった時。
僕の意志に関係なく、もうここに存在できないという必然で門が次の世界へ向けて開く。
大粒の雪が躍るように舞い散る、その隙間を縫うように真っ直ぐ雨が落ちている。
雷がその雪と雨を照らして空中を駆け回る。
いつの間に海の上に巨大な炎の球が数えきれないほど浮いていた。炎の発する光が空まで真っ直ぐに伸びている。
風が煽るように吹き荒れる。
足元から獣が叫ぶような音がして、地面が大きく揺れる。
そして、夜空に太陽が登った。
次の世界に移動するために集まる太古の神様たちが僕の鳥像の門が完全に開くのを今か今かと待つ。
全ての神様が移動し、月の神様が見捨てられた世界に巨大な石を落として破壊すると、次こそは、と願いを込め、僕たちはまた無からの創造を始める。
こうやって何度も何度も移動を繰り返してきた。
その度に寂しかったけれども悲しくはなった――それが薄情な僕の正体だ。
この状況、空に浮く鏡を今すぐ身体に取り込むべきなのはわかっている。
あの、鳥の形をした空間の向こう、新しい世界で僕は再成する。
自分が移動するだけならば良いけれど、僕には全ての神様が門を通過するまで開放状態を維持する責任がある。
その前に力尽きるわけにはいかない。だから熱量を出来るだけ回収しろと、頭上でみんなが騒いでいるんだ。
でも僕は――この世界を離れたくない。
抵抗する心が門が広がるのを押さえつけていた。
「なあ、それ返せ」
この混沌に負けない強い声がして、はっとして振り返る。人間の神様が海に入ってきていた。
いつの間に腕を伸ばしたら触れられる近さまで来ている。
「……え」
「その男の身体だよ、返せ。どうせあんた達はこの世界を捨てて、次の世界に移るんだ。世界を大きな石で押し潰して無かったことにして、私たちを捨てる」
波に身体を揺らしながら人間の神様が言った。……何? その清々しい表情は?
「僕は……」
「好きにしろよ。わたし達も勝手にやるさ、あんた達の消えた無の世界でずっとね」
そう言って僕の抱えていたボロボロの男の身体を、中に眠る魂ごと取り上げた。
「あ……」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説


ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる