奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

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月の神様 


 今夜、僕は世界を壊さなければならないかも知れない。

 無性にそんな気がして、新月なのに目一杯の力で現れてしまった。大きな月を不穏に震わせながら。

 あの人間の神様の領域、本当に忌々しい。

 例えば、金色の魂の男とその仲間が祈るための建物、あの中で何が行われ、どんな会話が交わされているか、僕には全く分からない。

 他の太古に神様も阻まれているだろう。

 だから、あの鏡の様子も、金色の命の男と人間の神様の間でどんなやり取りがあったかも僕が知る術はない。

 一昨日、消えそうな月の空の下、生命の神様が透けた身体を白く輝かせながら僕に打ち明けてくれた。

 今夜、金色の魂の男と浜辺で会う約束をしたこと、その時、鏡の返却に応じること、鏡に託した思いは届かず、かえって命の神様へ還れない自殺者を増やしてしまったこと、その罰を自分に与えること――

「あなたが罰を受ける必要なんてありません」

 僕はそれだけ言うのがやっとだった。

 命の神様が放った十の鏡は世界中を巡っていたが、金色の魂の男の集落は賢かった。

 鏡を人間の神様への祈りの建物の中へ隠し、熱心な信者に限って公開した。

 他の地域では誰彼構わず、鏡を覗けるようにしたせいで大量の自殺者が、今この瞬間も出続けている。

 人間の神様の信者たちには『神様』という拠り所があったから、何とか持ちこたえていた。

 凄いや……悔しいけどそう思った。

 僕だって、生命の神様から千切れ、傷ついている命たちを助けたいと願っている。

 だけど、彼らにとって勝手に存在する僕なんて無力だ。空を見上げてすらくれず、見上げても僕の声は知らない国の言葉のように無意味に夜に浮いて風に流される。

 求められる神様にずっと憧れていた。

 必要とされるってどんなに幸せな気持ちなんだろう。いつも心にあるこの冷たい場所が塞がる感覚だろうか。

 今、崖の上に立つ二人に向かって、生命の神様の使いが何か言った。話し合おう、とかそんなことだ。

 この使いはまだそんな猶予が僕らにあると思っているのだろうか。

 人間の男と神様、二人の顔には実行する選択肢しか見えない。

 いやだ、いやだ、僕は世界を壊したくない。

 二人から海を隠すように、崖の先端に降り立つと、僕は男に向かって手を伸ばす。

「お願い、死なないで」

 懇願する自分の声が別人のもののように聞こえた。

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