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第四章 鳥像の門
生命の神様へ3
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わたしに祈るための建物には太古の神様も入れないことをこの時知った。
月の神様がわたし達の話を聞けなかったからだ。
これから――があるのか解らないけれど、あの神様たちに秘密にしておきたいことがある時は、あの場所を利用しよう。
次の別れ道に出たら、瞬時に崖まで移動する。
鏡を運び出してしばらくすると、嗅ぎなれた海の匂いが微かに夜の空気に入り込んできた。
もたもたしていたら、月と鳥に見つかってしまう。話が違うと連れ戻されてしまう。
隣を歩く男のきれいな横顔を見ながら思う。
冬の厳しさを含み始めた風に黒い前髪が揺れて、夜から生まれたようだ。
生命の神様は今頃、落ち着かない心を持て余して浜辺で待っているだろう。
使いの鳥から、男が鏡を返しに来ると伝えた時の話を聞いた。
しばらく硬直した後、海に沈んだという。
――訳がわからない。人間にだって嬉しいからと言ってそんなことをする奴いないぞ。
とにかく、半日海の底で身悶えた後、地上に上がってからもそわそわして過ごしていたらしい。
口数が極端に少なくいとも言っていた。使いの鳥の話では、感情が高ぶり過ぎて、現す言葉が無い時はいつもそうらしい。
あの使いも大変だな。それにわたしに使いがいたら、絶対に何より大切にする。生命の神様のように蔑ろになんてしない。
今、あの鳥はどんな気持ちでいるんだろう。
大好きな神様が人間の男に夢中だなんて。
例えそれが待ち焦がれた魂の持ち主だとしても。わたしなら、恋と愛の表現を間違えたりしない。決して自分を慕ってくれるものを不安にさせないのに。
あの神様は贅沢なんだ。自分の身を削っていることに酔って、自分の使いを悲しませ、人間を信じているとかいう純粋さを盾に、彼らを自殺に追い込むような鏡をばらまいた。
許せない。復讐などは思い描かない。わたしも神様だから。でも、わたしはわたしに祈る者を絶対に裏切らない。
わたしは勝手に存在するあいつらとは違う。求められているから存在するんだ。
「どうか、しましたか」
「へ? いや何でもない。さっきロンに挨拶してこなかったからさ、ちょっと寂しくなっちゃった」
男が氷の目を溶かして微笑んだ。
「ロンは集落の鏡を見ていない人たちに預けました。……良かった、いつものわたしの神様で。あなたまで変わってしまったらわたしはきっと……」
「わたしは変わらない。ずっと味方だよ。ところで、次の分かれ道で崖に向かって飛ぶからさ、鏡につかまってくれる?」
「飛ぶ? 冗談でしょ」
微笑みを崩さず男が言う。本気で冗談だと思われている。
「普段は絶対こんなことしないから、冗談だと思われても仕方ないんだけどさ、残念ながら本当なんだよね。うるさい神様に止められる前に君も崖に行きたいでしょ」
わたしの力で前をするすると滑る鏡が、月明かりとは別の光を、鏡の内側から放った。
きれいな白銀の光だ。カドが合図をくれたのか。
「取りあえずさっさとつかまってよ。君をここに置いて行ったら笑えない」
男が半信半疑の表情で鏡の角を掴んだ。
不安定だけど、ま、カドにつかまっていれば落とされないか。
月の神様がわたし達の話を聞けなかったからだ。
これから――があるのか解らないけれど、あの神様たちに秘密にしておきたいことがある時は、あの場所を利用しよう。
次の別れ道に出たら、瞬時に崖まで移動する。
鏡を運び出してしばらくすると、嗅ぎなれた海の匂いが微かに夜の空気に入り込んできた。
もたもたしていたら、月と鳥に見つかってしまう。話が違うと連れ戻されてしまう。
隣を歩く男のきれいな横顔を見ながら思う。
冬の厳しさを含み始めた風に黒い前髪が揺れて、夜から生まれたようだ。
生命の神様は今頃、落ち着かない心を持て余して浜辺で待っているだろう。
使いの鳥から、男が鏡を返しに来ると伝えた時の話を聞いた。
しばらく硬直した後、海に沈んだという。
――訳がわからない。人間にだって嬉しいからと言ってそんなことをする奴いないぞ。
とにかく、半日海の底で身悶えた後、地上に上がってからもそわそわして過ごしていたらしい。
口数が極端に少なくいとも言っていた。使いの鳥の話では、感情が高ぶり過ぎて、現す言葉が無い時はいつもそうらしい。
あの使いも大変だな。それにわたしに使いがいたら、絶対に何より大切にする。生命の神様のように蔑ろになんてしない。
今、あの鳥はどんな気持ちでいるんだろう。
大好きな神様が人間の男に夢中だなんて。
例えそれが待ち焦がれた魂の持ち主だとしても。わたしなら、恋と愛の表現を間違えたりしない。決して自分を慕ってくれるものを不安にさせないのに。
あの神様は贅沢なんだ。自分の身を削っていることに酔って、自分の使いを悲しませ、人間を信じているとかいう純粋さを盾に、彼らを自殺に追い込むような鏡をばらまいた。
許せない。復讐などは思い描かない。わたしも神様だから。でも、わたしはわたしに祈る者を絶対に裏切らない。
わたしは勝手に存在するあいつらとは違う。求められているから存在するんだ。
「どうか、しましたか」
「へ? いや何でもない。さっきロンに挨拶してこなかったからさ、ちょっと寂しくなっちゃった」
男が氷の目を溶かして微笑んだ。
「ロンは集落の鏡を見ていない人たちに預けました。……良かった、いつものわたしの神様で。あなたまで変わってしまったらわたしはきっと……」
「わたしは変わらない。ずっと味方だよ。ところで、次の分かれ道で崖に向かって飛ぶからさ、鏡につかまってくれる?」
「飛ぶ? 冗談でしょ」
微笑みを崩さず男が言う。本気で冗談だと思われている。
「普段は絶対こんなことしないから、冗談だと思われても仕方ないんだけどさ、残念ながら本当なんだよね。うるさい神様に止められる前に君も崖に行きたいでしょ」
わたしの力で前をするすると滑る鏡が、月明かりとは別の光を、鏡の内側から放った。
きれいな白銀の光だ。カドが合図をくれたのか。
「取りあえずさっさとつかまってよ。君をここに置いて行ったら笑えない」
男が半信半疑の表情で鏡の角を掴んだ。
不安定だけど、ま、カドにつかまっていれば落とされないか。
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