奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

新月を照らす月2

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 わたしの仲間たちは一瞬不満気な表情を見せたが、その中の一人が、「先生の言う通りだな。今日は遅いし、みんな帰ろう。明日から並んで、先生の決めた時間で一人一人、鏡と向き合おう」そう明るく声をかけると納得して頷いた。

 わたしは仲間から先生と呼ばれていたが、単にこの中では年長の方で、妙に落ち着きのある地味な性格のせいだと思っている。

 ぞろぞろと建物から離れる多くの背の中から、さっきみんなに声をかけた青年を見つけて、肩を叩いた。

「さっきはありがとう。わたしより、君の方がここを仕切るのにふさわしいね」

「そんなわけありません。先生はみんなから尊敬されています」

 健康的な白い歯を見せ、その若者は笑った。

「――君は、あの鏡の中に何が見えた?」

 若者がきょとんとした顔でわたしを見上げた。ロンみたいなだな、と好ましく思う。

「僕が見えましたよ。鏡というものを始めて見て――今まで窓に映る自分くらいしか知らなかったけど、意外とかっこ良かったです。あ、恥ずかしいこと言っちゃった」

 ――良かった。ただ、珍しいだけか。

 不吉な予感に捕らわれていたわたしは若者の素直な答えに安心した。

「あなたは正しいよ。さあ、また明るくなったらここに来て、わたしを手伝ってくれるかな」

 

 純粋な若者の背中を見送った後、大きな扉を閉めて、正面の舞台に置かれた鏡をにらんだ。

 青白く光り、私たちの祈りの空間を映している三角形の妖しい鏡。

 誰もいないのに、音を立てないように静かに近づいて行く。

 ――やっぱり。

 この鏡は生きている。さっき見た時から感じていた。鏡の呼吸を。

 顔が付くほどの距離に来ると、それがはっきりわかる。

 何故そんなことをしようと思ったのか自分でもわからないが、ふと呼吸を重ねてみた。

 鏡が波打った。中に入り込めるのではないかと、触れてみたが固い面に阻まれた。

 鏡の隅に金色の塊がぼんやり浮いているのが見えた。良く観察すると黄色が発光して金色に見えているようだ。

 その角を凝視していると、色が変化していくのがわかった。見つめ過ぎているせいで目が錯覚を起こしたのかと思い、一度視線を外し、周囲の木で出来た優しい色合いの講堂をぐるりと見渡す。

 また同じ三角形の角を覗く。そこには紫と金色に忙しく色を変える塊が浮かんでいた。

 その点滅の具合がわたしを誘って遊んでいるようで、思わず笑みが漏れる。

「遊んでいるのかい?」

 鏡に向かって声をかけながら、そっとその角に触れ、指を動かした。ロンを撫でる時にやるように。

 鏡が笑った。……笑ったのか? 冗談だろ。

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