奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

鏡に呑まれる6

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「あなたの周りの人たち……彼らはあなたの言う通り、優しく、強くあろうとしている人たちでしょう。それが大変な苦労だというのは知っています。彼らはその生真面目さゆえに、真っ白な自分の心の風景に染みがあることに苦しんでいるはずです。わたしがどうでも良いと思っている……汚れた命の風景ならば気がつきもしない小さな黒い点が、純白の中ではどれほど目立つことでしょうか。その人たちが、わたしの神様に辿りつくまで耐えられると思いますか」

 男の氷の目の奥で小さな灯りが揺れた。

「――わかりません。辿りつけなかったらやはり彼らは自殺してしまうのですか」

 回りくどいことは嫌いな性格のようで、助かる。

「そう思います」

 わたしも簡潔に答えた。

 すると冷静だった男が、早口でわたしと人間の神様に向かって懇願した。

「止めることは出来ませんか。使いのあなたが頼めば、生命の神様は鏡を回収してくれるのではないですか。人間の神様、直接彼らに自殺を思いとどまるよう説得してくれませんか。わたしには何ができるだろう――」

「言っておくけどわたしは期待に応えられないよ。生命に干渉はできない。君とこうして話しているのも物凄く特別なことなんだよ」

 人間の神様が珍しく真剣な表情で言った。とても神様らしい。いつもこうしていれはいいのに、とは思わなかった。

 わたしは普段の人間らしい神様がとても好きだから。

「どうしてわたしの前には現れたんでんすか? ロンがそんなに好きでしたか」

「それは、君の魂がわたし達の側に近いからだよ。だから、わたしもうっかり見つかってしまったんだ。嬉しかったけどね」

 そう言っていつも顔で笑ったのでほっとする。

「あなたはどうです? やっぱり止めることはできませんか」

 男は硬い表情のまま、今度はわたしに向かって言った。

「わたしは使いですから、鏡の回収は出来ませんし、わたしの神様も、一度自分の身体から外の世界に放ったものを自由に引き戻すことは出来ません。あなた方の命のように。鏡の方から戻ってきてくれないことには。でも、今の話は神様にも伝えておきます。私の神様は……あなたのことを、とても気にかけていますから」

「わたしがあの鏡を海に堕として、神様の元に還す、というのはどうでしょう」

 すがるような男の目に鼓動が早くなる。

 ――そんなに切羽詰まっているのか。

「それにはまずあなたが意志のある鏡を説得してみてください。それが出来たら、わたしの神様もしのごの言わずにあっさり受け取るでしょうね。あなたが返しに来るのなら尚更。だからわざわざ堕とさなくいいですよ。会って、渡してあげて下さい。それがわたしの神様の願いなのです」

 男がほっとした顔で言った。

「じゃあ、明後日の新月の夜に、生命の神様へ鏡を届けに行きます。初めて会った砂浜へ持って行きます。それまでに……どうにか鏡と交渉してみます」

 良かった――わたしの神様の喜ぶ顔が目に浮かぶ。

「わたしも手伝うよ」

「あなたは人間の生命に干渉してはいけないのでは?」

「わたしが干渉するのは君だよ。君を助けてあげたいだけ。君、一応わたしの信者でしょ。黙って言う事を聞きなさい

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