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第四章 鳥像の門
鏡に呑まれる5
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「――なんか、わたしのせいみたいで、ごめんね」
鏡が造られた経緯を話すと、人間の神様が神妙な顔で言った。
男が人間の神様の肩をさする。
「あなたのせいなんかじゃありません。私たちが弱いだけです」
その優しさをわたしの神様にも見せて欲しい。
人間の神様の肩越しに、男が例の冷たい目でわたしに問いかけてきた。
「増幅するのは悪意だけでしょうか?」
「善意も同様です。と言うよりも、命の全てが映されます。見たいものだけを映すような都合の良いものではないんです。あなたは覗いてみましたか?」
男は全然興味が無さそうな平坦な口調で答える。
「つまらない中年男が映っているだけでした」
本当につまらなさそうだ。
「美しいとは思いませんでしたか」
「別に……わたしがあなただったなら、その翼を広げて自分を誇らしく眺めたでしょうね」
男が急に人懐っこい笑顔でそんな事を言うから、わたしの方がどうして良いのかわからず、男の肩の上にぴょんと飛び乗ってしまった。
――どうしてこんな行動を……
後悔して、飛び立とうとした時、
「本当にきれいだ。秋の風の匂いがする」
男がそう言って、肩に顔を寄せ目を閉じた。
この惑わせ方も悪魔になってから変わらず、わたしやシロキを何度も振り回した。
「……今、空を飛んで来たので、そんな匂いもするかも知れません」
やっとの思いで答えたのに、男はもう関心を失くしたように、話を変えた。
「これは自慢なのですが、わたしの周りには心の汚れた人がいないのです」
「何が言いたいのですか」
「それなのに、あの鏡が来てから、みんな酷くふさぎ込むようになりました。いや、こんな言い方は生ぬるいかな、自分と戦っているような気がします。ぎりぎりの所で」
わたしもずっとそれを心配していたのだ。
正直に言うと、あの鏡のせいで自殺者が増えていることなどどうでも良かった。自分の悪意に喰われて死んでしまうような奴らはわたしの神様の中に戻ってくる資格がない――そう思っていた。大切な神様に汚れたものが入ってくる事をわたしは嫌悪していた。
そもそも勝手に汚れてくる命にこだわってに苦しみながら浄化と修復を繰り返す必要なんて少しもないのだ。
そんなもの放って置いて、自分の細胞から新たに修復すればいいだけの話なのだ。それでも、わたしの神様は『命を信じる』とか言って、ぎりぎりのところまで修復をしない。
手遅れにならない所で諦めて欲しい。
自殺することもなく、ずうずうしくわたしの神様の中に戻ってくる命が嫌いだ。あの鏡のおかげで自滅してくれているなら願ったりだ。
一度、尋ねたことがある。
「自殺した者の中には、もっと多くのあなたに癒されるべき命があったのではないですか?」
あの時、濡れた目で「僕には自ら諦めた命を救うことが出来ないんだ。どんなに汚れていても噛りついてきた命なら浄化できる。ああ、僕に諦めた命をつなぎとめる力があったならと、何度願っただろう」そう神様は言った。
そうして、あの鏡を造ったところで、恐れていたことが起きた。
わたしの神様に言わせれば、汚れさえも愛おしい、正しくあろうとする魂が自分から命を諦めだしたのだ。
鏡が造られた経緯を話すと、人間の神様が神妙な顔で言った。
男が人間の神様の肩をさする。
「あなたのせいなんかじゃありません。私たちが弱いだけです」
その優しさをわたしの神様にも見せて欲しい。
人間の神様の肩越しに、男が例の冷たい目でわたしに問いかけてきた。
「増幅するのは悪意だけでしょうか?」
「善意も同様です。と言うよりも、命の全てが映されます。見たいものだけを映すような都合の良いものではないんです。あなたは覗いてみましたか?」
男は全然興味が無さそうな平坦な口調で答える。
「つまらない中年男が映っているだけでした」
本当につまらなさそうだ。
「美しいとは思いませんでしたか」
「別に……わたしがあなただったなら、その翼を広げて自分を誇らしく眺めたでしょうね」
男が急に人懐っこい笑顔でそんな事を言うから、わたしの方がどうして良いのかわからず、男の肩の上にぴょんと飛び乗ってしまった。
――どうしてこんな行動を……
後悔して、飛び立とうとした時、
「本当にきれいだ。秋の風の匂いがする」
男がそう言って、肩に顔を寄せ目を閉じた。
この惑わせ方も悪魔になってから変わらず、わたしやシロキを何度も振り回した。
「……今、空を飛んで来たので、そんな匂いもするかも知れません」
やっとの思いで答えたのに、男はもう関心を失くしたように、話を変えた。
「これは自慢なのですが、わたしの周りには心の汚れた人がいないのです」
「何が言いたいのですか」
「それなのに、あの鏡が来てから、みんな酷くふさぎ込むようになりました。いや、こんな言い方は生ぬるいかな、自分と戦っているような気がします。ぎりぎりの所で」
わたしもずっとそれを心配していたのだ。
正直に言うと、あの鏡のせいで自殺者が増えていることなどどうでも良かった。自分の悪意に喰われて死んでしまうような奴らはわたしの神様の中に戻ってくる資格がない――そう思っていた。大切な神様に汚れたものが入ってくる事をわたしは嫌悪していた。
そもそも勝手に汚れてくる命にこだわってに苦しみながら浄化と修復を繰り返す必要なんて少しもないのだ。
そんなもの放って置いて、自分の細胞から新たに修復すればいいだけの話なのだ。それでも、わたしの神様は『命を信じる』とか言って、ぎりぎりのところまで修復をしない。
手遅れにならない所で諦めて欲しい。
自殺することもなく、ずうずうしくわたしの神様の中に戻ってくる命が嫌いだ。あの鏡のおかげで自滅してくれているなら願ったりだ。
一度、尋ねたことがある。
「自殺した者の中には、もっと多くのあなたに癒されるべき命があったのではないですか?」
あの時、濡れた目で「僕には自ら諦めた命を救うことが出来ないんだ。どんなに汚れていても噛りついてきた命なら浄化できる。ああ、僕に諦めた命をつなぎとめる力があったならと、何度願っただろう」そう神様は言った。
そうして、あの鏡を造ったところで、恐れていたことが起きた。
わたしの神様に言わせれば、汚れさえも愛おしい、正しくあろうとする魂が自分から命を諦めだしたのだ。
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