奇跡の神様

第四章 鳥像の門

鏡に呑まれる4

　だから信じ過ぎるなと忠告したのに。

　わたしの神様が十の鏡のを世界に放つと言いだした時、わたしは珍しく強く反対した。

　今となってはどうでも良いことだが、その鏡は人間が「大鏡」と呼ぶほどで、決して小さくない。

　人間の神様は何でもないように話していたが、顔面に当たって良いわけがない。わたしの神様はちゃんと人間の神様に謝っただろうか。言いたくはないが制御が下手くそなのだ。昔から繊細な作業はわたしの方が得意だ。

　鏡を造った目的は人間の神様の言った通り、わたしの神様とつながるためだ。

「人間は無駄に悩みが多いから、僕から離れている間も見守っていてあげたいんだ。『生きて、必ず僕の身体に戻って来て、君は僕の一部なんだから』と励ましたあげたい。もちろん、人間の神様は良くやってくれている。彼が存在してなければ、僕はとっくにこの世界を諦めていたと思う。彼を見て触発された部分もあるんだ。誤解しないで、人間の神様は愚痴の一つもこぼした事がない……こぼしてるけど、あれは愛情表現だろ？　僕は感動してる」

　目をキラキラさせて話す神様が急に儚く見えて、わたしは羽を閉じたり広げたりした。

「不安なの？　僕の身体から出て行った命たちがあの人間の神様を創造したんだよ。僕も創造的でありたい」

　現実的であってください、と言いたかった。

　神様の言う通り、鏡を通してわたしの神様を感じることは可能だが、その前の段階で、ほとんどに人間が脱落するとは考えなかったのだろうか。

　この鏡は生きている。

　言うまでもないけれど、十の地獄の原型だ。

　人間は鏡の空間を通過してわたしの神様に辿りつく。その過程で本来の自分の姿を映し出す道を通るのだが、無事でいられるわけがない。

　自分自身の負の感情に呑まれてしまうだろう。だってそれは全面鏡の中で何十倍にも増幅するのだから。