奇跡の神様

白木

文字の大きさ
上 下
258 / 331
第四章 鳥像の門

鏡に呑まれる3

しおりを挟む
「満足したかい?」

 人間の神様がわたしを覗き込んでいた。

「……ああ、はい。とてもきれいな魂です」

 男の温もりの余韻に浸っていたわたしは、すこぶるつまらない感想を言って取り繕った。

 人間の神様はわたしの様子がおかしいのに気がついたようだが、敢えて無視してくれた。

「じゃあさ、今度はあの鏡の話をしてよ。わたしもこいつも気になってるんだ」

 男も小さく頷く。

「はい。でも人間の神様も、あの鏡のことは見た事がありますよね。二人はどこまで知っているのですか? そして今更何を知りたいのですか」

「そうそう、わたしも見ていたよ。あなたの神様が光る空に鏡を放つところ。顔に鏡の角が当たっちゃって、痛かったよ」

「え? すみません。避けて下さいよ」

「謝ってるの? 責めてるの? まあいいや。とにかく、顔面に当たったそれを拾って、好奇心で覗いて見たんだよね。思ったより、全然良かったよ、わたしの姿」

 あれが顔に当たったのか――良く怒らなかったな。満足そうに頷いている神様を見て安心した。

「とても素敵な神様が映っていたでしょう。命の色も見えましたか?」

「ああ、自分の恰好良さに気を取られてあんまり覚えてないけど、何かキラキラした白っぽい感じ? わたし、自分の見た目とか自信なかったからさ、ほっとしたよ。ほら、わたしの周りの神様を見てると、何か落ち込むじゃない、みんな凄いきれいだから」

 人間の神様もやっぱり白銀の魂なんだ。

 とても嬉しい。

「あなたは美しいですよ」

 男が言って、人間の神様と目を合わせ、にこりと笑った。

 人間の神様の前ではやけに素直じゃないか。わたしの神様にもそうしてくれれば良いのに。春の光に溶けて静かに崩れる雪のようなその笑顔を向けられたら、どんなに喜ぶだろう。

「それで、その鏡をどうしました」

 気になっていたことを確認した。

「生命の神様に返しに行ったよ、顔から血を流しながら」

 思わず神様の顔を確認したが、小さな傷跡すら残っていない。胸をなでおろす。

「良かった」

「血が出てたのが? 直ぐに治ったけどね……それで、わたしの認識だと、あれは生命の神様と繋がるためのものでしょ」

「それが全てです」

「じゃあ何で各地で自殺者が増えたりしてるのかな。この集落でも――」

 黙って聞いていた男が人間の神様の言葉を引き継いだ。

「あの鏡がわたし達の前に現れてから、みんな自分の殻に閉じこもるようになってしまったのです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...