奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

鏡に呑まれる2

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 低い木の枝に身を落ち着けたわたしの目の前にその男が立った。初めて緊張という感覚を味わう。

 もうとっくにわかっていると思うが、念のため確認しておくと、それがわたしとナイトの出会いだ。

 正確にはわたしとナイトの魂の出会いだ。この男の魂から最初の悪魔を造ることになるなんて、その時は夢にも思っていなかった。

 その男は若くはなかったが、美しい神様たちを見慣れているわたしに言わせても整った顔立ちをしていた。濃紺の丈の長い服で隠している身体もきれいなのだろうな、と思った。

 わたしとゆっくり目を合わせると、少しだけ口元に柔らかい笑みを浮かべながら、そのまま横を向いた。目の冷たさと、笑顔の暖かさと、横顔の美しさがそれぞれ別の人間のもののようで、混乱する。

 男の視線の先には人間の神様がいた。

「困った顔してどうしたの?」

「もっと、怖い鳥かと思っていました。こんな事を言っては失礼ですが……かわいいくて」

「でしょ? ふかふかだよね。この生命の神様――君がシカトしている神様の使いに、訳を話してあげなよ。君だって、信じているわたしが誰かに無視されたら怒るでしょ」

 男が即座に首を横に振った。

「わたしは別に……慣れていますから。第一あなたが無視でされずに、しっかり認知されていれば世の中はとっくにもっと良くなっています」

「君、月の神様にも会ったの?」

「会っていませんよ。どうしてですか」

「わたしの痛い所をついてくる辺りがそっくり」

 この二人は一体—―男が人間の神様を無視してわたしの方へ顔を向け直した。

 やっぱりこの顔は苦手だ。

 そう思って魂を覗き込んで、衝撃を受けた。

 見慣れた赤い命が単純に金色に変っただけだと想像していたからだ。

 そういう類のものではなかった。

 赤より熱く静かな金色で、そうだ、これをなんと呼ぶか知っている、温もりだ。

 こんな冷たい顔をして――もっとこれ見よがしに金色の美しさをひけらかすように燃えていてくれないと困る。

 嫉妬していた自分を正当化することを諦め、自分も触れてみたいという衝動が抑えられなくなった。

 羽を広げてみる。近づこうか? 嫌がらないだろか。

 信じられない事に男の方からわたしの羽の中にそっと入って来た。

 自分の神様以外の温もりをこんなに近くに感じるのは初めてだ。

「身体の大きさを変えられるのですね」

 羽の中で囁いた男の声が雪のように溶けた。

 やっぱりわたしは命の神様の使いだ。同じもの惹かれてしまう。

 男はそれだけ言うとわたしの中から出て、また冷たい目をゆっくりそらしてしまった。

 ……何でそんなに名残惜しくて思わせぶりなことをするのか。

 こういう所は悪魔になってからも変わらなかった。人間の神様は「彼、照れ屋さんなんだよ」の一言で片づけたが。

 困ったのはシロキもこれに魅了されてしまったことだ。

 子供っぽい性格のシロキは、人間だった頃の面影が強く残る落ち着いた大人のナイトに、ただ甘えて、仲良くなろうとしていた。

 ナイトは無意識に甘い態度と冷たい目を交互に使い分けて翻弄する。

 心を開いてくれるのを待ち焦がれ、やっとその時が来たと思い目を輝かせると、無慈悲に閉じられる。それを飽きもせず繰り返しているシロキが気の毒だった。

 わたしの大好きな神様の一番色っぽい姿で、情けなく肩を落として溜息をついてるのを見ると、ナイトを性格から造り直してやりたくなった。

 ――あの男の要素を残し過ぎてしまった。シロキ頑張れ、と毎日鏡の世界を見て祈るのがわたしの日課になった。わたしの愛おしい子たち。

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