奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

望んでいた命3

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 月灯りが強すぎる――やっぱり月の神様が聞いている。わたしの神様のきれいな横顔が今夜は明るく映り過ぎている。

「今だって戻って来た命はあなたの身体に同化しているじゃないですか。何が、違うのですか」

「金色の命を僕の身体の一部にするつもりはないよ。あれは――僕の魂と同化させる。僕の核、僕そのものになるんだよ」

 月が眩しい。それに静かだった波がうるさい。それを感じているのに、わたしの心は岩の部屋に閉じ込められたように麻痺していた。

「ねえ、やっぱりやめようか、同化なんて」

 神様がずっと黙ったままのわたしを不安気な顔で覗き込んだ。その目が濡れているようで愛おしい。

 自分の内から放った命とは言え、人間に渡した瞬間から浄化されるまでは別物だ。

 それを、そのまま自分の魂と同化させるなんて。

 魂が変化してしまうじゃないか。わたしの神様が変ってしまう。目の前にいるわたしの神様が別の何かになってしまう。

 いや、それもそうだが、わたしを今狂わせているのは嫉妬だ。

 ――魂を混ぜ合わせる? 魂が一つになる? やだ、やだ、絶対に駄目だ。何故わたしだけでは足りないんだ――

 わたしは返事もせず、空に向かって助走していた。


 暗い空からあの男の探した。なんでお前なんだ。理由が知りたい。わたしの神様と一緒になる権利がお前にあるのか、確かめないと納得できない。

 ――知ったところで納得できないのはわかっていても。確かめないと自分を保っていられない。

 人間の住む集落についた。この中のどこかにいることは確かだ。

 ……ここか。男の気配を色濃く感じる建物があった。参ったな。

 その建物の庭に立つ木々の一つにとまり思った。

 ここは人間の神様の信者たちが住む建物だった。「あの人たち、真面目過ぎて困っちゃうんだよね」呆れたようにそう言いながらも神様は人間を愛していた。

 その証拠に各地にこうやって悪意からの避難場所まで造らせている。……悪意? わたしが持っているものが悪意だから、近寄れないのか? 自分が怖くなった。

 ここに居ても仕方ないとわかってからも、しばらくその建物を凝視していた。

 朝まで待てばいいのか? 

 あの男が人間の神様の加護の届かない場所に来るのを待ち構えようか。だが、この感情のまま会ってしまったらどうなる。駄目だ、離れないと、この感情が静まるまで、どこか遠くへ行かないと。


 それから何日飛んでいたかも、どこを飛んでいたかも全然思い出せない。

 わたしが飛び回っている間に、わたしの神様があの男と話をしていたことも、随分後から知った。「また会えないか」と聞いたらしい。男の方から気のない返事をされて落ち込んだそうだ。

 ――許せない。わたしの神様が、たかが少し魂が美しいだけの人間に「会いたい」などとと懇願する事が、わたしの大切な神様の頼みを断って落胆させるその男の事が、全部が許せない。

 ――何様のつもりだ。

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