奇跡の神様

白木

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第四章 鳥像の門

望んでいた命1

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 わたしの神様の様子がおかしくなった夜の事をはっきり覚えている。

 あれは夕陽が泣いているように透き通りだす秋の始めだった。

 わたしの神様はどの時間を切り取っても比べるものがないほど美しいけれど、日暮れの姿は不安定で妖しい魅力が鮮明になって、その魅力に呑まれて自分自身の存在すらあやふやになってしまう。

 夕方が感情的になるこの季節、わたしは怖いほど自分の神様の虜になる。

 わたしがいかにこの時の神様の姿が好きだったのかをシロキが完成した時に思い知った。

 思い入れが強すぎて、危うげな要素をふんだんに盛り込んでしまい、すっかり色気を孕んだ容姿に仕上がった。

 まずい、やり過ぎた、と思ったけれど、あの子のおっとりした性格を見て安心した。妖しさと純朴さが奇跡的に調和して愛すべき神様が出来た。


 何度だって言うが、わたしの神様は別格だ。その時も、秋の夕陽が神様の顔に濃い影を落とし、陰と陽が明確なのか、あやふやなのかわからない不思議な表情で、俯いていた。

 神様が、何かを感じたのか、ふいに崖の方を見上げた。

 『恋に落ちる』とは、この時の神様の状態を言うのか? 後に人間の神様に尋ねたことがある。

 わたしなんかよりずっと詳しいはずだから。

 その崖に立っている人間を見た時、わたしの神様から妖しさが波のように引いた。神様の心が、力強い海から風のない湖に変化したのを感じた。

 人間の神様は『心を奪われる』というのが恋に近い状態だと教えてくれた。まさにそれだった。

 神様の力を全て放棄して、無心に人間の男を見つめていた。

 話しかけることも出来ず、わたしは混乱していた。「わたしの神様を奪わなで」そんな事を考えていたと思う。

 人間の男をもっと観察したい。わたしの神様から心を奪って、どういうつもりだ。

 ところが、その男はわたしの神様の視線に気がついているのかいないのか、そのまま表情も変えずに立ち去ってしまった。

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