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第四章 鳥像の門
修復不能6
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「海で透けている神様と同じ事を言うんですね」
「え? 命の神様とも会ったの? 神様もロンを欲しがっているの?」
譲らないとだめだろうか。
「いや、タ――ロンではなくて、またわたしに会えるのかと聞かれたんで」
この男はロンの他に何か特別なものを持っているんだろうか。じっと男を観察していて、何かわかったような気がした時、
「わたしはいつもここにいます。あなたを信じている者ですから」
そう男が言い、背後の建物を見た。
ああ、わたしに祈りを捧げる場所か。ここに住んでいるんだな。
「あのさ、あんまりわたしのことは気にしないでいいんだよ。この通り、わたし適当だし、あなた達が、都合の良い時だけ、求めてきたって構わないんだよ。わたしはあなた達から離れたりしないから」
絵画のように動かない、魅力的な夜の男に「じゃあ、また来るね」と言って背を向け、数歩進んだ所で男に腕を掴まれた。
振り返ると、男がわたしをのぞき込んでいた。その足元にロンが寄りそっている。
凍えた目がわたしに安寧を求めていた。
すがる心の声を聞いてしまったら、突き放すことは出来ない。
「今夜はわたしの傍で眠りなさいよ」
男の身体を包みながら言った。
この男もわたしを頼るなんて何を思っているんだか。でも、ロンよりもか弱く見えるその存在を放って置くことはできなった。
「おもっ」
次の瞬間、男が立ったまま体重をわたしに預け、胸の中で寝息を立て始めた。
――気絶したのかと思った。
いくら「眠りなさい」と言ったからって、催眠術じゃあるまいし……異常な眠りの早さに人間の苦労を知った。
わたしは月が雲に隠れた隙に、海にせり立つ崖の上まで男を運び、夜明け前までぐっすり眠るその姿を見ていた。
ただ、横にいて、数時間後、目を覚ました男が「初めて本当に眠れたような気がしました」と言った声を聞いて、神様を頑張ろうと思った。
「帰ります。ありがとうございました」
深々とお辞儀をする男に、
「不安になったらいつでも来なさい、わたしはあなたの味方なんだから」
そう声をかけ、ロンと一緒に白んだ朝に消えて行く影を見送った。
近くで鳥の羽ばたく音が聞こえた。
――この時の行動をずっと後悔している。
「え? 命の神様とも会ったの? 神様もロンを欲しがっているの?」
譲らないとだめだろうか。
「いや、タ――ロンではなくて、またわたしに会えるのかと聞かれたんで」
この男はロンの他に何か特別なものを持っているんだろうか。じっと男を観察していて、何かわかったような気がした時、
「わたしはいつもここにいます。あなたを信じている者ですから」
そう男が言い、背後の建物を見た。
ああ、わたしに祈りを捧げる場所か。ここに住んでいるんだな。
「あのさ、あんまりわたしのことは気にしないでいいんだよ。この通り、わたし適当だし、あなた達が、都合の良い時だけ、求めてきたって構わないんだよ。わたしはあなた達から離れたりしないから」
絵画のように動かない、魅力的な夜の男に「じゃあ、また来るね」と言って背を向け、数歩進んだ所で男に腕を掴まれた。
振り返ると、男がわたしをのぞき込んでいた。その足元にロンが寄りそっている。
凍えた目がわたしに安寧を求めていた。
すがる心の声を聞いてしまったら、突き放すことは出来ない。
「今夜はわたしの傍で眠りなさいよ」
男の身体を包みながら言った。
この男もわたしを頼るなんて何を思っているんだか。でも、ロンよりもか弱く見えるその存在を放って置くことはできなった。
「おもっ」
次の瞬間、男が立ったまま体重をわたしに預け、胸の中で寝息を立て始めた。
――気絶したのかと思った。
いくら「眠りなさい」と言ったからって、催眠術じゃあるまいし……異常な眠りの早さに人間の苦労を知った。
わたしは月が雲に隠れた隙に、海にせり立つ崖の上まで男を運び、夜明け前までぐっすり眠るその姿を見ていた。
ただ、横にいて、数時間後、目を覚ました男が「初めて本当に眠れたような気がしました」と言った声を聞いて、神様を頑張ろうと思った。
「帰ります。ありがとうございました」
深々とお辞儀をする男に、
「不安になったらいつでも来なさい、わたしはあなたの味方なんだから」
そう声をかけ、ロンと一緒に白んだ朝に消えて行く影を見送った。
近くで鳥の羽ばたく音が聞こえた。
――この時の行動をずっと後悔している。
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