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第四章 鳥像の門
修復不能3
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生命の神様が腰まで海に浸かるのを、浜辺に立って見ていた。太陽を含んだ風がさらさらと光る髪を撫でていて、あり得ないほどきれいだった。
この様子をここで見ているだけでも月の神様に嫉妬されそうなのに、まさか「一緒に海に入っていい?」とは間違えても口に出せなった。
生命の神様がすっとさざめく波に目を落とすと、少しずつ、少しずつ、身体がほどけてその肉や骨が波に紛れていった。
……なんか「命を放つ」と言うから天を仰いで、一斉に光の大群が青空に飛んで行く――みたな光景を想像していたので、透明になっていく神様を見ながら戸惑っていた。
ああやって海に自分の身体を落としていくんだな。水に揺らぐ命の幻想に心を奪われていた時、海に静かに鳥の影が現れた。空をを見上げると、生命の神様の頭上を大きな白い鳥が回旋している。
鳥はどこから現れるのか、どんどんその数を増やしていく。
そのうちの一羽が突然、海に飛び込んだ。
え、ちょっと、と思うほど垂直に落ちて、この鳥こそ自殺を企てたのではないかと心配したのも束の間、海水に漂う神様の欠片をくわえて上昇した。
確かに肉片なのだけれど、気持ち悪さなど微塵もない。
ただ美しい、赤い肉片を鳥たちが優雅に運びさる。
気がつくとかなりの時間が経過していた。
夢中で神様の肉片と血の色と匂いに酔っていた。いつまでも恍惚と見ていられる気分だった。断っておくが、わたしにそういう解体とか、血肉に熱狂する趣味はない。生命の神様のものだけ、特別だ。
これは清浄な命そのものだ。
自分の知る人間たちがこんな美しいもので成立しているとは信じがたい。
あまりの醜さと残酷さに、わたしが殺してやろうかと常に思っているのに。
馬鹿が一掃された後の清々しい世界を想像すると、いつ実行に移してしまわないかと心配すらしていたが、そんな気が一気に失せた。
群れをなしていた鳥たちがいつしか飛び去り、蜃気楼のようになってしまった生命の神様と、ひと際輝く命の欠片が水面に浮くだけになった。そこに、これもまたひと際美しい、空と海にも負けないほど鮮やかな鳥が現れ、最後の欠片をすくって飛び去った。
この様子をここで見ているだけでも月の神様に嫉妬されそうなのに、まさか「一緒に海に入っていい?」とは間違えても口に出せなった。
生命の神様がすっとさざめく波に目を落とすと、少しずつ、少しずつ、身体がほどけてその肉や骨が波に紛れていった。
……なんか「命を放つ」と言うから天を仰いで、一斉に光の大群が青空に飛んで行く――みたな光景を想像していたので、透明になっていく神様を見ながら戸惑っていた。
ああやって海に自分の身体を落としていくんだな。水に揺らぐ命の幻想に心を奪われていた時、海に静かに鳥の影が現れた。空をを見上げると、生命の神様の頭上を大きな白い鳥が回旋している。
鳥はどこから現れるのか、どんどんその数を増やしていく。
そのうちの一羽が突然、海に飛び込んだ。
え、ちょっと、と思うほど垂直に落ちて、この鳥こそ自殺を企てたのではないかと心配したのも束の間、海水に漂う神様の欠片をくわえて上昇した。
確かに肉片なのだけれど、気持ち悪さなど微塵もない。
ただ美しい、赤い肉片を鳥たちが優雅に運びさる。
気がつくとかなりの時間が経過していた。
夢中で神様の肉片と血の色と匂いに酔っていた。いつまでも恍惚と見ていられる気分だった。断っておくが、わたしにそういう解体とか、血肉に熱狂する趣味はない。生命の神様のものだけ、特別だ。
これは清浄な命そのものだ。
自分の知る人間たちがこんな美しいもので成立しているとは信じがたい。
あまりの醜さと残酷さに、わたしが殺してやろうかと常に思っているのに。
馬鹿が一掃された後の清々しい世界を想像すると、いつ実行に移してしまわないかと心配すらしていたが、そんな気が一気に失せた。
群れをなしていた鳥たちがいつしか飛び去り、蜃気楼のようになってしまった生命の神様と、ひと際輝く命の欠片が水面に浮くだけになった。そこに、これもまたひと際美しい、空と海にも負けないほど鮮やかな鳥が現れ、最後の欠片をすくって飛び去った。
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