奇跡の神様

第四章 鳥像の門

雷の縛り3

エンド


　胸の中の人間の神様が、俺を押し返してきた。

　神様の顔が見えた。下を向いた青白い顔が笑っているように見えて鳥肌が立った。

　その胸には赤い物がじんわりと滲んでいる。

　人間の神様の血は人間に近い色なのだな、と悠長に思っていると、隣でナイトが屈めていた上体を起こした。

　ルキルくんからガジエアを抜き、無表情で天井を向く横顔がきれいだ。

　ガジエアが身体から離れたことを確認すると、ルキルくんは何の迷いもなく外に飛び出した。ファミドの所に行くのだろう。

　当然だ、使いと神様は共同体なんだから。

　それにしてもとても元気だ。血すら出ていなかった。

　と、人間の神様が上体を起こし、俺の腕から離れ、ルキルくんの後を追った。なだれ込むような姿勢のまま走り出す。

「おい、あなたはまだ――」

　引き留めようとする俺を振り返り、人間の神様が言った。

「あなたも早く来なさい。置いていかれるよ」

　血に胸を染めて、青白い顔で、優しくそう言う声を聞き、初めて人間がうらやましいと思った。あいつらこんな神様が味方なのか。

　自分を刺した俺すらこんな風に許してくれるなんて。

　幸せな花の香りが、凍るような朝を包んだ気がした。