奇跡の神様

白木

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第三章 笑う宝石

もう一つの融合4

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 次に人間の世界に現れたシアンの魂は、濃くて、雑多で、神様さえ喰らう化け物のような人間の世界で、俺のことを忘れたように精一杯生きて死んだ。俺も姿を見せないように努力した。

 ただ、そいつが趣味で描いていた絵を始めて見た時には思わず涙が出た。俺に似た悪魔の絵を描いていた。いや、悪魔だと――俺だと認識していたかすら怪しい。泣いたのはその一度だけだ。

 そいつはその絵を何度も書き直しながら、指でなぞったり、きれいな黒目で長い時間見つめたりしていた。

 ――それで俺は幸せだった。

 シロキがいつか言っていた。「僕が人間に望むことなんて別にないよ。たまに思い出して、甘えてくれればそれだけで十分だ」

 今、シロキの気持ちが良くわかる。

 たまに思い出してくれる、特に辛いことがあった時に思い出してくれる、これ以上の幸せは考えられなかった。自分が認識されているとかいないとか、どうでもいい。

 その絵を描くのが好きな人間の次に、地獄から戻ってきたのがマツリだった。一つ予想外だったのが、マツリに双子の兄がいたことだった。兄の方はイサリと言った。

 俺にとってやっかいなのは、兄のイサリがシロキにそっくりなことだった。シロキのように発光するような美しさこそないが、それは人間だから当然であって、すがるような目や柔らかい笑顔が幼い時からシロキそっくりだった。

 長い間会っていない。一方的に俺は見ていたが。シロキのこともカドのことも。地上の神様から魂を受け取るシロキのきれいなことと言ったら、永久に一つの景色しか見られなくならこれでいい。

 俺と離れて少し大人っぽくなったような気もする。

 カドは相変わらず頼もしかった。そしてあの鏡の門が天に飛び立つ様子は、何度見ても飽きることがない衝撃だった。毎回違った美しさを反射して、一度足りとも同じ姿を見せない。門が透明になると、中に座るシロキが見える。

 ――声が聞きたい。近くで確かめたい。シロキの、カドの温度は今どんなだろう。触れて確かめたい。

 それほど会いたい気持ちを募らせていたシロキに良く似た人間がそばにいるのは落ち着かなかった。もちろん今度のシアン――マツリのことも姿を見られないよう見守っていたが、仲の良い兄弟は常に一緒いるので、つい二人を同時に守っているような気持ちになっていた。

 マツリも俺のことなど覚えてはいないようだったが、鏡を集めるのが好きな子どもだった。

 誕生日や旅行に行った先々で親にせがみ、違った形の鏡を手に入れては喜んで、いつまでも覗き込んでいる。同級生には良く「女子みたいだな」とからかわれていたが、兄のイサリは微笑んで見ているだけで、一度も馬鹿にするような言葉を吐いたことがない。

 それにマツリは鏡を眺めていても、自分のことには興味が無さそうな顔をしていた。何かを探している。鏡に近づくほど、映る自分が邪魔だとばかりにその中に他の何かを探していた。

 こいつが俺を覚えていないとしても、鏡の悪魔の素質はしっかり引き継いでいるのを知って安心した。

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