奇跡の神様

白木

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第三章 笑う宝石

見捨てられないもの3

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「早めに話しておいた方が良いと思うんだよね」

 さっきシアンが神様の信者たちと連れ立って仕事に出かけ、いつも通り庭をふらふらしていた所を、人間の神様に声をかけられた。

 最初に会った広い建物から少し離れた場所に、それと良く似ているが、一回りも二回りも小さい木造の部屋がある。俺をそこに誘いながら「どっちも同じようなもんなんだけどね、ここの人間は広い方を講堂、小さい方を何とかってカタカナの名前で呼び分けてるみたい」と言った。やっぱりいい加減だ。神様の背を見ながら歩いていると、小さな雪のような虫が顔を横切った。

 空気が氷に近づいてきている。空が冬に覆い被されそうなところをなんとか踏みとどまっている季節だった。

「さ、入ってよ」

 促され、しんっと静まった部屋に入る。外よりさらに空気が冷たくなった感じがした。

「楽にしてよ、ここはしばらく開かないようにするから」

 近くにあった濃い緑色に光る布張りの長椅子に腰を下ろした。

「なんだよ、改まって」

 人間の神様が真剣な目で俺を見ている。こういう顔つきをしている時は本当に神様っぽい。人間の理想の神様。

 何も知らない純粋さではなく、何もかも知って、なお優しくて強い目。最悪のことをしでかしても、叱った後に心地よい体温を纏いながら隣に座り、いつもの声で「わたしはずっとあなたの味方だからね」と言ってくれそうな気がする。

 普段からきりっとしてりゃあいいのに。それを言ったらシロキもか。まあ神様なんてそんなもんだ。

「あなたとシアンがわたしの想像していたよりずっと仲が良くて、不安になったんだよ。ほら、人間って死ぬじゃない」

「当たり前だろ」

「だから別れる時が辛いんじゃないかと思って」

 そんなことならとっくに頭が痛くなるくらい想像した。どんな形であれ、あいつは必ず俺を置いて死ぬ。シロキのことも大切だが、あいつといた時には感じたことのない恐怖だった。

 寝ない俺の隣でぐっすり眠る、生きているシアンを見て、どうしようもない気持ちになった。生きているものは怖い。魂が消える時に一緒について行きたい。地獄まで寄り沿うんだ。そう思ったが、それはこの世界の規則に反するのだろか。

「俺は待つから平気だよ。本音を言うとシアンが死んだら、その魂を捕まえて、シロキのところに持って行きたい。カドの門に乗せて俺も一緒に地獄まで行く。そしてシスに……水の悪魔に頼んで人間の世界に還す。そして生まれ変わったあいつとまた会いたい、駄目なのかな」

 神様の方が話があったはずなのに、俺の相談になってしまった。

「駄目、ではないと思うよ。生れ変ってもわかるように、印をつける方法もあるでしょ、過去にそういう人間も何人かいたし。干渉し過ぎだとは思うけどね。シロキさんは何と言うだろうね。まあ、君の願いなら何でも叶えちゃうのかな」

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