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第三章 笑う宝石
魂を待つ鳥8
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「お前、早く言えよ」
「ん?」
「寂しいなら早く言えよ。俺が友だちになってやったのに」
人工的な目を潤ませて作成者が無言で俺の顔に手を伸ばす。気持ち悪いが今回は我慢した。
「お前、友だちできなさそうだから、人間の世界に来たら一人にならないように、俺が相手してやるよ。お前の方がこんな何にもない所から出て来いよ」
作成者が涙ぐんでいるが、瞳が濡れているだけで、表情筋は一切動かさない。そんな泣き方、見慣れていないから怖い。
「お前……優しいな。本当に鏡の悪魔にふさわしい」
結局そこに落ち着くのかよ。話のわからない野郎だな。
冷たい指で俺に触れながら作成者は淡々と続ける。
「わたしはシロキを離したくなくて、あの子の居場所を地獄に固定するために、鏡の門と役割を与えたんだ。そうすれば、どうしたって最後にはわたしのところに戻ってくる」
ひでえ束縛癖だな。あっちには絶対嫌われてるぞ。感想はいくらでも出てくるが、全て罵る言葉なので口に出せない。ただ頷いているのを、聞き上手とでも思っているのか、作成者は調子に乗ってつらつらとしゃべった。
「シロキの鏡の門と、ナイトの鏡の地獄だけが、今わたしが直接地獄とつながれる場所だと言っただろう。他の地獄を造ったのもわたしだけれど、悪魔が増えて以降は出向くこともなくなった。一人でさっきみたく池から下を覗いては、シロキとカドが話をしているのを聞いてああ、今、極楽の外はそんなことになっているのか、と思いを馳せるんだ」
要するに覗きと盗聴じゃないか、こいつのやっているのは。
「実はここと人間の世界を直接つなぐ扉もあるんだ。見るか?」
「ああ」
断っても連れて行かれるに決まっているので適当に相槌を打つ。
「あれだよ」
こいつ絶対に最初から見せるつもりでそっちに向かって歩いていたんだ。いくらも歩かず作成者が足を止め、上を見上げた。一緒にバカ高い天井を見上げる。
「鳥……?」
あんな絵を見たことがある。曇った海に巨大な鳥の影。その鳥の内側だけが穏やかに晴れている絵だ。今見ている風景と色の配置はだいぶ違うけれど。ここのはどこまでも純白な天井が、巨大な鳥型に立体的に切り取られ、そこから雲一つ無い完璧な青空が見える。
「あれがわたしの門なんだ。鳥像の門とシロキたちは呼んでる」
今にも飛び立ちそうな門だ。何なら隣で話している作成者よりずっと生きている感じがする。
神様の門についてはさっき聞いていた。
「お前もあれを動かして移動出来るんだろ」
「まあ、機能的には」
「煮え切らねえやつだな」
また口が悪いと言われるなと覚悟したが、作成者は小さな声で呟いただけだった。
「わたしもあの門が移動するのをずっと待っているんだ」
「ん?」
「寂しいなら早く言えよ。俺が友だちになってやったのに」
人工的な目を潤ませて作成者が無言で俺の顔に手を伸ばす。気持ち悪いが今回は我慢した。
「お前、友だちできなさそうだから、人間の世界に来たら一人にならないように、俺が相手してやるよ。お前の方がこんな何にもない所から出て来いよ」
作成者が涙ぐんでいるが、瞳が濡れているだけで、表情筋は一切動かさない。そんな泣き方、見慣れていないから怖い。
「お前……優しいな。本当に鏡の悪魔にふさわしい」
結局そこに落ち着くのかよ。話のわからない野郎だな。
冷たい指で俺に触れながら作成者は淡々と続ける。
「わたしはシロキを離したくなくて、あの子の居場所を地獄に固定するために、鏡の門と役割を与えたんだ。そうすれば、どうしたって最後にはわたしのところに戻ってくる」
ひでえ束縛癖だな。あっちには絶対嫌われてるぞ。感想はいくらでも出てくるが、全て罵る言葉なので口に出せない。ただ頷いているのを、聞き上手とでも思っているのか、作成者は調子に乗ってつらつらとしゃべった。
「シロキの鏡の門と、ナイトの鏡の地獄だけが、今わたしが直接地獄とつながれる場所だと言っただろう。他の地獄を造ったのもわたしだけれど、悪魔が増えて以降は出向くこともなくなった。一人でさっきみたく池から下を覗いては、シロキとカドが話をしているのを聞いてああ、今、極楽の外はそんなことになっているのか、と思いを馳せるんだ」
要するに覗きと盗聴じゃないか、こいつのやっているのは。
「実はここと人間の世界を直接つなぐ扉もあるんだ。見るか?」
「ああ」
断っても連れて行かれるに決まっているので適当に相槌を打つ。
「あれだよ」
こいつ絶対に最初から見せるつもりでそっちに向かって歩いていたんだ。いくらも歩かず作成者が足を止め、上を見上げた。一緒にバカ高い天井を見上げる。
「鳥……?」
あんな絵を見たことがある。曇った海に巨大な鳥の影。その鳥の内側だけが穏やかに晴れている絵だ。今見ている風景と色の配置はだいぶ違うけれど。ここのはどこまでも純白な天井が、巨大な鳥型に立体的に切り取られ、そこから雲一つ無い完璧な青空が見える。
「あれがわたしの門なんだ。鳥像の門とシロキたちは呼んでる」
今にも飛び立ちそうな門だ。何なら隣で話している作成者よりずっと生きている感じがする。
神様の門についてはさっき聞いていた。
「お前もあれを動かして移動出来るんだろ」
「まあ、機能的には」
「煮え切らねえやつだな」
また口が悪いと言われるなと覚悟したが、作成者は小さな声で呟いただけだった。
「わたしもあの門が移動するのをずっと待っているんだ」
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