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第三章 笑う宝石
魂を待つ鳥6
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「三重音?」
「シロキ本体の声は揺らいだりしていないよ。魂や実態と同じ、きれいな声を与えた。ただ、他人には反射した自分の声と、今自分が一番聞きたい声が同時に重なって聞こえる」
「シロキさんの声と自分の声と自分の一番聞きたい声……」
「そう、何度でも聞きたくなるだろ? お前も、もうシロキの信者かい?」
宗教は興味がない。神様とか悪魔とか天国とか地獄とかどうでも良い。ただ今見ているシロキさんはとても好きだ。
「信者かわかんねえけど、あの神様のそばに、ずっといれたら幸せだろうな」
作成者が俺を見てぎこちない笑顔を作った。こいつ、会った時から表情が硬いと思っていたが、本当に作り物みたいだ。人間の皮を被っているというか。感情がないわけじゃない。表情の作り方を知らないような違和感があった。
「お前がシロキを気に入ってくれて良かったよ。それで、あれがカド、シロキの使いだ」
視界が切り替わると、シロキさんを幼くしたような子が誰かの膝の上で楽し気に話をしているのが見えた。かわいい。賢そうな目を輝かせ表情をころころ変えている様子が初めて見たとは思えないほど愛おしい。作成者が「わたしが造った」と言っている者たちの方がよっぽど表情豊かで自然だ。
「シロキさんを少年にしたみたいな子だな。妖艶さや凄みはないけど、かわいらしさと聡明な感じはシロキさん以上だ。なあ、さっき言ってた神様と使いと門の関係をおさらいさせてくれよ」
作成者は俺に三つの関係と、シロキさんの門の特別な役割について、さっきよりわかりやすく教えてくれた。少し、人と話す感覚を思い出したのかも知れない。なめらかに悪魔の役割についても解説してみせた。
「それで、俺が今ここにいるのは神様か悪魔になるためだよな。まだどっちか決まってはいないんだ? お前が決めるのか?」
「悪魔だよ、それは魂の質で決めている。わたしの気まぐれではないよ」
「まじかよ」
正直面倒くせえ。かなり顔に出ていたと思うが作成者は無視して続ける。
「それでカドを膝にのせて話を聞いているのが鏡の悪魔のナイト。これもまた完璧にきれいだろ」
無表情だが、言葉に僅かに力がこもったところを見ると相当な自信作だったのだろう。わかりずれえな。 自慢気な顔を自然に作れないに違いない。
ナイトという悪魔はシロキさんに通ずる繊細な顔立ちながら、中性的なシロキさんより肩幅も広く、しっかりした骨格をしていた。そして少し作成者に似た暗い雰囲気もある。
「あんたの自慢の悪魔なだけあってきれいだ。少しあんたにも似てる」
「そ、そうかな」
初めて作成者が動揺した。
「勘違いするなよ。あの悪魔の方がずっといい男だ。あいつはめちゃくちゃモテると思うぜ。だがあんたはダメだ」
「人間に好かれない、っていう意味か。相変わらず人間は全然わかってないな」
こいつも一応「好かれたい」という人並みの気持ちはあるのか。
「いや、わかってるさ。孤独に耐えてそうなところがあんたに似てると思ったんだ。人間はな、ああいう孤独で冷めていそうなのに実は優しいっていうやつが好きなんだよ。見てみろよ、カドに向ける視線の柔らかさ。あんたの場合、能面過ぎてちょっと何考えてるかわかんない、とか言われてお終いだよ」
「それを聞いてもわたしとそっくりじゃないか、何だか腑に落ちないな」
自分の造った者にそんなに対抗意識を燃やしてどうするんだか。
「とにかくこの三人が、これからお前が深く関わることになる、鏡の力を持つ者たちだよ」
「シロキ本体の声は揺らいだりしていないよ。魂や実態と同じ、きれいな声を与えた。ただ、他人には反射した自分の声と、今自分が一番聞きたい声が同時に重なって聞こえる」
「シロキさんの声と自分の声と自分の一番聞きたい声……」
「そう、何度でも聞きたくなるだろ? お前も、もうシロキの信者かい?」
宗教は興味がない。神様とか悪魔とか天国とか地獄とかどうでも良い。ただ今見ているシロキさんはとても好きだ。
「信者かわかんねえけど、あの神様のそばに、ずっといれたら幸せだろうな」
作成者が俺を見てぎこちない笑顔を作った。こいつ、会った時から表情が硬いと思っていたが、本当に作り物みたいだ。人間の皮を被っているというか。感情がないわけじゃない。表情の作り方を知らないような違和感があった。
「お前がシロキを気に入ってくれて良かったよ。それで、あれがカド、シロキの使いだ」
視界が切り替わると、シロキさんを幼くしたような子が誰かの膝の上で楽し気に話をしているのが見えた。かわいい。賢そうな目を輝かせ表情をころころ変えている様子が初めて見たとは思えないほど愛おしい。作成者が「わたしが造った」と言っている者たちの方がよっぽど表情豊かで自然だ。
「シロキさんを少年にしたみたいな子だな。妖艶さや凄みはないけど、かわいらしさと聡明な感じはシロキさん以上だ。なあ、さっき言ってた神様と使いと門の関係をおさらいさせてくれよ」
作成者は俺に三つの関係と、シロキさんの門の特別な役割について、さっきよりわかりやすく教えてくれた。少し、人と話す感覚を思い出したのかも知れない。なめらかに悪魔の役割についても解説してみせた。
「それで、俺が今ここにいるのは神様か悪魔になるためだよな。まだどっちか決まってはいないんだ? お前が決めるのか?」
「悪魔だよ、それは魂の質で決めている。わたしの気まぐれではないよ」
「まじかよ」
正直面倒くせえ。かなり顔に出ていたと思うが作成者は無視して続ける。
「それでカドを膝にのせて話を聞いているのが鏡の悪魔のナイト。これもまた完璧にきれいだろ」
無表情だが、言葉に僅かに力がこもったところを見ると相当な自信作だったのだろう。わかりずれえな。 自慢気な顔を自然に作れないに違いない。
ナイトという悪魔はシロキさんに通ずる繊細な顔立ちながら、中性的なシロキさんより肩幅も広く、しっかりした骨格をしていた。そして少し作成者に似た暗い雰囲気もある。
「あんたの自慢の悪魔なだけあってきれいだ。少しあんたにも似てる」
「そ、そうかな」
初めて作成者が動揺した。
「勘違いするなよ。あの悪魔の方がずっといい男だ。あいつはめちゃくちゃモテると思うぜ。だがあんたはダメだ」
「人間に好かれない、っていう意味か。相変わらず人間は全然わかってないな」
こいつも一応「好かれたい」という人並みの気持ちはあるのか。
「いや、わかってるさ。孤独に耐えてそうなところがあんたに似てると思ったんだ。人間はな、ああいう孤独で冷めていそうなのに実は優しいっていうやつが好きなんだよ。見てみろよ、カドに向ける視線の柔らかさ。あんたの場合、能面過ぎてちょっと何考えてるかわかんない、とか言われてお終いだよ」
「それを聞いてもわたしとそっくりじゃないか、何だか腑に落ちないな」
自分の造った者にそんなに対抗意識を燃やしてどうするんだか。
「とにかくこの三人が、これからお前が深く関わることになる、鏡の力を持つ者たちだよ」
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