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第三章 笑う宝石
求める悪魔3
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「それで、他にも僕に言いたいことがあるんでしょ?」
カドが見えなくなるとシロキが涼しい目を俺に向けた。俺の願いを叶えるとか言っていただけあって気にしてくれていたんだな。
「ああ、人間の神様が蜘蛛を助けた男をのことを知っているらしいんだ。正確にはそいつの魂を持った人間のことだが」
「へえ、みんなここに集まってくるんだね」
そういうシロキの横顔がそれほど意外そうではない。疑っていることがある。人間の世界だって狭くはないはずなのに偶然が重なるのは、みんなシロキを目印にしているからじゃないんだろうか。
この街では鏡の神様を信仰していると聞く。
毎年冬には鏡の祭りなども行われているそうだ。見たことはないけれど。今までのシロキは雷の力を借りないと移動できないという縛りがあったから、出向けない年もあり、その時はしきりに気を病んでいた。他のどこよりもこの町を訪れているのは間違えない。
人間の神様も、蜘蛛を助けた男も、他の神様だってシロキの中の何かに引き寄せられてここに集まるのではないだろうか。
「それが、不思議なんだ。人間の神様の話だと、そいつはもう一人で夜中に出歩けるような姿らしい。早すぎないか? 地獄から堕とされた魂は最初からやり直しだろ。俺がシスと魂を還したのはそんなに前じゃない」
「トリプガイド――シスは金色の魂の中に入れたんでしょ」
シロキが小首をかしげて言った。さっき木の枝でみた白い小鳥のようだ。
「そうだけど」
「そのせいじゃないかな。トリプガイドの力で生まれ変わるより先に再成されたんじゃない? シスは美しいうえに頭も良いんだね。素敵だな」
「お前、それ本人に言うなよ。死ぬかもしれない」
あの変態がシロキに「素敵」などとうっとり言われたら本当に死にかねないと思った。
「シスはそれを狙っていたのかな」
シロキならわかるだろうか、尋ねてみた。
「お前に守ってもらうために一緒に堕としたんだから、見つけやすくしないと意味がないからじゃないの。それに、なにより、会わせてあげたかったんでしょ、あの男に、あの姿のままでもう一度。ねえ、水の悪魔って褒められると死ぬの?」
そっちの方に興味を持ってしまったか。不安そうに俺を覗きこんでくる。それこそどうでも良い。
「お前限定で死ぬんだよ、気をつけろよ。それより、確かにあのままの姿なら直ぐにわかる。まあ、いずれにしろ人間の神様が明後日の夜に引き合わせてくれるそうだ」
「僕も行っていい? それから、僕、何度かシス本人に『美しい』と言ってしまったよ。感じたままを言っただけなんだけど。どうしよう、もう瀕死なんじゃないだろか」
面倒臭いな、シスのことは忘れてくれ。
「いや、百万回目で死ぬからまだ大丈夫だ。人間の神様のところへは行かない方がいい。何故かわからないけどお前のことを酷く怖がっていたから」
あまり言いたくなかったが、渋々理由を口にした。身に覚えのないことで怖がられて騒ぎ出すかと思ったが、冷たいと思うほど冷静で、あっけない言葉が返ってくる。
「あ、そう」
「お前――」
急に抱きつかれて言いかけた言葉を忘れた。
「カドに見られるのが恥ずかしくて、ここまで誘ったんだ。お前に抱きついて泣いてるなんて知られたくない」
「――切ないのか? 泣けよ」
最近良く泣くな。こいつの情緒不安定には世界の誰より慣れている。理由はどうでもいい。落ち着くなら泣け、そう思った。ところがこういう時に限って鼻声で理由をしっかり話し出す。
「もう泣かないから、約束して。お前はこれから蜘蛛を助けた男とトリプガイドを守るために、僕から離れて人間の世界で過ごすんだろ。そう願っているのは知ってる。それはいいんだ。僕が鏡の地獄の空を閉じた時から覚悟していたことだから。その代わり絶対に、僕たちの――僕とカドのところに戻ってきて、たまにでいい。そして絶対に僕たちのこと、忘れないで。ねえ、約束して」
文節ごとに身体に絡み付く手に狂おしい力がこもる。
「約束する。言ったろ、お前は世界中で何よりきれいな俺の神様だ。何とも比較できないくらい大切だよ。お前のこともカドのこともどうやったら忘れらるんだ? そんな方法があるなら教えろよ」
本当にぐすっという音を立ててシロキが胸の中で顔を上げる。純粋な顔だ。俺はこいつに映って恥ずかしくない悪魔でいる、いつまでも。その柔らかい髪を撫でながら言った。
「お前こそ、俺のこと忘れないでくれよ」
シロキがまたきつく俺に抱きついて、紅葉が躍るような声で囁いた。
「僕は絶対に忘れない」
カドが見えなくなるとシロキが涼しい目を俺に向けた。俺の願いを叶えるとか言っていただけあって気にしてくれていたんだな。
「ああ、人間の神様が蜘蛛を助けた男をのことを知っているらしいんだ。正確にはそいつの魂を持った人間のことだが」
「へえ、みんなここに集まってくるんだね」
そういうシロキの横顔がそれほど意外そうではない。疑っていることがある。人間の世界だって狭くはないはずなのに偶然が重なるのは、みんなシロキを目印にしているからじゃないんだろうか。
この街では鏡の神様を信仰していると聞く。
毎年冬には鏡の祭りなども行われているそうだ。見たことはないけれど。今までのシロキは雷の力を借りないと移動できないという縛りがあったから、出向けない年もあり、その時はしきりに気を病んでいた。他のどこよりもこの町を訪れているのは間違えない。
人間の神様も、蜘蛛を助けた男も、他の神様だってシロキの中の何かに引き寄せられてここに集まるのではないだろうか。
「それが、不思議なんだ。人間の神様の話だと、そいつはもう一人で夜中に出歩けるような姿らしい。早すぎないか? 地獄から堕とされた魂は最初からやり直しだろ。俺がシスと魂を還したのはそんなに前じゃない」
「トリプガイド――シスは金色の魂の中に入れたんでしょ」
シロキが小首をかしげて言った。さっき木の枝でみた白い小鳥のようだ。
「そうだけど」
「そのせいじゃないかな。トリプガイドの力で生まれ変わるより先に再成されたんじゃない? シスは美しいうえに頭も良いんだね。素敵だな」
「お前、それ本人に言うなよ。死ぬかもしれない」
あの変態がシロキに「素敵」などとうっとり言われたら本当に死にかねないと思った。
「シスはそれを狙っていたのかな」
シロキならわかるだろうか、尋ねてみた。
「お前に守ってもらうために一緒に堕としたんだから、見つけやすくしないと意味がないからじゃないの。それに、なにより、会わせてあげたかったんでしょ、あの男に、あの姿のままでもう一度。ねえ、水の悪魔って褒められると死ぬの?」
そっちの方に興味を持ってしまったか。不安そうに俺を覗きこんでくる。それこそどうでも良い。
「お前限定で死ぬんだよ、気をつけろよ。それより、確かにあのままの姿なら直ぐにわかる。まあ、いずれにしろ人間の神様が明後日の夜に引き合わせてくれるそうだ」
「僕も行っていい? それから、僕、何度かシス本人に『美しい』と言ってしまったよ。感じたままを言っただけなんだけど。どうしよう、もう瀕死なんじゃないだろか」
面倒臭いな、シスのことは忘れてくれ。
「いや、百万回目で死ぬからまだ大丈夫だ。人間の神様のところへは行かない方がいい。何故かわからないけどお前のことを酷く怖がっていたから」
あまり言いたくなかったが、渋々理由を口にした。身に覚えのないことで怖がられて騒ぎ出すかと思ったが、冷たいと思うほど冷静で、あっけない言葉が返ってくる。
「あ、そう」
「お前――」
急に抱きつかれて言いかけた言葉を忘れた。
「カドに見られるのが恥ずかしくて、ここまで誘ったんだ。お前に抱きついて泣いてるなんて知られたくない」
「――切ないのか? 泣けよ」
最近良く泣くな。こいつの情緒不安定には世界の誰より慣れている。理由はどうでもいい。落ち着くなら泣け、そう思った。ところがこういう時に限って鼻声で理由をしっかり話し出す。
「もう泣かないから、約束して。お前はこれから蜘蛛を助けた男とトリプガイドを守るために、僕から離れて人間の世界で過ごすんだろ。そう願っているのは知ってる。それはいいんだ。僕が鏡の地獄の空を閉じた時から覚悟していたことだから。その代わり絶対に、僕たちの――僕とカドのところに戻ってきて、たまにでいい。そして絶対に僕たちのこと、忘れないで。ねえ、約束して」
文節ごとに身体に絡み付く手に狂おしい力がこもる。
「約束する。言ったろ、お前は世界中で何よりきれいな俺の神様だ。何とも比較できないくらい大切だよ。お前のこともカドのこともどうやったら忘れらるんだ? そんな方法があるなら教えろよ」
本当にぐすっという音を立ててシロキが胸の中で顔を上げる。純粋な顔だ。俺はこいつに映って恥ずかしくない悪魔でいる、いつまでも。その柔らかい髪を撫でながら言った。
「お前こそ、俺のこと忘れないでくれよ」
シロキがまたきつく俺に抱きついて、紅葉が躍るような声で囁いた。
「僕は絶対に忘れない」
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