奇跡の神様

白木

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第三章 笑う宝石

求められた神様5

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 早朝の秋は、まだ青く薄暗かった。

 聴いたことのない鳥の声がする。

 極楽を憎んでいた俺が許すと言っても、シロキが許さないのは何故だろう。「どっちが本当の願いを叶えられるか」そんな競争をするなんて、馬鹿げている。

 鳥の姿が見たくて周囲を見渡すが、恥ずかしがっているのかどんどん音は遠ざかってしまった。

 人間に教えてやりたい。間違いを犯すなら悪魔の前でしろ。

 悪魔は水に流してやれても、神様は自分の気が済むまで許してくれないぞ。怖がるなら神様を怖がれ。

 湖の周囲の森は美しく、水の地獄に良く似ていた。名前も知らない小さな生物がたくさんいる以外は。 目線をどこに向けても面白くて、俺はそいつらを驚かせないないように慎重に距離を取りながら立ち止まっては眺めた。早朝に来てみて良かった。いくら森を出て直ぐのところに目的の建物があるとは言え、こんな具合いに歩いていては、いつ到着するかわからない。

 その建物は昨日シロキと一緒に訪ねた時と同じく、森を背にして静かにそこに立っていた。大きく重そうな木の扉の前で考える。

 人間の神様は自分たちとは違うとシロキが言っていた。どういう意味だろうか。未だに良くわかっていない。

 少し緊張してきた。やっぱりシロキについてきてもらうべきだった。

「あれ? 何してんの? え? 悪魔なの? 一人で来たの? 嘘でしょ? ちょっと、待ってよ、え? 本物?」

 後ろから凄い勢いで話す声がして振り返ると神様が立っていた――というか屈んでいた。

 何か茶色いもぞもぞ動くものを静かにさせようとしているみたいだ。

「ジャック、お座り」

「ジャック? あなたの名前か?」

「わたしは人間の神様。ジャックはこの犬だよ。自分にお座りとか言うわけないじゃない」

 立ち上がると俺と同じくらいの背丈の男で、言葉を発してないのに常に話をしているような生き生きした目をしている。 

 顔立ちはシスに似た美形だが、人間味が豊か過ぎるせいであいつのような硬質な印象はない。

「この子、ジャックなんていうけど女の子なんだよ。君を好きになってしまったみたい。こんなに興奮して。悪魔を好きになっても叶わないよ。ほら、中に入って」

 俺に話しかけているのか、ジャックという茶色の毛玉に話しかけているのわかりにくいが、促されるまま建物の中に入った。

「適当にそこらへん座って。あ、ジャック」

 長い木の椅子が幾つも並んだうちの一つに腰かけると、膝の上にさっきの毛玉が乗かってきた。

「ごめんね、まさか犬嫌い?」

 茶色い尻尾を張り切って振り、長い舌を出して俺を見上げる濡れた黒目は憎めない。

「……いや、かわいいな」

 そっと頭を撫でてやると、その手をぺろぺろ舐めてきた。

「初めて会った人にそんなに懐くなんてね。あ、初めて会った悪魔か」

 人間の神様はそう言って俺の横に少し距離を開けて座るとすっと手を伸ばしてきた。

 犬を返せということか。まあ神様は嫉妬深いから俺に異常に懐いてるこの毛玉を見て、ムッとしているかも知れないな。

 俺は両手で犬の脇を抱えて神様へ差し出した。

「いや、そうじゃなくて。ジャックは抱っこしててあげててよ。せっかく君に懐いているのにかわいそうでしょ。そっち、それを預けにきたんじゃないの?」

 そう言って俺が椅子の横に置いたガジエアを指した。

「ああ……」

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