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第三章 笑う宝石
笑う宝石6
しおりを挟むその女性の雰囲気は異様だった。
不機嫌という言葉が合うのだが、それよりも恐怖を抱かせるような殺気。
ドイツから日本に帰国したミルカは、仲間からの報告を見るなり苛立ちを隠せない。
報告と一緒に上がっている写真には、仲睦まじい様子の白羽と静羽。
スマホを持つ手に力が入る。
それはもう…画面を割ってしまうのではないか、くらいに…。
今までずっと横にいたのは自分だった。
ドイツで出会ってからずっと傍にいて、他の女性が近づかないように対策もしてきた。
特に白羽も女性に興味があるようなそぶりを見せていなかった。
あいつが現れるまでは…
『どうして…なんで…。今までずっとうまくいっていたのに…。あいつさえ…あいつさえいなければ…』
しかも今回相手にしているのは、ヒメカが母体となるための器。
殺そうとしても簡単には死なない、そうマリアから言われている。
それは中にヒメカがいるから。
実際自分が呪い殺そうとしたネックレスも、あっけなく吹き飛んでしまった。
しかし、そうであったとしても殺意は消える事はない。
『なんとかして白羽くんから引き剥がさないと』
殺せないなら殺せないなりに遠くへやってしまえばいい。
どうせあいつは器でしかないのだ。
いずれは中にいるヒメカに意識も身体も奪われる存在なのだから。
『対戦を申し込んで、あいつを負かす。今の私なら勝てるわ。そして…学園からも、白羽くんの家からも追い出してやる!』
―――――――――
悪寒がした。
静羽が家で洗い物をしながら背中を少しブルっとさせている。
それに気付いた白羽が寒いのかと尋ねると…
「なんか悪寒がして…」
と返す。
なんとなく勘で、何か悪いモノを感じた。
『もしかして…ミルカさんでも帰ってきたとか…』
もし自分が白羽に告白した事をミルカが知ってしまったら…と考えると少し怖い。
「ねぇ白羽くん、ミルカ先輩に…この間の事、伝わったらどうしよう…」
「…おそらくもう伝わってるだろう」
「わぁ…ミルカネットワーク怖い…」
「今まで色んな人が居なくなってるってことは、見張ってる人間がいるって事だからな」
今まで静羽も幾度となく邪魔が入っている。
時間が経って、潔白である事も証明されつつあるし、学園の中の雰囲気も変わってきたが、ミルカだけは変わらないだろう。
それだけ白羽の事を好いているのかもしれないが、だからといって他者に害を与える理由にはならない。
自分にだって嫉妬はある。
だがミルカの場合はそれが度を越しているのだ。
「静羽、もしまたミルカと1対1になるようなことがあれば、すぐピアスで呼んでほしい。あいつは俺がいれば抑止力になる」
「うん…ありがとう」
そんなことを話していた次の日だった。
ミルカから話がしたいと呼び出され、白羽同伴のもと部室の前で話をする。
「なーんで白羽くんも一緒なのー?」
「お前と静羽対面させたら、お前が何するかわからないからな。で、話ってなんだ」
「ふーん、まぁいいけど~。えっとねぇ、姫歌ちゃんと御前試合したいな~って申し込みだよっ★」
「御前試合?」
学園には2つの対戦が許されている。
1つはお互いを高めあうため、そして相手を知る事や、自分の能力の披露のために行われる試合=交流試合
もう1つは自分の学園内での立場やポイントを賭けて、自分の譲れない主張や誤解を解く事、または相手の立場に自分がなりたいときに挑む事ができる試合=御前試合
御前試合と言っても、本当に将軍や天皇が見るわけでも命を賭けるわけでもなく、学園内で地位の高い学園長や、関係施設や機関のお偉いさんが誰か1人は見に来ると言うシステムで、予め申請して許可が必要な試合である。
事前に何を賭けるかを決めなくてはならず、片側が申請したところで相手が拒否すれば成立しない。
「なんで御前試合なんかしなきゃならないんだ」
「申し込んでるのは白羽くんじゃないよ?姫歌さん」
「わかっているが…何のためにやるんだ。例えばAクラスやBクラスの生徒が、Sクラスの地位を奪う為に御前試合をした記録は残っているが、お前の場合逆じゃないか…」
「そう…、それでも私のSクラスでの地位を賭けてでも…御前試合をしたい理由がある」
「聞くだけ聞こう」
「私が負けたら、私の地位に姫歌さんがなる。それに、私はこの学園から出ていく。逆に姫歌さんが負けたら…。学園からも白羽くんの家からも出ていって」
その言葉を聞いて、静羽は俯く。
今この場で返答してもしなくても、いずれミルカとは決着を付けなくてはならない。
「静羽…断ればいい。試合に出る必要なんてない。ミルカは、自分の欲求を満たしたいだけだ」
白羽が横でそう言ってくれるのは嬉しかった。
それを素直に受け入れて、断ってしまえば楽なのだろう。
「足りません…」
「は?」
「私がもし、御前試合に出るのなら…まだ、条件が足らないと言ってます」
顔を上げた静羽が見上げた先のミルカに向ける視線はとても冷たく、まるで魔物と対峙した時の価値のない物を見る目だ。
その顔を見るのは白羽もミルカも初めてだった。
まるで心がどこかへ行ってしまっているようで、その瞳に光はなく本人ではないように見える。
「あなたが今まで白羽くんにした事、皆の前で全部吐いていただきます。そして、白羽くんに謝ってください」
「は?何言って…」
「地下にある遺跡で、どうやって白羽くんに呪いをかけたのかの記録があったので見ました。白羽くんも楓真くんも見てます。今更とぼけるおつもりですか。」
「……そぉ…見たの」
一定時間ミルカが黙り、間を開けたかと思いきやその後身体をゆらりとゆらしながら笑う。
「ふふっ…ふふふっ…あはははは!いいわ…それであんたを…白羽くんの側から引きはがせるのなら、その条件のんでやろうじゃない…。そうなった時には私はもう学園から去ること確定なんだから、その条件追加でもいいわ」
「自分が負けるとはお思いにならないようですね」
「当たり前じゃない…、あんたなんか…白羽くんにはふさわしくないのよ!絶対に勝って…惨めに去っていくところを快く見送ってあげるわよ…」
「その言葉…そっくりそのままお返しします」
その後黙りながら交差し合う怒りに満ちた視線。
きっとこうなってしまえばもう、2人とも白羽の言葉を受け入れることはない。
いつもなら怖じ気づいて何も言い返せなかっただろう静羽も、その度胸がついたのか、それとも白羽の事だからこそ余計に怒っているのか…。
その場に同伴していた白羽も、この2人が対戦する原因が自分にある事にため息をついた。
はっきりと白羽がミルカに対して感情表現をできていたのなら、こんなことにならなかったのかもしれないが、それを縛ったのはミルカ自身だ。
いずれ呪いが解かれれば、嫌でもミルカは白羽から現実を突きつけられるだろう。
だがそうなったからといってその後、静羽に対し害を与えないとも限らない。
いずれはきっと同じことが起こってしまうだろう。
「ミルカ…小細工はするなよ」
「ふふっ、なんの心配してるの?正々堂々戦おうじゃない…お互いの今後を賭けて…」
申請書類は後で送るわと言い残し、ミルカは立ち去って行った。
そのまま何も言わずスーッと部室に戻って行ってしまう静羽。
きっと今は話しかけてほしくなかったのだろう。
そのまま部活が終わるまで、白羽と静羽は言葉を交わすことはなかった。
不機嫌という言葉が合うのだが、それよりも恐怖を抱かせるような殺気。
ドイツから日本に帰国したミルカは、仲間からの報告を見るなり苛立ちを隠せない。
報告と一緒に上がっている写真には、仲睦まじい様子の白羽と静羽。
スマホを持つ手に力が入る。
それはもう…画面を割ってしまうのではないか、くらいに…。
今までずっと横にいたのは自分だった。
ドイツで出会ってからずっと傍にいて、他の女性が近づかないように対策もしてきた。
特に白羽も女性に興味があるようなそぶりを見せていなかった。
あいつが現れるまでは…
『どうして…なんで…。今までずっとうまくいっていたのに…。あいつさえ…あいつさえいなければ…』
しかも今回相手にしているのは、ヒメカが母体となるための器。
殺そうとしても簡単には死なない、そうマリアから言われている。
それは中にヒメカがいるから。
実際自分が呪い殺そうとしたネックレスも、あっけなく吹き飛んでしまった。
しかし、そうであったとしても殺意は消える事はない。
『なんとかして白羽くんから引き剥がさないと』
殺せないなら殺せないなりに遠くへやってしまえばいい。
どうせあいつは器でしかないのだ。
いずれは中にいるヒメカに意識も身体も奪われる存在なのだから。
『対戦を申し込んで、あいつを負かす。今の私なら勝てるわ。そして…学園からも、白羽くんの家からも追い出してやる!』
―――――――――
悪寒がした。
静羽が家で洗い物をしながら背中を少しブルっとさせている。
それに気付いた白羽が寒いのかと尋ねると…
「なんか悪寒がして…」
と返す。
なんとなく勘で、何か悪いモノを感じた。
『もしかして…ミルカさんでも帰ってきたとか…』
もし自分が白羽に告白した事をミルカが知ってしまったら…と考えると少し怖い。
「ねぇ白羽くん、ミルカ先輩に…この間の事、伝わったらどうしよう…」
「…おそらくもう伝わってるだろう」
「わぁ…ミルカネットワーク怖い…」
「今まで色んな人が居なくなってるってことは、見張ってる人間がいるって事だからな」
今まで静羽も幾度となく邪魔が入っている。
時間が経って、潔白である事も証明されつつあるし、学園の中の雰囲気も変わってきたが、ミルカだけは変わらないだろう。
それだけ白羽の事を好いているのかもしれないが、だからといって他者に害を与える理由にはならない。
自分にだって嫉妬はある。
だがミルカの場合はそれが度を越しているのだ。
「静羽、もしまたミルカと1対1になるようなことがあれば、すぐピアスで呼んでほしい。あいつは俺がいれば抑止力になる」
「うん…ありがとう」
そんなことを話していた次の日だった。
ミルカから話がしたいと呼び出され、白羽同伴のもと部室の前で話をする。
「なーんで白羽くんも一緒なのー?」
「お前と静羽対面させたら、お前が何するかわからないからな。で、話ってなんだ」
「ふーん、まぁいいけど~。えっとねぇ、姫歌ちゃんと御前試合したいな~って申し込みだよっ★」
「御前試合?」
学園には2つの対戦が許されている。
1つはお互いを高めあうため、そして相手を知る事や、自分の能力の披露のために行われる試合=交流試合
もう1つは自分の学園内での立場やポイントを賭けて、自分の譲れない主張や誤解を解く事、または相手の立場に自分がなりたいときに挑む事ができる試合=御前試合
御前試合と言っても、本当に将軍や天皇が見るわけでも命を賭けるわけでもなく、学園内で地位の高い学園長や、関係施設や機関のお偉いさんが誰か1人は見に来ると言うシステムで、予め申請して許可が必要な試合である。
事前に何を賭けるかを決めなくてはならず、片側が申請したところで相手が拒否すれば成立しない。
「なんで御前試合なんかしなきゃならないんだ」
「申し込んでるのは白羽くんじゃないよ?姫歌さん」
「わかっているが…何のためにやるんだ。例えばAクラスやBクラスの生徒が、Sクラスの地位を奪う為に御前試合をした記録は残っているが、お前の場合逆じゃないか…」
「そう…、それでも私のSクラスでの地位を賭けてでも…御前試合をしたい理由がある」
「聞くだけ聞こう」
「私が負けたら、私の地位に姫歌さんがなる。それに、私はこの学園から出ていく。逆に姫歌さんが負けたら…。学園からも白羽くんの家からも出ていって」
その言葉を聞いて、静羽は俯く。
今この場で返答してもしなくても、いずれミルカとは決着を付けなくてはならない。
「静羽…断ればいい。試合に出る必要なんてない。ミルカは、自分の欲求を満たしたいだけだ」
白羽が横でそう言ってくれるのは嬉しかった。
それを素直に受け入れて、断ってしまえば楽なのだろう。
「足りません…」
「は?」
「私がもし、御前試合に出るのなら…まだ、条件が足らないと言ってます」
顔を上げた静羽が見上げた先のミルカに向ける視線はとても冷たく、まるで魔物と対峙した時の価値のない物を見る目だ。
その顔を見るのは白羽もミルカも初めてだった。
まるで心がどこかへ行ってしまっているようで、その瞳に光はなく本人ではないように見える。
「あなたが今まで白羽くんにした事、皆の前で全部吐いていただきます。そして、白羽くんに謝ってください」
「は?何言って…」
「地下にある遺跡で、どうやって白羽くんに呪いをかけたのかの記録があったので見ました。白羽くんも楓真くんも見てます。今更とぼけるおつもりですか。」
「……そぉ…見たの」
一定時間ミルカが黙り、間を開けたかと思いきやその後身体をゆらりとゆらしながら笑う。
「ふふっ…ふふふっ…あはははは!いいわ…それであんたを…白羽くんの側から引きはがせるのなら、その条件のんでやろうじゃない…。そうなった時には私はもう学園から去ること確定なんだから、その条件追加でもいいわ」
「自分が負けるとはお思いにならないようですね」
「当たり前じゃない…、あんたなんか…白羽くんにはふさわしくないのよ!絶対に勝って…惨めに去っていくところを快く見送ってあげるわよ…」
「その言葉…そっくりそのままお返しします」
その後黙りながら交差し合う怒りに満ちた視線。
きっとこうなってしまえばもう、2人とも白羽の言葉を受け入れることはない。
いつもなら怖じ気づいて何も言い返せなかっただろう静羽も、その度胸がついたのか、それとも白羽の事だからこそ余計に怒っているのか…。
その場に同伴していた白羽も、この2人が対戦する原因が自分にある事にため息をついた。
はっきりと白羽がミルカに対して感情表現をできていたのなら、こんなことにならなかったのかもしれないが、それを縛ったのはミルカ自身だ。
いずれ呪いが解かれれば、嫌でもミルカは白羽から現実を突きつけられるだろう。
だがそうなったからといってその後、静羽に対し害を与えないとも限らない。
いずれはきっと同じことが起こってしまうだろう。
「ミルカ…小細工はするなよ」
「ふふっ、なんの心配してるの?正々堂々戦おうじゃない…お互いの今後を賭けて…」
申請書類は後で送るわと言い残し、ミルカは立ち去って行った。
そのまま何も言わずスーッと部室に戻って行ってしまう静羽。
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