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第三章 笑う宝石
金と青と5
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その日を境に、俺は定期的に鏡の門を訪れるようになった。
数時間、シロキさんとカドと過ごす。鏡の悪魔――ナイトから渡されたガジエアを強く握りながら。
ナイトはシロキさんに似た繊細な顔を、疲労の色に染めて「ごめんな、二人のことを頼む」と小声で言って出て行く。それだけで悪魔にしては珍しく、妙な色気を醸している。羨ましくなる自分を戒めながら、手首の生々しい傷跡をさりげなく確認した。
こいつの大切なシロキさんとカドを守らないと、いつにない責任感でいっぱいになる。
「安心して行って来いよ」
ナイトを送り出した後はカドを感じて座り、常に床か壁にべったり張りついているシロキさんを眺めて過ごす。
変な恰好だとは思うがやっぱり見惚れてしまう。
作成者が単純に測って造ったような俺とは大違いだ。欠片から始めて、全身を愛情を込めて造ったに違いない。
そんなシロキさんがこんなに弱っている時に、何もしてやらない極楽は何を考えているんだろう。
もしかしたら、作成者も俺と同じでシロキさんの悲しい顔や辛い顔を見て少し感動している節があるのではないか。いや、そんなのは俺だけか。
ナイトが戻って来て「何もなかったぞ」とガジエアを返した時、扉を叩く音がしてアドバンドが入って来た。
悪魔三人が集まったところで、シロキさんにこれから蜘蛛を助けた男の魂とトリプガイドを、水の地獄から人間の世界に戻すことを伝えた。
ナイトの緊張した様子とは裏腹に、シロキさんはゆっくり仰向けになって「そうなんだ」と言った。そしてうっとりした顔で続ける。
「金色の魂と海は相性が良さそうだね、僕も見てみたい」
俺はそれを見ているシロキさんを見てみたい。ところがナイトとアドバンドは同時に首を横に振りシロキさんを止めた。
「お前はカドとここにいろ」
「俺がシロキさんとここに残るよ。水の地獄へはナイトとシスに行ってもらおう」
「………」
シロキさんが黙ってしまった。しかし数秒後には顔を上げ、少し寂し気に笑いながら言った。
「そうだね、カドを置いて行こうなんて、僕は何を言ってるんだろう」
何て純粋で優しい神様なんだろう。自分の目が潤んでくるのを感じた。
ふとナイトが俺をじっと見ていることに気がつく。不審者を見る様な視線で少し傷ついた。あんまり熱心にシロキさんを見過ぎただろか。気をつけよう。
数時間、シロキさんとカドと過ごす。鏡の悪魔――ナイトから渡されたガジエアを強く握りながら。
ナイトはシロキさんに似た繊細な顔を、疲労の色に染めて「ごめんな、二人のことを頼む」と小声で言って出て行く。それだけで悪魔にしては珍しく、妙な色気を醸している。羨ましくなる自分を戒めながら、手首の生々しい傷跡をさりげなく確認した。
こいつの大切なシロキさんとカドを守らないと、いつにない責任感でいっぱいになる。
「安心して行って来いよ」
ナイトを送り出した後はカドを感じて座り、常に床か壁にべったり張りついているシロキさんを眺めて過ごす。
変な恰好だとは思うがやっぱり見惚れてしまう。
作成者が単純に測って造ったような俺とは大違いだ。欠片から始めて、全身を愛情を込めて造ったに違いない。
そんなシロキさんがこんなに弱っている時に、何もしてやらない極楽は何を考えているんだろう。
もしかしたら、作成者も俺と同じでシロキさんの悲しい顔や辛い顔を見て少し感動している節があるのではないか。いや、そんなのは俺だけか。
ナイトが戻って来て「何もなかったぞ」とガジエアを返した時、扉を叩く音がしてアドバンドが入って来た。
悪魔三人が集まったところで、シロキさんにこれから蜘蛛を助けた男の魂とトリプガイドを、水の地獄から人間の世界に戻すことを伝えた。
ナイトの緊張した様子とは裏腹に、シロキさんはゆっくり仰向けになって「そうなんだ」と言った。そしてうっとりした顔で続ける。
「金色の魂と海は相性が良さそうだね、僕も見てみたい」
俺はそれを見ているシロキさんを見てみたい。ところがナイトとアドバンドは同時に首を横に振りシロキさんを止めた。
「お前はカドとここにいろ」
「俺がシロキさんとここに残るよ。水の地獄へはナイトとシスに行ってもらおう」
「………」
シロキさんが黙ってしまった。しかし数秒後には顔を上げ、少し寂し気に笑いながら言った。
「そうだね、カドを置いて行こうなんて、僕は何を言ってるんだろう」
何て純粋で優しい神様なんだろう。自分の目が潤んでくるのを感じた。
ふとナイトが俺をじっと見ていることに気がつく。不審者を見る様な視線で少し傷ついた。あんまり熱心にシロキさんを見過ぎただろか。気をつけよう。
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